2024年10月11日
玉依姫
白波に玉依姫(多万余理毗咩 たまよりひめ)の来(こ)しことはなぎさ(渚)やつひに泊りなりけむ(大江千古)、
の、
玉依姫、
は、
海神の娘。豊玉姫の妹で、神武天皇の母、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
玉依姫、
は、
たまよりひめ、
と訓むが、古くは、
たまよりびめ、
と訓まし(精選版日本国語大辞典)、
記紀神話で、海の神、綿津海(わたつみ)神の女(むすめ)、姉の豊玉姫が天孫彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)の子彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)を産み落として去った後、其の子を養育した。その後、育てた彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊と結婚して、神日本磐余彦尊(かむやまといわれびこのみこと 神武天皇)を含む四人の男子を産んだとされる、
とも、
『山城国風土記』逸文にみえる女神。神武天皇の先導をしたと伝える賀茂建角命(かもたけつのみのみこと)の女、丹塗矢(にぬりや)と化して瀬見の小川を流れ下ってきた火電神(ほのいかずちのみこと)との間に、賀茂別雷命(可茂別雷命 かもわけいかずちのみこと 賀茂氏の祖神)を生んだ、
ともあり(広辞苑・精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)、固有名詞のように扱われているが、
「たま」は魂、「より」は憑依する、
意の(精選版日本国語大辞典)普通名詞で、
身に神霊を宿す女の通称(広辞苑)、
神霊が依り憑(つ)く女性(精選版日本国語大辞典)、
で、いわゆる、、
巫女、
である(広辞苑)。巫女の本来的な役目は、
神を迎えることであり、ときにその滞在の間、妻となって神の子を宿す役割を果たす、
とされ、
玉依姫の話はまさにそのような巫女のありようが神話的に構成されたものである、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
海幸山幸神話の主人公火遠理(ほおり)命の妻となった豊玉姫(とよたまひめ)、
狭井(さい)河のほとりで神武天皇のおとないをうけた伊須気余理比売(いすけよりひめ)、
毎夜訪れる見知らぬ若者(大物主(おおものぬし)神)によってみごもり、三輪氏の祖を生んだとされる活玉依媛(いくたまよりひめ)、
下鴨の御祖神社の祭神で上賀茂の別雷命の御母であったという多々須玉依比売(たたすたまよりひめ)、
等々、名は違うがいずれも、
タマヨリヒメ、
にほかならない(世界大百科事典)。祭儀の際、
神降臨の秘儀に立ち会う巫女が、神話的には神に感精してその子を生む母として形象化されたものである、
とされ(仝上・朝日日本歴史人物事典)、古代の巫女はなべて、
タマヨリヒメ、
であった(仝上)。このため、
玉依姫を祀った神社が地方にも多くある、
ことになる(日本伝奇伝説大辞典)。
なお、柳田國男『妹の力』に、「玉依姫考」がある。
「依」(漢音イ、呉音エ)は、
会意兼形声。衣は、両脇と後ろの三方から首を隠す衿(えり)を描いた象形文字。依は「人+音符衣(イ)」で、何かのかげをたよりにして、姿を隠すの意を含む。のち、もっぱらたよりにする意に傾いた、
とあり(漢字源)、
会意兼形声文字です(人+衣)。「横から見た人」の象形と「衣服のえりもと」の象形から、人にまとわりつく衣服を意味し、そこから、「よる」、「もたれかかる」を意味する「依」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1101.html)。しかし、
会意文字として解釈する説(白川静)があるが、これは誤った分析である、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BE%9D)、
形声。「人」+音符「衣 /*ɁƏJ/」[字源 1]。「よる」を意味する漢語{依 /*ʔəj/}を表す字(仝上)、
形声。人と、音符衣(イ)とから成る。「よる」意を表す(角川新字源)、
と、形声文字とする。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95