2024年12月10日
ときはかきはに
万世(よろづよを)を松の尾山の蔭茂み君をぞ祈るときはかきはに(新古今和歌集)、
の、
ときはかきはに、
は、
永久不変に、
の意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
ときはかきはに(ときわかきわに)、
は、
常磐堅磐に、
と当て、
とこしえに、
永久不変に、
の意とある(広辞苑・大言海)。
常磐、
は、
トコ(常)イワ(磐)の約、
とあり(仝上・岩波古語辞典)、
常磐(ときわ)なすかくしもがもと思へども世の事(こと)なれば留(とど)みかねつも(万葉集)、
と、
永遠に、しっかりと同一の性状を保つ岩、
の意で、それをメタファに、
大皇(おほきみ)は常磐(ときは)に座(ま)さむ橘の殿(との)の橘ひた照りにして(万葉集)、
と、
永久不変、
の意で使い(仝上)、さらに、
八千種(くさ)の花はうつろふ等伎波(トキハ)なる松のさ枝をわれは結ばな(万葉集)、
と、
松、杉などの常緑樹の葉が、年中その色を変えないこと、
つまり、
常緑、
の意でも使い、
常磐木(ときわぎ)、
ともいい、この場合、
常葉(とこわ)、
という言い方もする(仝上・精選版日本国語大辞典)。
かきは、
は、
かたきいはの略約(大言海)、
カタ(堅)イハ(岩)の約(岩波古語辞典)、
かたしは(堅磐)(精選版日本国語大辞典)、
とあり、
天の安河(やすのかは)の河上の天の堅石(かたしは)を取り、天の金山の鉄(まがね)を取りて、鍛人(かぬち)天津麻羅(あまつまら)を求(ま)ぎて、伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)に科(おほ)せて鏡を作らしめ(古事記)
と、
かたい岩、
の意で、
常磐と重ねて、堅く永久に変わらないことを祝う語、
として使う(岩波古語辞典)。本来は、
カタイハの約で、カチハとあるべき語、「ときは」のキに引かれて誤ったもの、
とある(仝上)。九条家本祝詞に、堅磐の傍訓として、
カチハ、
とあり、
カキハと訓むのは、トキハから類推した院政期以降の誤り、
という(仝上)。
「磐」(漢音ハン、呉音バン)は、
会意兼形声。「石+音符般(平らに広げる)」、
とある(漢字源)。また、
会意兼形声文字です(般+石)。「渡し舟の象形と手に木のつえを持つ象形」(「大きな舟を動かす」、「大きい」の意味)と「崖の下に落ちている、いし」の象形から、大きい石「いわ」を意味する「磐」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2618.html)、
ともあるが、他は、
形声文字。音符「般」と「石」を合わせた字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A3%90)、
形声。石と、音符般(ハン)とから成る。(角川新字源)、
形声。声符は般(はん)。般は盤の初文。平らかで円く大きな器で、そのような形状の岩石を磐という。〔文選、海の賦、李善注〕に引く〔声類〕に「大磐石なり」とみえ、〔易、漸、注〕に「山石の安きなり」という。古い字書にはみえない字である。盤と通用する(字通)、
と、形声文字とする。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95