2024年08月28日

よそふ


面影の忘れぬ人によそへつつ入るをぞ慕ふ秋の夜の月(新古今和歌集)、

の、

よそふ、

は、

比ふ、
寄ふ、

と当て、

なぞらえる、

意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』・広辞苑)。

下二段活用の、

よそふ、

は、

ヨシ(寄)ソフ(添)の約か。甲を乙に引き寄せて並べ、両者を関係があるとする意。類義語ナズラフは、別のものである甲と乙の資格が同等であるとして、二つを同一視する意(岩波古語辞典)、
寄すの延(大言海)、
下二段活用の動詞「よす(寄)」に、反復・継続の接尾語「ふ」の付いたものか。また、古い四段活用の動詞「よす(寄)」からの派生か。一説に「寄し添ふ」からとも(精選版日本国語大辞典)、

などとあり、

寄す、

は、

ヨシ(由)と同根、

で(岩波古語辞典)、

物の本質や根本に近寄せ、関係づけるものの意、つまり、口実・かこつけ・手がかり・伝聞した事情・体裁などの意。類義語ユエ(故)は、物事の本質的・根本的な深い原因・理由・事情・由来の意、

とある(仝上)。

言寄せる、
事寄せる、

という言い方の、

寄せる、

と同じく、

何かに託す、

という含意で、

準える、

が、

直接的にそれを比較するのに対して、

なつかしうらうたげなりしを思し出づるに、花鳥の色にも、音にも、よそうべき方ぞなき(源氏物語)、

と、

指すことをあらはに言はず、他事に託す、寄せ比ぶ、

という意味になる(大言海)この

よそふ、

の、下一段活用が、

比へ(え)る、
寄へ(え)る、

と当てる、

よそえる、

で、やはり、

ヨシ(寄)ソフ(添)の約、

で(広辞苑)、

ふじのけぶりによそへて人をこひ(古今和歌集仮名序)、

と、

ある物を何かに似ていると見立てる、
なぞらえる、
擬する、
たとえる、

意や、

争へば神も悪(にく)ますよしゑやし世副流(よそふル)君が憎くあらなくに(万葉集)、

と、

関係があるとする、
かかわりがあるとする、

意と、

思ふどちひとりひとりが恋ひ死なばたれによそへてふぢ(藤)衣きん(古今和歌集)、

と、

ことよせる、
かこつける、
口実にする、

意で使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・広辞苑)。

何かに仮託する、

という意味では、

かこつける、
も、
準える、
も、

ほぼ同義にはなるが、両者に、

こじつけ感が増す、

ほど、「なぞらえる」が「口実」に変じていくことになる。なお、ハ行下二段活用の

よそふ、

は、室町時代ごろから、

よそゆ(寄ゆ)

と転化し、多くの場合、終止形は、

よそゆる、

の形をとる(日葡辞書)とある(精選版日本国語大辞典)。

「寄」.gif

(「寄」 https://kakijun.jp/page/1134200.htmlより)

「寄」(キ)は、

会意兼形声。奇は「大(ひと)+音符可」の会意兼形声文字で、からだが一方にかたよった足の不自由な人、平均を欠いて、片方による意を含む。踦(キ)の原字。寄は「宀(いえ)+音符奇」で、たよりとする家のほうにかたより、よりかかること、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(宀+奇)。「屋根(家屋)」の象形と「両手両足を広げて立つ人の象形と口の象形と口の奥の象形」(口と口の奥の象形で「かぎがたに曲がる」の意味を持つ為、「身体を曲げて立つ人」の意味を表す)から、つりあいが保てず片方の家屋の下に身をよせる事を意味し、そこから、「よせる」を意味する「寄」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji859.htmlが、

形声。「宀」+音符「奇 /*KAJ/」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%84

形声。宀と、音符奇(キ)とから成る。身をよせる意を表す(角川新字源)、

と、形声文字とする説もある。

「添」.gif


「添」(テン)は、

会意兼形声。忝(テン)は「心+音符天」の形声文字。天で忝の音をあらわしたのは、厳密ではない。忝はかみのように薄い心のことで、平気でばいられない「かたじけない」気持ちのこと。薄く平らな意を含む。添は「水+音符忝」で、薄く紙をはりつけるようのに、上に水の層を加えること、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です。「流れる水」の象形と「人の頭部を大きく強調した象形と心臓の象形」(「天に対するときの心」の意味)から、天に対して心が「そう」を意味する「添」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1087.htmlが、

形声。水と、音符忝(テム)とから成る。もと、沾(テム)の俗字であるが、特に「そえる」意に用いる、

と(角川新字源)、形声文字とする説もある。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:39| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする