2024年10月23日
御衣木(みそぎ)
ちはやぶる香椎(かしひ)の宮のあや杉は神のみそぎに立てるなりけり(読人しらず)、
の、
みそぎ、
は、
御衣木、
と当て(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、この、
あや杉、
は、
ちはやぶるかすひの宮のあや杉は幾代か神のみそぎなるなるらむ(桧垣嫗集)
ちはやぶる香椎の宮の杉の葉をふたたびかざすわが君ぞ君(金葉集)、
と詠まれてきた杉(仝上)とある。
御衣木(みそぎ)、
は、室町時代の国語辞書『文明本節用集』には、
御衣木、みそぎ、造佛材木也、
とあり、同じ室町時代の意義分類体の辞書『下學集』にも、
御衣木、みそき、造佛材木也、
とあり、
女院被奉始三尺御仏二体……法印有観、加持御衣木(「兵範記」仁平三年(1153)一〇月一八日)、
とあるように、
神仏の像を作るのに用いる木、檜、白檀(びゃくだん)・栴檀(せんだん)・朴(ほお)、
などの類とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。室町時代編纂のいろは引きの国語辞典『運歩色葉集(うんぽいろはしゅう)』には、
御衣木、ミゾキ、
とあり、
みぞき、
ともいう。
センダンの古名は、
楝(おふち)、
で(広辞苑)、
栴檀、
と当てるが、
センダン科センダン属に分類される落葉高木、
の一種で、別名、
アフチ、
オオチ、
オウチ、
アミノキ、
などといい、
樹皮は松に似て暗褐色。葉は羽状複葉で縁にぎざぎざがあり、互生する。初夏に淡紫色の5弁花を多数つけ、秋に黄色の丸い実を結ぶ、
とあり(デジタル大辞泉)、薬用植物の一つとしても知られ、
樹皮は漢方で苦楝皮(くれんぴ)といい駆虫薬に使い、果実をひび・あかぎれに用いる。材は建築・家具材になる、
とある(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。
春に花が咲き秋には実が鈴なりに、千個の団子のようにぶら下がる、
ので、その実のついた状態を、
千団子(せんだんご)、
に見立てた(木の名の由来=深津正)ともされ、
千団子は三井寺で行われる法会の俗称で、別名栴檀講という、
とある(仝上)。
栴檀は双葉より芳(かんば)し、
のセンダンとは別、香木の栴檀はインドネシア原産のビャクダン(ビャクダン科)を指し、このセンダンは特別な香りを持たない(仝上)という。
ビャクダン(白檀)、
は、
ビャクダン科の半寄生性の常緑小高木。高さ3~10メートル。幹は直立して分枝し、葉は長卵形で先がとがる。花は鐘形で円錐状につき、黄緑色から紫褐色に変わる。果実は丸く、紫黒色に熟す。材は黄色がかった白色で強い香りがあり、仏像・美術品・扇子や線香などに使うほか、白檀油をとり香料にする、
とあり、別名、
栴檀、
というから、ややこしい。ただこの、
白檀、
は、
双葉の時は匂いがない、
とされるので、もっとややこしい(https://parfum-satori.hatenablog.com/entry/sendan)。
ところで、
御衣木、
を、刻みだす前、
御衣木加持(みそぎかじ)、
と言われる、
穢(けがれ)を除き、霊性をもたせるために行う加持の式、
が行われる。
御衣木の前に香華を供え、御衣木・刀・斧(おの)に聖水を注ぎ、像の胸部に本仏の種子(梵(ぼん)字)を書き、真言を誦する、
とあり(マイペディア)。仏画の場合は、
御衣絹(みそぎ)加持、
を行う(仝上)とある。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95