菊合(きくあわせ)

しぐれつつ枯れゆく野辺の花なれば霜の籬にいほふ色かな(新古今和歌集)、 の詞書に、 上のをのこども菊合しけるついでに、 とある、 菊合、 は、 左右に分かれて、それぞれの方の菊の優劣を競う遊び、 を言い、 歌を伴う、 とあり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、この歌の菊合は、 延喜十三年(913)十月十三日内裏菊合か、 とある(…

続きを読む

思草(おもひぐさ)

野辺見れば尾花がもとの思ひ草枯れゆく冬になりぞしにける(新古今和歌集)、 の、 思草、 は、 リンドウ、露草など諸説ある。すすきの根元にはえるという点を重視すれば、なんばんぎせるが最もふさわしい、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 道辺の尾花が下の思草(おもひぐさ)今さらになに物か思はむ(万葉集)、 と、 尾花が下の思草、 と詠わ…

続きを読む

隙(ひま)ゆく駒

新しき年やわが身をとめ来(く)らむ隙(ひま)ゆく駒に道をまかせて(新古今和歌集)、 の、 隙ゆく駒、 は、「荘子」知北遊に、 人生天地之間、若白駒之過郤(隙)、 とあるのにより、 月日の過ぎやすく、人生の短いことを言う、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 駒に道をまかせて、 は、「韓非子」説林上の、 老馬道を知る、 の…

続きを読む

遅日(ちじつ)

遲日園林悲昔遊(遅日(ちじつ) 園林(えんりん) 昔遊(せきゆう)を悲しむ) 今春花鳥作邊愁(今春 花鳥 辺愁(へんしゅう)を作(な)す)(杜審言・渡湘江) の、 遅日(ちじつ)、 は、 うらうらと長い春の日、 をいい、『詩経』豳風(ひんぷう)・七月の詩に、 春日遲遲(春日(しゅんじつ)遅遅(ちち)たり)、 とあるのにもとづく(前野直彬注解『唐詩選…

続きを読む

色(しき)

色にのみ染めし心のくやしきをむなしと説ける法のうれしさ(小侍従)、 の、 詞書に、 心経の心をよめる、 とある、 心経、 は、 摩訶般若波羅蜜多心経(般若心経)、 をいい、 般若経の精髄を簡潔に説く、玄奘の漢訳した262字から成る本が流布する、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 色、 は、仏教で、 しき、 …

続きを読む

十楽

紫の雲路にさそふ琴の音(ね)に憂き世を払ふ峰の松風(寂連法師)、 の詞書に、 十楽の心をよみ侍りけるに、聖衆来迎樂、 とある、 十樂(じゅうらく)、 は、 西方浄土で受ける十種の樂、 とあり、『往生要集』に詳述され、 聖衆来迎樂はその第一、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 寂連法師は、冒頭の歌の他に、 十楽の第二、蓮…

続きを読む

五色(ごしき)の糸

南無阿弥陀ほとけの御手に懸くる糸のをはり乱れぬ心ともがな(新古今和歌集)、 の詞書に、 臨終正念ならむことを思いてよめる、 とある、 臨終正念、 は、 死に臨んで心静かに佛を念ずること、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)が、「正念に往生す」で触れたように、 臨終のときに心が乱れることなく、執着心に苛まれることのない状態のこと、 であ…

続きを読む

異化

稲垣足穂『稲垣足穂作品集』を読む。 本書に所収されているのは、 チョコレット、 星を造る人、 黄漠奇聞、 星を売る店、 一千一秒物語、 セピア色の村、 煌めける城、 天体嗜好症、 夜の好きな王様の話、 第三半球物語、 きらきら草紙、 死の館にて、 弥勒、 悪魔の魅力、 彼等、 随筆ヰタ・マキニカリス、 紫の宮たちの墓所、 日本の天上界、 …

続きを読む

六塵

濁りなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな(新古今和歌集)、 の、 亀井の水、 は、 四天王寺境内の亀井堂にある井泉、 で、 劫を経て救ふ心の深ければ亀井の水は絶ゆる世もあらじ(赤染衛門)、 と、 石の亀の像の下から霊水が湧き出る、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 心の塵、 は、仏教でいう、 六塵の樂…

続きを読む

ときはかきはに

万世(よろづよを)を松の尾山の蔭茂み君をぞ祈るときはかきはに(新古今和歌集)、 の、 ときはかきはに、 は、 永久不変に、 の意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 ときはかきはに(ときわかきわに)、 は、 常磐堅磐に、 と当て、 とこしえに、 永久不変に、 の意とある(広辞苑・大言海)。 常磐、 は、 …

続きを読む

卯杖(うづゑ)

相生(あひおひの)の小塩(をしほ)の山の小松原今より千代の蔭を待たなむ(新古今和歌集)、 の詞書に、 後冷泉院幼くおはしましける時、卯杖の松を人の子に賜はせけるに、よみ侍る、 とある、 卯杖の松、 の、 卯杖、 とは、 邪気を払う杖、 をいい、 正月初卯の日、諸衛府、大舎人寮から皇室に献上された、 とある(久保田淳訳注『新古今…

続きを読む

八束

神代よりけふのためとや八束穂(やつかほ)に長田(おさだ)の稲のしなひそめけむ(新古今和歌集)、 の、 八束穂、 の、 束、 は、 握、 で、 指四本の幅、 八、 は、 大きな数として言う、 とあり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、 八束穂、 は、 非常に長い穂、 の意となる(仝上)。 やつか…

続きを読む

にほひ

形見とて見れば歎きの深見草なになかなかのにほひなるらむ(新古今和歌集)、 の、 にほひ、 は、 美しい色、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 にほひ、 は、 にほふ、 の連用形の名詞化になるが、 香水の匂い、 というように、 薫り、 香気、 の意のイメージが強く、類聚名義抄(11~12世紀)にも、 …

続きを読む

たまゆら

たまゆらの露も涙もとどまらずなき人恋ふる宿の秋風(新古今和歌集)、 の、 たまゆらの、 は、 しばしの、 の意、 「玉」の連想で、下の「露」「涙」と縁語、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 たまゆら、 は、 玉響、 と当て、 玉響(たまかぎる)きのふの夕(ゆふへ)見しものを今日の朝(あした)に恋ふべきものか(万葉…

続きを読む

うまし

国見をすれば国原は、煙(けぶり)立ち立つ、海原(うなはら)は、鴎立ち立つ、うまし国ぞ、蜻蛉島(あきづしま)、大和の国は(万葉集)、 の、 うまし、 は、 シク活用形容詞、 で、 佳い、 の意(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 蜻蛉島、 は、 大和の枕詞、 で、 とんぼのような豊かさに対する賛美、 とある(仝上)。現代口…

続きを読む

中弭(なかはず)

やすみしし 我が大君の 朝(あした)には とり撫(な)でたまひ 夕(ゆうべ)には い縁(よ)り立たしし み執(と)らしの 梓の弓の 中弭(なかはず)の 音すなり 朝猟(あさがり)に 今立たすらし 夕猟(ゆふがり)に 今立たすらし み執らしの 梓の弓の 中弭(なかはず)の 音すなり(万葉集) の、 中弭(なかはず)、 は、 弓の中程、矢筈をつがえるところか、 とあ…

続きを読む

河伯(かはく)

河伯、 は、 河童の異名、 であるが、 河童、 で触れたように、日本書紀に、 河内の人茨田連衫子(マンダノムラジコロモノコ)が河伯(カハノカミ)を欺き得たる両個の瓢(ひさご)なる者は(仁徳紀)、 と、 河伯(かはのかみ)、 は、 河神、 のこととされている。もともと、「河童」は、 田の水を司り、田の仕事を助けることもある…

続きを読む

綜麻(へそ)

綜麻形(へそかた)の林のさきのさ野榛(のはり)の衣(きぬ)に付くなす目につく我が背(万葉集) の、 榛、 は、 はんの木。実や樹皮を染料にした。「針」の懸詞、「衣」の縁語で、三輪山伝説に基づく、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 (三輪山 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%BC%AA%E5%B1%…

続きを読む

もがも

川(かは)の上(うへ)のゆつ岩群(いはむら)に草生(む)さず常にもがもな常処女(とこをとめ)にて(万葉集) の、 ゆつ、 は、 斎つ、 と当て、 ツは連体助詞で、 いわい清める、 意で、 おろそかに触れるべからざる、 神聖・清浄な、 の意で使う(広辞苑・岩波古語辞典)。 草生(む)さず常にもがもな常処女(とこをとめ)にて、 …

続きを読む

あをによし

味酒(うまざけ)三輪の山あをによし奈良の山の山の際(ま)にい隠るまで道の隈(くま)い積(つ)もるまでにつばらに見つつ行かむをしばしばも見放(みさ)けむ山を心なく雲の隠さふべしや(万葉集) の、 あをによし、 は、 「奈良」の枕詞、 で、 あをに、 は、 青土、 で、 顔料、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 あをによ…

続きを読む