濡れて干す玉串の葉の霜露に天照る光幾代へぬらむ(摂政太政大臣)、
神風や玉串の葉を取りかざし内外(うちと)の宮に君をこそ祈れ(俊恵法師)、
の、
玉串、
は、
伊勢神宮で榊のことをいう、
とあり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、
榊の異称、
であるが、
五百箇(いおつ)真坂樹(まさかき)の八十玉籤(やそたまくし)を採らせ(日本書紀)、
と、
榊の枝に木綿(ゆう)または紙をつけて神前に捧げるのに用いるもの、
の意とある(広辞苑)。これが転じて、
榊、
の意となった(岩波古語辞典)もののようである。また、
玉籤、
とも当てるが、古くは、和名類聚抄(931~38年)に、
玉籤、太萬久之、
とあり、
たまくし、
と清音(仝上)、美称して、
太(ふと)玉串、
八十(やそ)玉串、
などともいう(日本大百科全書)。
幣帛(へいはく)の一種、
で、
幣(ぬさ)、
には、
財物、採物(とりもの)、祭壇の表示、呪力ある樹枝の4つの系統、
があるが、
玉串、
はこれらの機能の象徴と考えられる(ブリタニカ国際大百科事典)とあり、
サカキなど常緑樹の小枝に紙の幣(ぬさ)あるいは木綿(ゆう)をつけ神前に供えるもの(デジタル大辞泉・広辞苑)、
榊(さかき)の枝に木綿(ゆう)または紙を切ってつくる紙垂(しで)をつけたもの、現在は紙垂か紅白の絹を用いる(世界大百科事典)、
榊(さかき)の枝に紙の垂(しで 四手)および麻(皇族のときは紅白の絹垂(きぬしで))をつけたもの(日本大百科全書)、
さかきの枝に木綿 (ゆう。楮布) 、または垂(しで。紙垂、四手) を掛けて神前に供するもの(ブリタニカ国際大百科事典)、
等々と、
神前に敬意を表し、神意を受けるために、祈念をこめてささげるもの。榊の葉表を上に、もとを神前に向けて案上に供える法と、葉表を神前に向け、もとを台(筒)にさしたててたてまつる方法とがあり、たてまつったら、二礼、二拍手、一礼の作法にて拝礼を行う、
をとある(世界大百科事典)。仏教儀礼における、
仏前での焼香(しょうこう)、
に対して、神前や祖霊に参拝するときに奉る、
玉串奉奠(ほうてん)、
で、神道(しんとう)儀礼の一特色である(日本大百科全書)。榊の代りに檜(ひのき)や櫟(いちい)を用いるところもある(世界大百科事典)。この、
玉串、
には、
神に捧げる財物、
という意味の他に、神霊の依ってくる、
依り代、
の意味をももつ(仝上・デジタル大辞泉)。前者は神霊を勧請する習俗が普及するにつれて一般化したもので、本来は、
手にとって動かす神霊の依り代、
であり、玉串などにより本来的姿をとどめており、紙の普及する以前の姿は削掛け等に認められる(仝上)。人の形を模した、
人形(ひとがた)、
も本来は神霊の表象で、神霊を送るために人形を作る習俗は道祖神祭り、疫病送り、虫送りなどの各種の行事にみられ、山車や屋台に作られる人形(にんぎよう)も神の送迎を示す形代が本来の姿であった(仝上)とされる。
玉串、
の由来は、
手向け串(たむけぐし)の約轉(大言海・古事記伝)、
タマは魂(たま)、神聖の意(岩波古語辞典)、
玉は尊貴の称、串は榊を地に刺し立てるところから(釋日本紀所引私記・東雅)、
タマは魂の義、クシは生樹の枝をいうか。霊の依代である一本の喬木の小枝を運搬することが分霊になると考えたものか(幽霊思想の変遷=柳田國男)、
等々あるが、
たま、
は、
魂・霊、
で、
神霊を意味する美称、
であり、
串、
は、天津罪の串刺の例のように、
物に刺して立ててしるしにする機能を有する、
とある(日本語源大辞典)。だから、
榊に限定されず、神聖な枝、若しくは、枝状の物を意味した、
とある(仝上)。
樹木や磐そのものが神の依代、
と見なされ、その意味では、上記の、
分霊、
という考えともつながる。なお、
たま(玉)、
たま(魂・魄)、
については触れたし、
さかき、
についても触れた。
(「串」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B2より)
「串」(漢音カン、呉音ケン)は、
象形。二つのものを一本の線でつらぬいたさまを描いたもので、患(カン 心が貫かれる→心の底まで気にかかる)の音符となる、
とある(漢字源)。別に、
象形。二つのものを貫く様(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B2)、
象形。重ねた貝をひもで連ねた銭さしの形にかたどる(角川新字源)、
象形文字です。「2つの物を縦に貫く」象形から「貫く」、ある事柄を貫く、すなわち「慣れる」を意味する「串」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2105.html)、
と、象形文字としながら、微妙に違いがある。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95