べらなり

風吹けば波越す磯の磯馴(そなれ)松ねにあらわれて泣きぬべらなり(古今和歌集)、 見てもまたまたも見まくのほしければなるるを人はいとふべらなり(仝上)、 の、 べらなり、 は、 助動詞「べし」の語幹「べ」に接続辞(接尾語)「ら」が接し、さらに指定の助動詞「なり」の接続したもの、平安初期には訓点語として用いられ、中期には歌語として盛んに用いられた、 とあり(広辞苑…

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二乗の人

そのかみの玉のかづらをうち返し今は衣の裏をたのまむ(東三條院) の、 衣の裏、 は、 法華経巻第四・五百弟子受記品第八に説く、衣裏繋珠(えりけいじゅ)の譬喩(酔い臥していたために、親友が衣服の裏に宝珠を付けてくれたのも知らず、苦労を重ねたのち、その友に逢って宝珠の存在を告げられた人のように、二乗の人は仏が教化したことを無知ゆえに悟らず、しかも悟ったと考えていたこと)を…

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ひたぶる

憂しといひて世をひたぶるに背かねば物思ひ知らぬ身とやなりなむ(新古今和歌集) の、 ひたぶる、 は、 頓、 一向、 とあて、 一途なさま、 を言い、 もっぱら、 ひたすら、 すっかり、 といった意味である(広辞苑)。古くは、 「ひたふる」か、 ともある(精選版日本国語大辞典)。 態度が一途で、しゃにむに積極的に、あ…

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例ならず

かくしつつ夕べの雲となりもせばあはれかけても誰か偲ばむ(周防内侍) の詞書に、 例ならで太秦に籠りて侍りけるに、心細く覚えければ、 とある、 例ならで、 は、 病気になって、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 例ならず、 の、 ず、 は、 ず・ず・ぬ・ね、 と活用し、 動詞・助動詞の未然形を承けて、承…

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真木

さびしさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮れ(新古今和歌集)、 の、 真木、 は。 杉や檜などの常緑針葉樹、 で、 真木立つ、 は、萬葉集に、 み吉野の真木立つ山ゆ見降(おろ)せば川の瀬ごとに明(あ)け来れば、 と、 しばしば見える句、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 真木、 は、 ま、 …

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もろかづら

見ればまづいとどいとど涙ぞもろかづらいかに契りてかけ離れけむ(鴨長明)、 の、 もろかづら、 は、 桂の枝に賀茂葵を付けた鬘、また、賀茂葵そのものをもいう、 とあり、ここでは、 その意で形容詞「もろき」を掛ける、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 かけ離れけむ、 の、 「かけ」は「かづら」の縁語、 とあり、 源氏…

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しきみ

しきみ摘む山路の露に濡れにけり暁おきの墨染の袖(小侍従) の、 しきみ、 は、 モクレン科の常緑低木、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。『和名類聚抄』(931~38年)木類に、 樒、之岐美、香木也、 同『和名類聚抄』木類に、 莽草、之木美、可以毒魚者也、 『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918年編纂)にも、 莽草、之岐美乃…

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もどく

永らへて生きるをいかにもどかまし憂き身のほどをよそに思はば(源師光) の、 もどかまし、 は、 もどく、 の未然形に、 (とてもかなわぬことだが)もし……だったら……だろう、 の意の助動詞、 まし、 が付いた形で(広辞苑)、 生き永らえていることをどんなに非難することだろうか、もしつらい私の身分を他人事だとおもったならば、 と…

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まうし

なさけありし昔のみなほ偲ばれて永らへまうき世にも経(ふ)るかな(西行法師) の、 永らへまうき、 の、 まうき、 は、 ま憂き、 で、 まほしき、 の反対(久保田淳訳注『新古今和歌集』)とある。 まうし、 は、 推量の助動詞ムのク語法マクにウシ(憂)のついたマクウシの音便形か(岩波古語辞典)、 推量の助動詞「む」の未然…

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片そぎ

わが恋は千木(ちぎ)の片そぎかたくのみゆきあはで年のつもりぬるかな(大炊御門右大臣)、 夜や寒き衣やうすき片そぎの行合ひの間より霜やおくらむ(住吉御歌)、 の、 片そぎ、 は、 千木(棟で交叉して高く突き出ている社殿の両端の材)の片端を縦に切り落としてあること、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 千木、 については触れたが、「千木」は、 …

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玉依姫

白波に玉依姫(多万余理毗咩 たまよりひめ)の来(こ)しことはなぎさ(渚)やつひに泊りなりけむ(大江千古)、 の、 玉依姫、 は、 海神の娘。豊玉姫の妹で、神武天皇の母、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 玉依姫、 は、 たまよりひめ、 と訓むが、古くは、 たまよりびめ、 と訓まし(精選版日本国語大辞典)、 記紀神…

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賀茂社の午日

大和かも海のあらしの西吹かばいづれの浦にみ舟つながむ(三統理平)、 に、 賀茂社の午日(うまのひ)唱(うた)ひ侍るなる歌、 とある、 賀茂社の午日、 とは、 賀茂祭は四月、酉の日に行われるが、「午日」は、その前日の午の日、この日、齋院の御禊(ごけい)が行われる、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。「齋院」については「齋院」、「返さの日」で触れた…

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賀茂の臨時祭

臨時祭をよめる、 とある、 宮人の摺れる衣にゆふだすき掛けて心を誰に寄すらむ(紀貫之)、 の、 摺れる衣、 は、 山藍で摺り模様を付けた小忌衣(をみごろも)、 のことで、 ゆふだすき、 は、 神事にかけるたすき、 で、 山藍摺りの小忌衣に木綿襷(ゆふだすき)を掛け、 と注釈される(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 …

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九十九王子

立ち昇る塩屋のけぶり浦風になびくを神の心ともがな(徳大寺左大臣)、 の、 詞書に、 白河院熊野に詣で給へりける御供の人々、塩屋の王子にて歌よみ侍りけるに、 とある、 塩屋の王子、 は、 熊野九十九王子(くじゅうくおうじ)の一つ、 で、 紀伊国、現在の和歌山県御坊市塩屋町北塩屋にある、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 …

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長押(なげし)

岩代の神は知るらむしるべせよ頼む憂き世の夢の行末(読人しらず)、 の詞書に、 熊野へ詣で侍りしに、岩代王子に人々の名など書き付けさせてしばし侍りしに、拝殿の長押に書き付けて侍りし歌、 とある、 岩代王子、 は、 熊野九十九王子の一つ、紀伊国、現在の和歌山県日高郡みなべ町西岩代野添にある、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。九十九王子については触…

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奉幣使

住よしと思ひし宿は荒れにけり神のしるしを待つとせしまに(津守有基)、 の詞書に、 奉幣使にて住吉にまゐりて、昔住みける所の荒れたりけるを見てよみ侍りける、 とある、 奉幣使、 は、 勅命によって、神社や山稜に幣(ぬさ)を奉る使者、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 奉幣、 は、 ほうへい、 とも、 ほうべい、 …

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させも草

なほ頼めしめぢが原のさせも草わが世の中にあらむ限りは(新古今和歌集)、 の、 しめぢが原、 は、 標茅原、 と当て、 今の栃木市北部から都賀(つが)町にかけてひろがる野、 で(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、 下野国の枕詞、 とされる(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 させも草、 は、 もぐさ、 の意とあり(仝上)…

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みそぎ

禊(みそぎ)する川の瀬見れば唐衣日もゆふぐれに波ぞ立ちける(紀貫之) の、 唐衣、 は、 衣の美称、 とあり、 「紐」などの枕詞「紐ゆふ」に「日も夕」を掛ける、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 唐衣、 で触れたように、本来、 中国風の衣服、 の意だが、転じて、 めずらしく美しい衣服、 をいうこともある(広…

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小夜衣

さらぬだに重きが上の小夜衣(さよごろも)わがつまならぬつまな重ねそ(寂然法師) は、 釈教歌、 のひとつで、 十重禁戒、 の第三、 不邪婬戒、 を詠い、 わがつまならぬつま、 で、 「つま」は、夫または妻の意の「つま」に、「衣」の縁語「褄」を掛けた、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。両者の関係については、「つま」で触れ…

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如是報

うきを猶むかしの故と思はずばいかにこの世を恨みはてまし(二條院讚岐) の、 詞書に、 入道前關白家に、十如是歌よませ侍けるに、如是報、 とある、 如是報、 は、 十如是(じゅうにょぜ)、 の一つ、 今生の善悪の業因に報い、未来の苦楽の果を受けることを言う、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。この、 十如是、 は、法…

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