2024年08月14日
たく縄
うちはへて苦しきものは人目のみしのぶの浦の海人のたく縄(新古今和歌集)、
の、
たく縄、
は、
楮(こうぞ)の樹皮で作った縄、
をいう(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
うちはへて、
は、
長く、
引き続いて、
の意で、
たく縄の縁語、
とあり、
苦しき、
は、
たく縄の縁語「繰る」を掛ける、
とある(仝上)。
はへて、
は、
みしぶ(水渋)つき植ゑし山田にひたはへてまた袖濡らす秋は來にけり(新古今和歌集)、
と使われ、この、
ひた、
は、
引板、
で、
鳴子、
の意(仝上)、
はへて、
は、たぶん、
延へて、
とあて、
(引板の縄を)引いて延ばして、
の意(仝上)となる。
うち、
は、「打ち」で触れたように、接頭語として、動詞に冠して、
打ち見る、
のように、
瞬間的な動作であることを示す、
使い方の他に、多く、
打ち興ずる、
打ち続く、
のように、
その意を強め、またはその音調を整える、
という使い方をする(広辞苑)。この、
うちはへて、
は、
引き延ばす、
意を強調している。
たく縄、
は、
栲縄、
と当て、後世、
たぐなわ、
とも訓ませ、
楮(こうぞ)などの皮でより合わせた縄、
をいい、
海女(あま)が海中にはいる際の命綱などとして用いた、
とある(精選版日本国語大辞典)。
以千尋栲縄(たくなは)、結為百八十紉(神代紀)、
とあるように、
栲を綯へる縄、
である(大言海)。また、
栲縄の、
は、
栲縄(たくなは)の長き命を欲(ほ)りしくは絶えずて人を見まく欲(ほ)りこそ(万葉集)、
地(つち)の下(した)は、底津石根(そこついはね)に焼き凝らして、栲縄(タクナハ)の千尋縄(ちいろのなは)の打ち莚(むしろ)し(古事記)、
などと、
なが(長)、
ちひろ(千尋)、
に掛かる枕詞である(広辞苑)。
「栲」(コウ)は、
会意兼形声。「木+音符考(まがる)」で、くねくねと曲がった木、
とあり(漢字源)、「ぬるで」の意とある(仝上)。「栲栳(コウロウ)」というと、「竹とか柳の枝を曲げて編んで作った、物を入れる器具」とあり、我が国では、「たへ」と訓ませ、かじきなどの皮の繊維で織った白い布、転じて広く布をいい、「白栲(しろたへ)」「和栲(にぎたへ)」「粗栲(あらたへ)」などと使う。なお、「栲」の異体字は、
𣐊、
𣑥、
𣛖、
である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A0%B2)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95