2024年12月04日
遅日(ちじつ)
遲日園林悲昔遊(遅日(ちじつ) 園林(えんりん) 昔遊(せきゆう)を悲しむ)
今春花鳥作邊愁(今春 花鳥 辺愁(へんしゅう)を作(な)す)(杜審言・渡湘江)
の、
遅日(ちじつ)、
は、
うらうらと長い春の日、
をいい、『詩経』豳風(ひんぷう)・七月の詩に、
春日遲遲(春日(しゅんじつ)遅遅(ちち)たり)、
とあるのにもとづく(前野直彬注解『唐詩選』・字源)とある。
春の日、日永くして暮るることおそき故、
とある(字源)。『詩経』豳風(ひんぷう)・七月の詩には、
七月流火、九月授衣。春日載陽、有鳴倉庚。
女執懿筐、遵彼微行、爰求柔桑。
春日遲遲。采蘩祁祁。女心傷悲、殆及公子同歸。
とあり(https://zh.wikisource.org/wiki/%E8%A9%A9%E7%B6%93/%E4%B8%83%E6%9C%88)、「虞美人草」(夏目漱石)では、
遅日(チジツ)影長くして光を惜まず、
と使われている。
昔遊、
は、
かつて遊んだ時のこと、
昔の行楽、
の意だが、魏の文帝(曹丕)の「呉質(ごしつ)に与うるの書」に、
追思昔遊、猶在心目(昔遊(せきゆう)を追思(ついし)すれば、猶心目(しんもく)に在り)、
とある(https://kanbun.info/syubu/toushisen302.html)とか。
遅日、
は、同じ意味で、
おそひ(遅日)、
遅(おそ)き日、
とも訓ませ、
いでやらぬかどをそき日のかげなどいふ句も春なり(「無言抄(1598)」)、
遅き日のつもりて遠きむかしかな(「蕪村句集(1784)」)、
等々とつかわれる(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。
「遅(遲)」(漢音躬チ、呉音ジ)は、
会意文字。犀は、サイ(動物)のこと。歩のおそい動物の代表とされる。遲は「辵+犀」、
とあり(漢字源)、
会意文字です(辶(辵)+犀)。「立ち止まる足・十字路の象形」(「行く」の意味)と「獣の尻の象形を変形したものと毛の象形と角のある牛の象形」(「歩くのがおそい動物:サイ」の意味)から、「おそい」を意味する「遅」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1138.html)、
ともあるが、これは、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)によるもので、
『説文解字』では「辵」+「犀」と説明されているが、これは誤った分析である。金文の形を見ればわかるように「犀」とは関係がない、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%81%B2)、
形声。「辵」+音符「屖 /*LI/」[字源 1]。「おそい」を意味する漢語{遲 /*lri/}を表す字、
とあり(仝上)、別に、
形声。辵と、音符犀(セイ)→(チ)とから成る。ゆっくり歩く、ひいて「おそい」「おくれる」意を表す。常用漢字は省略形による、
ともある(角川新字源)。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95