2024年12月09日
六塵
濁りなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな(新古今和歌集)、
の、
亀井の水、
は、
四天王寺境内の亀井堂にある井泉、
で、
劫を経て救ふ心の深ければ亀井の水は絶ゆる世もあらじ(赤染衛門)、
と、
石の亀の像の下から霊水が湧き出る、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
心の塵、
は、仏教でいう、
六塵の樂欲(ぎょうよく)、
の、
色・声・香・味・触・法、
をいい、
「塵」は「濁り」の縁語、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
樂欲(ぎょうよく)、
の、
楽、
は、
好む、
意で、
願い求めること、
欲望、
の意である。徒然草に、
まことに、愛著の道、その根深く、源遠し。六塵の楽欲多しといへども、みな厭離しつべし。その中に、たゞ、かの惑ひのひとつ止めがたきのみぞ、老いたるも、若きも、智あるも、愚かなるも、変る所なしと見ゆる、
とある。
六塵、
は、
六境(ろっきょう)、
のことで、
色境(色や形)、
声境(しょうきょう=言語や音声)、
香境(香り)、
味境(味)、
触境(そっきょう=堅さ・しめりけ・あたたかさなど)、
法境(意識の対象となる一切のものを含む。または上の五境を除いた残りの思想など)、
をいい、これが、人身に入って本来清らかな心を汚すことから、
塵、
という。
六根五内、
で触れたように、
根、
は(「根機」で触れた)、
能力や知覚をもった器官、
を指し(日本大百科全書)、
サンスクリット語のインドリヤindriya、
の漢訳で、原語は、
能力、機能、器官、
などの意。
植物の根が、成長発展せしめる能力をもっていて枝、幹などを生じるところから根の字が当てられた、
とあり(仝上)、外界の対象をとらえて、心の中に認識作用をおこさせる感覚器官としての、
目、耳、鼻、舌、身、
また、煩悩(ぼんのう)を伏し、悟りに向かわせるすぐれたはたらきを有する能力、
の、
信(しん)根、勤(ごん)根(精進(しょうじん)根)、念(ねん)根(記憶)、定(じょう)根(精神統一)、慧(え)根(知恵)、
をも、
五根(ごこん)、
という(広辞苑・仝上)が、
目、耳、鼻、舌、身、
に、
意根(心)を加えると、
六根、
となる(精選版日本国語大辞典)。仏語で、
六識(ろくしき)、
は、
六根をよりどころとする六種の認識の作用、
すなわち、
眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識、
の総称で、この認識のはたらきの六つの対象となる、
六境(ろっきょう)、
即ち、
色境(色や形)、
声境(しょうきょう=言語や音声)、
香境(香り)、
味境(味)、
触境(そっきょう=堅さ・しめりけ・あたたかさなど)、
法境(意識の対象となる一切のものを含む。または上の五境を除いた残りの思想など)、
といい、
六塵(ろくじん)、
ともいう対象に対して、認識作用のはたらきをする場合、その拠り所となる、
六つの認識器官、
である。だから、
眼根・耳根・鼻根・舌根・身根・意根、
といい、
六情、
ともいう(仝上)。
六つの認識器官(能力)の、眼根・耳根・鼻根・舌根・身根・意根の、
六根、
六つの認識対象の、色境・声境・香境・味境・触境・法境の、
六境、
六塵、
六つの認識作用の、眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識の、
六識、
の、
六根と六境を合わせて十二処、
さらに、
六識を加えて、
十八界、
と(https://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%85%AD%E6%A0%B9%E3%83%BB%E5%85%AD%E5%A2%83%E3%83%BB%E5%85%AD%E8%AD%98)いわれる。仏教で説くさまざまな法(梵語dharma)は、これら一八に集約することができる。それはつまり、我々の経験しうる世界が、これら一八の要素から成立していることを意味する(仝上)とある。
「塵」(漢音チン、呉音ジン)は、
𪋻、
が同字とされ(https://ja.wiktionary.org/wiki/%F0%AA%8B%BB)、字源は、
会意文字。「鹿+土」で、鹿の群れの走り去ったあとに土ぼこりがたつことを示す。したにたまるごく小さい土の粉のこと(漢字源)、
会意。正字は𪋻 (そ)+土。群鹿の奔るときの土烟をいう。〔説文〕十上に「鹿行きて土を揚(あ)ぐるなり」という。のち塵埃の意に用い、俗事を塵事、世外を塵外という(字通)、
と、会意文字とされる。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95