2024年11月11日

薬玉(くすだま)


あかなくに散りにし花のいろいろは残りにけりな君が袂に(大納言経信)

の詞書に、

五月五日、薬玉つかはして侍りける人に、

とある、

薬玉、

は、

玉状の袋に薬・香料を入れ、菖蒲・蓬や造花を結び、五色の糸を垂らす、

もので、

端午の節句に用いる、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

薬玉(精選版日本国語大辞典).bmp

(薬玉 精選版日本国語大辞典より)

薬玉、

は、

クスリダマの転、

で(岩波古語辞典)、

麝香(じゃこう)、沈香(じんこう)、丁子(ちょうじ)、白檀、甘松等々種々の香料を網の玉に入れ、糸で飾り、菖蒲(しょうぶ)や蓬(よもぎ)などの造花を結び付けて、五色の糸の八尺許りなるを垂らしたもの、

である(広辞苑・岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大言海)。丁子については、「丁子染」で触れた。

長命縷、
続命縷(しょくめいる)、
くすりのたま、
五色縷、
久寿玉、

等々とも言い、

五月五日の端午の節供に、邪気を払い、不浄を避けるものとして柱や簾(すだれ)にかけた、

とされる(仝上)。

薬玉.jpg

(薬玉(速水春暁斎「諸国図会年中行事大成」より『薬玉全図』(1806年)  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8F%E3%81%99%E7%8E%89より)

中国から伝わり、平安時代に盛んに贈答に用いた(広辞苑)とある。初見は、

五月五日に薬玉(くすだま)を佩きて酒を飲む人は、命長く、福ありとなも聞食(きこしめ)す、故、是を以て、薬玉を賜ひ、御酒賜はくと宣る(続日本後紀嘉祥二年(849)五月五日)、

とある。中古、宮中では5月5日に薬玉を下賜するならわしがあり、

中宮などには縫殿より御くす玉とて、色々の糸を組み下げて参らせたれば、御帳(みちよう)立てたる母屋の柱の、左右につけたり。九月九日の菊をあやとすずしの絹につつみて参らせたるを同じ柱にゆひつけて月頃あるくす玉にとりかへて(枕草子)、

と、

各人はそれをひじにかけて長命のまじないとした。また薬玉は御帳(みちよう)の東の方の柱にかけておき、9月9日重陽(ちょうよう)の節供(菊の節供)に菊花を絹に包んだものと取り替える風習があった、

とある(世界大百科事典・日本大百科全書)。また、

玉に五彩の糸のみ添へて、身にも繋ぐ、

とあり(大言海)、後の、

掛香(かけかう)、

とある(仝上)。

掛香、

は、

懸香、

とも当て、

香嚢(こうのう)、

ともいい(和名抄)、

練香を絹袋に入れたもの、

で(大言海)、

悪臭を防ぐため、室内に掛け、また紐をつけて首に掛けたり、懐中したりする、

とあり(広辞苑)、後の、

匂袋(においぶくろ)、
匂の玉、

である(仝上・大言海)。『雍州府志』(貞享元年(1684)山城一国の地理・沿革・寺社・古跡・陵墓・風俗行事・特産物などを漢文で記述した地誌)には、

嚢(絹嚢)左右、著緒繋項、懐其袋、故、元称掛香、

とある。古くは、

はじめショウブとヨモギの葉などを編んで玉のようにまるくこしらえ、これに5色の糸をつらぬき、またこれに、ショウブやヨモギなどの花をさしそえて飾りとした、

ようだが、室町時代より後は、

薬玉を飾る花は造花となり、サツキ、ショウブその他四季の花が用いられ、また中に麝香(じやこう)、沈香、丁子(ちようじ)、竜脳などの薫薬(くんやく)を入れたため、薬玉はにおい入りの玉となった、

とあり(世界大百科事典)。糸も、室町時代には6色となり、長く垂れることとなった(仝上)という。江戸時代に、

民間で5月5日に女児の玩具(がんぐ)として新しく流行した。京には薬玉売りも現れ、端午の節供には女児がいろいろの造花を紙に張って細工したものを背中にかけたり、肘に下げたりした、

とされるのも、薬玉の古い習俗の名残(なごり)である(日本大百科全書)。

女児がいろいろの造花を糸に通したり、あるいは紙にはったりなどしてもてあそんだのも、薬玉の古い習俗のなごりである、

とある(仝上)。

今日、七夕の飾り、運動会や式典などに用いる、

薬玉、

も、この系譜で、式典のものは、

玉が二つに割れて、中から垂れ幕や紙吹雪などが出てきたりする(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

薬玉模様(くすだまもよう)、

は、

吉祥(きちじょう)模様の一つ、

で、

江戸中期から末期にかけて、染織や蒔絵(まきえ)の装飾に多く用いられた、

が、これは、邪気を避ける長寿の象徴としての、

薬玉、

に由来する(日本大百科全書)。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:51| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする