2024年10月17日
させも草
なほ頼めしめぢが原のさせも草わが世の中にあらむ限りは(新古今和歌集)、
の、
しめぢが原、
は、
標茅原、
と当て、
今の栃木市北部から都賀(つが)町にかけてひろがる野、
で(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、
下野国の枕詞、
とされる(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
させも草、
は、
もぐさ、
の意とあり(仝上)、
指焼草、
指艾、
と当て、
さしも草、
に同じとあり(広辞苑)、
ヨモギの異称、
とあり、さらに、上記歌は、
何か思ふ何をか歎く世の中はただ朝顔の花の上の露、
とともに、新古今和歌集の釋教歌として、
清水観音御歌、
とされているので、
観世音菩薩に救われるべき一切衆生をたとえて言う語、
ともされている(広辞苑)。
「よもぎ」で触れたように、
よもぎ、
は、古く、
させもぐさ、
つくろひぐさ、
えもぎ、
させも、
等々といった(たべもの語源辞典)。「させもぐさ」は、
さしもぐさ(指焼草・指艾)の転(岩波古語辞典)、
サセモグサと云ふは、音轉なり(現身、うつせみ)、サセモとのみ云ふは、下略なり(菰筵、薦)(大言海)、
である。「さしもぐさ」は、
夫木抄「指燃草」、注燃草の義、注(さ)すとは、点火(ひつ)くること(灸をすうるを、灸をさすと云ふ…)、モは燃(も)すの語根、燈(とも)すの、モスなり、此のモグサは、即ち艾(もぐさ)にて、灸治する料とす(大言海)、
サシは灸をすえるの意である(たべもの語源辞典)、
とある。で、
さしもぐさ、
の由来は、
サシモシグサ(指然草)の義。サス(注)は点火(ヒツ)くること(灸をさすと云ふ)、モは、燃(も)すの語根、燈(とも)すの、モスなり(大言海)、
サシは接頭語、モグサは燃え草の意(角川古語大辞典)、
夫木抄に「指燃草」とあるところから、サシモヤシ草の義か、また、艾の意で、サシは美称(和訓栞)、
刺艾の義(名言通)、
等々とあるが、古来、
単に雑草をさすとする説、
と、
艾(蓬)の異名とする説、
が対立していた(日本語源大辞典)が、和歌において、平安中期以降、
「もぐさ」の縁語として、「燃ゆる」「思ひ」(火をかける)、「こがす」がみられ、典型的な歌語とされるところから、今では、伊吹山を名産地とする蓬の異名とする説が定着している、
とある(仝上)。
伊吹もぐさ、
は、
短小で香気が高い、
とされ、伊吹山は艾の山地とされる(たべもの語源辞典)。
ところで、大言海は、「よもぎ」を、
艾、
蓬、
とそれぞれ当てる漢字毎に、二項別に立てている。
よもぎ(艾)、
は、
善燃草(よもぎ)の義、
とし、
草の名。山野に自生す。茎、直立して白く、高さ四五尺、葉は分かれて五尖をなし、面、深緑にして、背に白毛あり。若葉は餅に和して食ふべし(餅草の名もあり)。秋、葉の間に穂を出して、細花を開く。實、累々として枝に盈つ。草の背の白毛を採りて、艾(もぐさ)に製し、又印肉を作る料ともす。やきくさ。やいぐさ。倭名抄「蓬、一名蓽、艾也。與毛木」、本草和名「艾葉、一名醫草、與毛岐」、
と記す。ほぼ、いわゆる「よもぎ」の意である。しかし、
よもぎ(蓬)、
の項では、
葉は、柳に似て、微毛あり、故に、ヤナギヨモギの名もあり。夏の初、茎を出すこと一二尺、茎の梢に、枝を分かちて、十數の花、集まりつく。形、キツネアザミの花に似て、小さくして淡黄なり。後に絮(わた)となりて飛ぶ。ウタヨモギ。字類抄「蓬、ヨモキ」、
とする。
日本では一般的な「よもぎ」は、
ヨモギArtemisia princes Pamp.〔分布〕本州・四国・九州・小笠原・朝鮮
ニシヨモギArtemisia indica Willd.〔分布〕本州(関東地方以西)・九州・琉球・台湾・中国・東南アジア・印度
オオヨモギArtemisia montana (Nakai) Pamp.〔分布〕本州(近畿地方以北)・北海道・樺太・南千島
の三種という(http://square.umin.ac.jp/mayanagi/students/03/kamiya.htm)。日本だけでも30種あるが、この3種は植物学の分類上かなり近縁の種で、
日本全国で一般に『ヨモギ』と呼ばれている植物はこの3種のうちいずれかということになろう、
というし、
別名は、春に若芽を摘んで餅に入れることからモチグサ(餅草)とよく呼ばれていて、また葉裏の毛を集めて灸に用いることから、ヤイトグサの別名でも呼ばれている。ほかに、地方によりエモギ、サシモグサ(さしも草)、サセモグサ、サセモ、タレハグサ(垂れ葉草)、モグサ、ヤキクサ(焼き草)、ヤイグサ(焼い草)の方言名がある、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%A2%E3%82%AE)、一般には、区別しているようには見えない。しかし、
蓬(よもぎ)は、葉は柳に似て微毛があるのでヤナギヨモギと呼ばれる。淡黄の小さい花をつけ、後に絮(わた)になって飛ぶ。ウタヨモギともいい、艾(よもぎ)とは違った植物である、
とある(たべもの語源辞典)。大言海の見識である。
「よもぎ」の漢字表記は、
現在日本において、ヨモギは漢字で「蓬」と書くのが一般的だが、中国語でヨモギは「艾」あるいは「艾蒿」である。(中略)艾は日本で「もぐさ」と訓じる。もぐさはヨモギから作られるから、そのこと自体は何ら問題ではない。だが、蓬をヨモギとするのは誤りである、という説が現在では一般的のようだ、
とある(http://square.umin.ac.jp/mayanagi/students/03/kamiya.htm)。ちなみに、「蓬(ほう)」で触れたように、
よもぎ(艾)、
の由来は、
善燃草(よもぎ)の義(大言海)、
ヨモキ(彌燃草)の義(言元梯)、
ヨはヨクの義、モはモユルの義、キは木の義(和句解)、
ヨクモエグサ(佳萌草)の義(日本語原学=林甕臣)、
弥茂く生える草の意(日本語源=賀茂百樹)、
ヨリモヤシキ(捻燃草)の義、灸に用いるところから、生は草の意(名言通)、
等々とされ、その使用法からきている。
本州・四国。九州の山野にある多年草で、春に新葉をとって草餅の材料にする。モチグサと呼ぶ。よく乾いた葉を揉むと葉肉は粉になって葉の裏の白い綿毛が残るから、これを集めて灸のモグサともする(たべもの語源辞典)、
山野に自生す。茎、直立して白く、高さ四五尺、葉は分かれて五尖をなし、面、深緑にして、背に白毛あり。若葉は餅に和して食ふべし(餅草の名もあり)。秋、葉の間に穂を出して、細花を開く。實、累々として枝に盈つ。草の背の白毛を採りて、艾(もぐさ)に製し、又印肉を作る料ともす。やきくさ。やいぐさ(大言海)、
などとあり、
モグサ、
は、
モエグサ(燃草)の略、
であり(仝上)、
ヤイトグサ、
の別名あり、地方により、
エモギ、
サシモグサ(さしも草)、
サセモグサ、
サセモ、
タレハグサ(垂れ葉草)、
ヤキクサ(焼き草)、
ヤイグサ(焼い草)、
などの方言名がある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%A2%E3%82%AE)。
「艾」(ガイ、呉音ゲイ)は、
会意兼形声。「艸+音符乂(ガイ、ゲ ハサミで刈り取る)」、
とあり、よもぎ、もぐさの意である(漢字源)。字源には、
よもぎ(醫草)、
と載る。
「蓬」(漢音ホウ、呉音ブ)は、
会意兼形声。「艸+音符逢(△型にであう)」で、穂が三角形になった草、
とあり(漢字源)、
よもぎ(艾)の一種、
とある(字源)。「蓬(ほう)」で触れたように、
葉は一尺ばかり、柳に似て細長く、周囲は細かい鋸状である。淡黄の小さい花を着け、後に絮(わた)になって飛ぶ。冬に枯れると根が切れ、茎や枝部は風に吹かれて球状にまとまって地面を転がる(漢辞海・字源)、
葉は、柳に似て、微毛あり、故に、ヤナギヨモギの名もあり。夏の初、茎を出すこと一二尺、茎の梢に、枝を分かちて、十數の花、集まりつく。形、キツネアザミの花に似て、小さくして淡黄なり。後に絮(わた)となりた飛ぶ。ウタヨモギ。字類抄「蓬、ヨモキ」(大言海)、
などとあり、
よもぎ(艾)とは違った植物、
である(たべもの語源辞典)。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95