領布(ひれ)

萩が花真袖にかけて高円の尾上の宮に領布(ひれ)振るやたれ(新古今和歌集)、 の、 領布、 は、 上代、女性が首にかけ、左右に垂らした装身用の布、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 領布、 については、 望夫石、 で触れたように、万葉集で、 山の名と言ひ継げとかも佐用姫(さよひめ)がこの山の上(へ)に領布(ひれ)を振りけむ、 …

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けなり

起きて見むと思ひしほどに枯れにけにり露よりけなる朝顔の花(新古今和歌集)、 の、 けなり、 は、 まさっている、 格別である、 の意(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 けなり、 は、 異なり、 と当てる(広辞苑)が、 殊なり、 とも(岩波古語辞典)、 羨なり、 とも当て(大言海)、 異(け)なりの義、 …

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刈萱(かるかや)

うらがるる浅茅か原の刈萱(かるかや)の乱れてものを思ふころかな(新古今和歌集)、 の、 うらがるる、 は、 葉末が枯れる、 意、 刈萱、 は、 イネ科の多年草、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 刈萱、 は、 刈草、 とも当てる(広辞苑)のは、古くは、 秋風の乱れそめにしかるかやをわれぞつかねて夕まぐ…

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渙汗

九重承渙汗(九重(きゅうちょう)に渙汗(かんかん)を承け) 千里樹芳菲(千里に芳菲(ほうひ)を樹(う)えたり)(鄭審・奉使巡検両京路種果樹事畢入秦因詠) の、 九重、 は、『楚辞』の「九弁」に、 君之門以九重(君の門九重を以てす)、 とあり、 宮殿の門を九つ重ねて作ってあること、 から、 宮廷・宮中、 を指す(https://kanbu…

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人頼め

大荒木(おほあらき)の杜の木の間をもりかねて人頼めなる秋の夜の月(俊成女)、 有明の月待つ宿の袖の上に人頼めなる宵の稲妻(家隆)、 の、 人頼めなる、 は、前者は、 いたずらに人の気を持たせる、 と、後者は、 やっと出たのかといたずらに期待させる、 と注記される(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 タノメは頼ませる意、 とあり(岩波古語辞…

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思ひあへず

月見れば思ひぞあへぬ山高みいづれの年の雪にかあるらむ(新古今和歌集)、 の、 思ひあへぬ、 は、 とうてい思いきれない、 と訳注があり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、 一声は思ひぞあへぬほととぎすたそかれ時の雲のまよひに(新古今和歌集)、 の、 思ひあへぬ、 は、 (確かに鳴いたと)思いきれない と訳注される(仝上)。 …

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あくがる

心こそあくがれにけれ秋の夜の夜深き月をひとり見しより(新古今和歌集)、 の、 あくがる、 は、 何かに誘われて心が身体からぬけ出てゆく、上の空になる、 意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 あくがる、 は、 憧る、 と当て、 「あこがれる」の文語形、 である。上代には用例は見えず、 十世紀半ば以降に一般化した語、 …

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いも(妹)

秋風は身にしむばかり吹きにけり今やうつらむ妹(いも)が狭衣(新古今和歌集)、 の、 いも、 は、 妻、 の意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 いも、 の対は、 せ(兄)、 である(岩波古語辞典)。平安時代以降多く使われた、 いもうと、 は、 イモヒトの音便形、 である。 いも、 は、元来、 …

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せ(兄)

信濃道(しなぬぢ)は今の墾(は)り道刈りばねに足踏ましむな沓(くつ)はけ我が背(万葉集)、 の、 せ、 は、 背、 兄、 夫、 と当て、 いも(妹)の対、 である。主として女性が用い、 夫、兄弟、恋人などすべて男性を親しんでいう語、 とされる(精選版日本国語大辞典)。 せこ、 せな、 せなな、 せのきみ、 せろ、 せう…

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冥霊

莫比冥霊楚南樹(比す莫れ 冥霊(めいれい) 楚南の樹(じゅ)の) 朽老江邊代不聞(江辺(こうへん)に朽老(きゅうろう)して代(よ)に聞こえざるに)(張説・遥同蔡起居偃松篇) の、 冥霊、 は、 伝説的な木の名、非常に長命だという、 とある(前野直彬注解『唐詩選』)。「列子」湯問篇に、 荊之南有冥霊者、以五百歳為春、五百歳為秋(荆の南に冥霊なる者有り、五百…

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