隠れ沼(ぬ)の下よりおふるねぬなはの寝ぬ名は立てじくるないとひそ(古今和歌集)、
の、
ねぬなは、
は、
根蓴、
と当て、
蓴菜(ジュンサイ)、
の意(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、
寝ぬ名は立てじ、
の
寝ぬ名、
は、
共寝をしていないという噂、
で、
共寝をしていないという噂を立てるまい、ということは、共寝をしているという噂が立ってもいいようにしておく、
ということ、
寝ぬ名は、
は、
ねぬなは、
の繰り返しにもなっている、とある(仝上)。また、
くる、
は、
來ると繰るの掛詞。蓴菜は根が長いので、「繰る」が連想される、
とある(仝上)。
ねぬなは(ねぬなわ)、
は、
聖の好むもの、……松茸平茸滑薄(なめすすき)、さては池に宿る蓮の這根、芹根蓴菜(ぬなは)牛蒡河骨うち蕨土筆(梁塵秘抄)、
と、
根蓴菜、
と当て、
じゅんさい(蓴菜)の古名(デジタル大辞泉・広辞苑)、
とも、
じゅんさい(蓴菜)の異名(精選版日本国語大辞典)、
ともある。
根が長くのびるるから、
その名がある(広辞苑)という。
ぬなは(ぬなわ)、
は、
沼縄、
蓴、
と当て、
じゅんさい(蓴菜)の古名(精選版日本国語大辞典・大言海)、
じゅんさい(蓴菜)の別名(広辞苑)、
と、
根、
を強調した、
根の長く延ふに就きて云ふ(大言海)、
ねぬなは、
と、
ぬなは、
は同じである。和名類聚抄(931~38年)に、
蓴、沼奈波、
本草和名(ほんぞうわみょう)(918年編纂)に、
蓴、奴奈波、
字鏡(平安後期頃)に、
蓴、奴奈波、
等々とある。この由来は、
滑之葉(ぬるのは)の義、或は滑縄(ぬなは)と云ふ(大言海)、
ヌナワは沼なわの意味で、沼に生え、葉柄があたかも縄のようであるから(牧野富太郎)、
ねぬ縄という、根をとるといくらでも縄のようなものが出るから(関秘録)、
蓴菜ということばが、ぬらりくらりしている意にも用いられるように、ぬるぬるしているのが特徴で、ぬるぬるした縄、ヌルナワがヌナワとなった(たべもの語源辞典=清水桂一)、
ヌナハ(滑菜葉)の義(古今要覧稿)、
ヌネバハ(滑沼葉)の義、またナエナユハ(萎滑葉)の義(日本語原学=林甕臣)、
ヌナハ(滑縄)の義(東雅・日本声母伝・名言通)、
ヌナハ(沼縄)の義(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・日本紀和歌略註・雅言考・和訓栞)、
ヌナハ(泥縄)の義(言元梯)、
「ヌ」は「ぬめらか」、「ナ」は「菜」、「ハ」は「葉」を意味する(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%82%A4)、
等々とあるが、どうも、
ヌナハ(滑縄)、
ヌナハ(沼縄)、
ヌナハ(泥縄)、
ヌナハ(滑菜葉)、
等々、その、
ぬるぬるした感触、
からあれこれ考えている気配で、
ぬるぬるした縄、
か、
ぬるぬるした葉(菜)、
といったところに落ち着くのではないか。
蓴菜(じゅんさい)、
は、
純菜、
順才、
と当てたりする(デジタル大辞泉)が、
ヌナワ、
ミズドコロ、
等々とも呼ばれる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%82%A4)。
スイレン目ハゴロモモ科(旧スイレン科)属する多年生の水草。本種のみでジュンサイ属 (学名: Brasenia) を構成する、
とあり(仝上・広辞苑)。日本各地の池沼に自生し、
地下茎は泥中を伸び、節ごとに根をおろす。葉は楕円状楯形、長さ五~一〇センチメートル、長い葉柄で水面に浮かぶ。茎と葉の背面には寒天様の粘液を分泌し、新葉には特に多く、若芽・若葉を食用とする、
とある(仝上・精選版日本国語大辞典)が、
巻葉になっている新しい葉で、水中にある時が良く、水面に浮かぶようになると堅くて食べられない、
とある(たべもの語源辞典)。中国植物名は、
蓴菜、
もしくは、
蓴、
で、和名であるジュンサイの名は、漢名の「蓴(チュン)」がなまった「ジュン」に、食用草本を意味する「菜(サイ)」をつけたものに由来するとされる、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%82%A4)が、
蓴(ヌナワ)を音読みしたものがジュンであり、ジュンサイは菜をつけて、
蓴菜、
の、
ヌナワ、
を音読みした(たべもの語源辞典)という流れになる。
(じゅんさい デジタル大辞泉より)
なお、
根蓴菜(ねぬなわ)の、
は、
おもひのみますだのいけのねぬなはのくるしやかかるこひのみだれよ(能宣集)、
と、
根の長い蓴菜(じゅんさい)を繰(く)って取る意で、「繰る」と同音の「来る」、「苦し」にかかる、
ほか、
冒頭の歌のように、
ジュンサイの根が長いところから、「長き」「くる」「ね」などに掛かる、
枕詞として使われる。
「蓴」(漢音シュン、呉音ジュン)は、
形声。「艸+音符専」
とあり(漢字源)、蓴菜の意である。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95