わが上に露ぞ置くなる天の川門(と)渡る舟の櫂(かい)のしづくか(古今和歌集)、
の、
と、
は、
川や海が陸地に狭められて細くなっている所、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
と、
は、
戸、
門、
と当て、
ノミト(喉)・セト(瀬戸)・ミナト(港)のトに同じ、両側から迫っている狭い通路、また入口を狭くし、ふさいで内と外を隔てるもの、
とある(岩波古語辞典)。
己(おの)が命(を)を盗み死せむと後(しり)つ斗(ト)よい行き違(たが)ひ前つ斗(ト)よい行き違ひ(古事記)、
と、
出入り口、
の意で、
由良の斗(ト)の斗(ト)中の海石(いくり)に振れ立つ漬(なづ)の木のさやさや(古事記)、
と、
水の出入り口、
の意で(岩波古語辞典・広辞苑)、多く、
門、
を当て(精選版日本国語大辞典)、
河口や海などの、両岸が狭くなっている所、水流が出入りする所、
をいい、
瀬戸、
川門(かわと)、
水門(みと)、
という言い方もする。さらに、具体的に、
門(かど)立てて戸は閉(さ)したれど盗人の穿(ほ)れる穴より入りて見えけむ(万葉集)
と、
出入り口、窓に取りつけて開閉できるようにしたもの、
つまり、
扉、
戸、
の意でも使う。その語源は、
トムル(止)の義(国語本義)、
トヅル(閉)の義(箋注和名抄・日本語源=賀茂百樹)、
トホル(通)の義(日本釈名・名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
トホリグチ(通口)の下略(日本語原学=林甕臣)、
戸を建てれば殿となるところから、トノ(殿)の反(名語記)、
等々あるが、どうも、
通る道、
の意と、
閉ざす、
とに分かれている気がする。上述の、
両側から迫っている狭い通路、
また、
入口を狭くし、ふさいで内と外を隔てるもの、
とある(岩波古語辞典)のも、その意味でとらえると、漢字に当てるまでは、いずれも、
ト、
で、文字を持たず、状況依存型の言語である限り、しゃべっている当人(同士)には、何れのことを言っているのかがわかっていたはずである。その意味で、大言海が、
戸、
と当てる
ト、
と、
門、
と当てる、
ト、
を、別項に改めているのは見識なのではないか。
前者は、更に二つに分け、
處の義と云ふ、
として、
家の出入り口、
の意とし、和名類聚抄(931~38年)の、
戸、度、
を引き、いまひつ、
戸、
と当てる、
ト、
は、
止むる、又閉づる義、(日本)釈名「戸、所以謹護閉塞也、左伝、官公十二年、注「戸、止也」、
とし、
門、出入口、窓等に閉(た)て塞ぐもの、
の意とし、和名類聚抄の、
在城郭曰門、在屋堂曰戸、
を引く。
後者は、
自那良遇跛盲、自大坂戸、亦遇跛盲(古事記)、
と、
門(かど)、
出入りの口、
の意や、
由良の門(と)をわたる舟人楫をたえ行へも知らぬ恋の道かな(新古今和歌集)、
と、
海に出入りする戸口、
また、
水流の出入する處、
とし、
瀬戸、
水門(みと)、
水門(みなと)、
川門(かわと)、
の意で使うとする。
(「戸」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%88%B8より)
「戸」(漢音コ、呉音グ・ゴ)は、
象形。門は二枚扉の門を描いた象形文字。戸は、その左半分をとり、一枚扉の入口を描いたもので、かってに出入りしないようにふせぐ扉、
とある(漢字源)。
象形。門の片一方のとびらの形にかたどり、「と」、ひいて、戸口・小屋の意を表す(角川新字源)、
ともある。
(「門」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%96%80より)
「門」(漢音ボン、呉音モン)は、「押立門」で触れたように、
象形。左右二枚の扉を設けたもんの姿を描いたもので、やっと出入りできる程度に、狭く閉じている意を含む、
とある(漢字源)が、別に、
会意。回転して開閉する二つの戸(=戶。とびら)が向かい合って立っているさまにより、出入り口の意を表す、
ともある(角川新字源)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95