2024年09月06日

くれ(榑)


花咲かぬ朽木の杣(そま)の杣人のいかなるくれに思ひ出づらむ(新古今和歌集)、

の、

くれ、

は、

榑、

と当て、

皮付きの木材、また屋根を葺く板、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

朽木(くちき)の杣、

の、

朽木、

は、

近江国の枕詞、ここでは、自身の隠喩、

とあり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、

杣、

は、

材木をを伐り出す山、または、大きい建造物の用材を確保するために所有する山林、

をいう(広辞苑)が、ここでは、その、

杣山の木、

または、

杣山から伐り出した材木、

つまり、

そまぎ(杣木)、

をいう(仝上)。

くれ、

は、

榑と暮れの掛詞、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

榑、

は、

山出しの板材、

をいい、

買檜久礼一千二百八十枚(正倉院文書天平六年(734)五月一日・造仏所作物帳)、

とか、

水の面の間もなく筏(いかだ)をさして、多くのくれ、材木を持て運び(栄花物語)、

等々とあり、平安時代の貢納品、あるいは商品としての規格は、延暦一〇年(七九一)の「太政官符」に、

長さ一丈二尺(約三・六メートル)、幅六寸(約一八センチメートル)、厚さ四寸(約一二センチメートル)、

とし、

「吾妻鏡」は、

長さ八尺(約二・四メートル)、

としている(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。この、

榑、

は、

くれ木と云ふが成語なるべし、即ち、黒木の転(黑(くろ)、皂皮(クリカハ)、皂革(クレカハ))、大嘗祭儀「正殿一宇、構以黒木」(大言海)、

とする(「皂」(ソウ)は、どんぐり・くぬぎなどの木の実、煮汁が黒い染料になるので、黒い、黒色)。他に、

クレウ(公料)の約という(類聚名物考)、
キシ(木斷)の義(和訓栞)、

等々の説もあるが、用例から見れば、

黒木、

なのではなかろうか。つまり、

杣山より伐り出したる皮ながらの材木、黒木。大小の丸木、丸太、

とある(大言海)。江戸後期の注釈書『箋注和名抄』には、

榑、久禮、

とあり、(延喜式の)内匠寮式には、

椙榑、大七十五材、

と載る。この用が転じて、

次の日、榑(クレ)や召すと云て、馬に付て来りける(「米沢本沙石集(1283)」)、

と、

木を剥ぎて薄板とし、板屋根を葺くもの、

つまり、

そぎ、
へぎいた、
こけら
くれぎ、

の意となり(大言海・精選版日本国語大辞典)、さらに転じて、

薪(たきぎ)、

の意となり、

丸太を四つ割にして、心材を取り去ったもの、

をいい、

断面は扇形となる。三方三寸、腹二寸四分というように定めている。地方により寸法を若干異にし、また六つ割、八つ割のこともある、

とある(仝上)。今日では、

丸太を製材して残った端の板、背板(せいた)、

を、

榑木、

という(仝上)。

「榑」.gif


「榑」(漢音フ、呉音ブ)は、

会意兼形声。「木+音符尃(フ・ハク 大きく広がる)」で、枝の広がった木、

とある(漢字源)。我が国では、

皮のついたままの丸木、

の意で使うが、

榑桑(フソウ)、

は、

扶桑、

とも当て、

太陽の出る所にあるといわれる神木、

をいう(仝上)。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
戸川芳郎監修『漢辞海』(三省堂)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:くれ(榑)
posted by Toshi at 04:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする