2024年08月27日
雨衣(あまごろも)
難波潟(なにはがた)潮満ちくらし雨衣(あまごろも)田蓑(たみの)の島に鶴(たづ)鳴き渡る(古今和歌集)、
の、
雨衣、
は、
雨具の連想で蓑にかかる枕詞、
とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、
海を詠んだ歌なので、「海人衣」という連想もある、
とある(仝上)。
海人衣(あまごろも)、
は、
言問はん野島が崎の海人衣浪と月とにいかがしをるる(新古今和歌集)、
と、
海人(漁師等)の着る衣服、
である(広辞苑)。
雨衣、
は、
雨衣(あまぎぬ)、
に同じ(広辞苑)で、
雨衣(あまごろも)、
は、
蓑、田蓑(たみの)にかかる枕詞である(広辞苑)。
雨衣(あまぎぬ)、
は、
装束の上に着て、雨雪を防ぐ衣、
で、
表に油を引いた白絹でつくる、
とある(仝上)。和名類聚抄(931~38年)に、
雨衣、阿万岐沼(あまぎぬ)、一云、油衣、
とある。左伝(春秋左伝、魯の歴史を記載する編年体の史書)哀公廿七年に、
成子衣製、
の注記に、
製、雨具也、
とある(大言海)。
「製」(漢音セイ、呉音セ)は、
会意兼形声。制(セイ)は、「木の枝+/印(断ち切る)+刀」の会意文字で、途中で枝を切り取ること。製は「衣+音符制」で、布地を截ち切ること、
とあり(漢字源)、「裁」と意味が近い、とある(仝上)。別に、
会意形声。衣と、制(セイ)(きりそろえる)とから成り、衣を切りそろえる意を表す。ひいて、「つくる」意に用いる(角川新字源)、
会意兼形声文字です(制+衣)。「枝のかさなる木と刀の象形」(「木をそぎ整える」の意味)と「衣服のえりもと」の象形から、「衣服を裁ち(切り)つくる」を意味する「製」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji849.html)、
ともあるが同趣旨で、「左伝」襄公十一年に、
雖有美錦、不使學製焉、
とあるように、
服を仕立てる、
意だが、上記のように、
雨具、
の意もある(字源)。なお、
雨衣、
を、
うい、
と訓ませると、
自翦青莎織雨衣(許渾・村舎)、
と、
蓑などの雨具、
を指す(字源)。
雨衣(あまぎぬ)、
を着用したのは貴族たちだが、庶民は、水を吸うと膨張し、乾燥すると縮む植物の性質を利用した、
蓑、
笠、
を用い、修験者は、
油紙製の雨皮(あまかわ)、
を用いた(世界大百科事典)。雨皮は、
油単(ゆたん)、
とも呼ばれ、牛車や輿にも掛けられた(仝上)とある。
「雨」(ウ)は、「雨乞い」で触れたように、
象形。天から雨の降るさまを描いたもので、上から地表を覆って降る雨、
とある(漢字源)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95