2024年11月07日
花染め
をりふしも移ればかへつ世の中の人の心の花染めの袖(皇太后宮大夫俊成女)、
の、
花染め、
はもともと、
露草、
で染めた、
あせやすい藍色の染め物、
だが、ここでは、
桜色の染め物、
の意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
袖、
は、
衣服、
の意。「露草」については、「月草」で触れた。「袖」については「衣手」で触れた。
花染、
は、
世中の人の心は花ぞめのうつろひやすき色にぞ有りける(古今和歌集)、
と、
露草の花の汁で染めること、また、その衣、
をいい、
藍色・薄桃・桜色などに染めるが、変色しやすいところから、うつろいやすいことのたとえ、
にもいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。また、
忘るなよ木曾の麻衣やつるともなれし吉野の花染の袖(新葉和歌集)、
と、
桜の花の色に染めること、またその色、
にもいう(仝上・岩波古語辞典)。なお、
花染めにした衣、
を、
おのづから古きに返る色しあらば花染め衣露やわけまし(続古今和歌集)、
と、
花染め衣、
という(仝上)。また、
紅(くれなゐ)のはつ花ぞめの色ふかく思ひしこころわれわすれめや(古今和歌集)、
と、
初花染め(はつはなぞめ)、
というと、
紅花(べにばな)の初花で染めること。また、その染めたもの、
をいう(精選版日本国語大辞典)。
「花」(漢音カ、呉音ケ)は、「はな」でも触れたが、
会意兼形声。化(カ)は、たった人がすわった姿に変化したことをあらわす会意文字。花は「艸(植物)+音符化」で、つぼみが開き、咲いて散るというように、姿を著しく変える植物の部分、
とある(漢字源)。「華」は、
もと別字であったが、後に混用された、
とあり(仝上)、また、
会意兼形声文字です。「木の花や葉が長く垂れ下がる」象形と「弓のそりを正す道具」の象形(「弓なりに曲がる」の意味だが、ここでは、「姱(カ)」などに通じ、「美しい」の意味)から、「美しいはな」を意味する漢字が成り立ちました。その後、六朝時代(184~589)に「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「左右の人が点対称になるような形」の象形(「かわる」の意味)から、草の変化を意味し、そこから、「はな」を意味する「花」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji66.html)が、
かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
として(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8A%B1)、
形声。「艸」+音符「化」。「華」の下部を画数の少ない音符に置き換えた略字である、
とされ(仝上)、
形声。艸と、音符(クワ)とから成る。草の「はな」の意を表す。もと、華(クワ)の俗字、
とある(角川新字源)。
「染」(慣用セン、漢音ゼン、呉音ネン)は、
会意文字。「水+液体を入れる箱」で、色汁の中に柔らかくじわじわと布や糸をひたすこと、
とある(漢字源)。別に、
会意文字です(氿+木)。「流れる水の象形と川が曲がって行き止まりになる象形」(「屈曲する穴の奥から流れ出る泉」の意味)と「大地を覆う木」の象形から、樹液などで「そめる」を意味する「染」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji953.html)が、
形声。水と、音符朵(ダ)→(ゼム)(杂は変わった形)とから成る。絹布をそめる意を表す、
と(角川新字源)、形声文字とする説もある。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95