2024年12月18日

綜麻(へそ)


綜麻形(へそかた)の林のさきのさ野榛(のはり)の衣(きぬ)に付くなす目につく我が背(万葉集)

の、

榛、

は、

はんの木。実や樹皮を染料にした。「針」の懸詞、「衣」の縁語で、三輪山伝説に基づく、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

三輪山.jpg


綜麻形(へそかた)、

は、

三輪山の異名、

とあり、

崇神記などの三輪山伝説による、

とある(仝上)。

綜麻、

は、

糸を丸く巻いたもの、

とある(仝上)。

三輪山(みわやま)、

は、

奈良県桜井市にあるなだらかな円錐形の山。奈良県北部奈良盆地の南東部に位置し、標高は467.1m、周囲は16km、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%BC%AA%E5%B1%B1で、

三諸山(みもろやま)、

ともいい、記紀においては、

美和山」、
御諸岳、

などとも表記される(仝上)。三輪山の西麓にある、

大神神社(おおみわじんじゃ)、

は三輪山を神体山としており、大物主大神を祀る山を神体として信仰の対象とするため、本殿がない形態となっている(仝上・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%A5%9E%E7%A5%9E%E7%A4%BE)。この、

大物主神(おおものぬしのかみ、大物主大神)、

には、いくつかの神魂伝承があるが、そのなかに、古事記・崇神天皇条に、

大物主神を祀って、その祟りを鎮めた大田田根子(意富多多泥古)が大物主神と活玉依毘売(いくたまよりひめ)の神婚によって生まれた子の子孫であることを語る話、

がある(日本伝奇伝説大辞典)。

崇神天皇が天変地異や疫病の流行に悩んでいると、夢に大物主が現れ、「こは我が心ぞ。意富多多泥古(大田田根子)をもちて、我が御魂を祭らしむれば、神の気起こらず、国安らかに平らぎなむ」と告げた。意富多多泥古の祖先とされる、

活玉依毘売のもとに毎晩麗しい男が夜這いに来て、それからすぐに身篭った。しかし不審に思った父母が問いつめた所、活玉依毘売は、名前も知らない立派な男が夜毎にやって来ることを告白した。父母はその男の正体を知りたいと思い、糸巻き(苧環)に巻いた麻糸を針に通し、針をその男の衣の裾に通すように教えた。翌朝、針につけた糸は戸の鍵穴から抜け出ており、糸をたどると三輪山の社まで続いていた、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E7%89%A9%E4%B8%BB、跡をたどると、男が、

蛇神の大物主神、

であると知れた(日本伝奇伝説大辞典)という話である。その、

糸巻きには糸が三勾(三巻)だけ残っていたので、

三輪、

と呼ぶようになったとされる(仝上)。

なお、

綜麻(へそ)、

は、

巻子、

とも当て、

紡いだ糸をつないで、環状に幾重にもまいたもの(広辞苑)、
績(う)みたる絲を、球の如く絡(まと)ひつけたるもの。外、圓く、内、虛(うつろ)にて、環の如し(大言海)、

をいうとある。和名類聚抄(931~38年)に、

巻子、閉蘇、績麻(うみをを)圓(まるく)巻(まける)名也、

とあり、その由来は、

綜(へ)たる麻(そ)を巻くの義、其の巻きたる形、又、臍に似たる故に名とす(大言海)、
「へ」は下二段動詞「ふ(綜)」の連用形から(精選版日本国語大辞典)、
ヘ(綜)たるソ(麻)を巻いたもの(東雅・雅言考・言元梯)、
ヘは經、ソは麻の義(箋注和名抄・和訓栞)、
ヘソ(臍)ににているところから(鳥袋)、

等々とある。下二段活用の、

ふ(綜)、

は、口語では、

綜(へ)る、

だが、

ふ(経)と同根、

とあり(岩波古語辞典)、

経糸(たていと)を一本ずつ順次、機にかける、
経糸を布の長さに延ばしてそろえる、

意で、日葡辞書(1603~04)には、

へて織る布、

と載る(広辞苑)。

ふ(經)、

は、口語では、

經る、

だが、

場所とか月日とかを順次、欠かすことなく、経過していく(岩波古語辞典)、
次々順をふんでいく(広辞苑)、

意で、

綜(ふ)、

の、

経糸をかけて行く、

という意の持つ含意がよく分かる。和名類聚抄(931~38年)に、

綜(へ)、和名閉(へ)、機縷持糸交者也、

とある。

倭文の苧環」で触れたが、

苧環(おだまき)、

は、

苧手巻、

とも当て(大言海)、

おだま、

ともいい、

糸によった麻を、中を空虚にし、丸く巻きつけたもの、

をいい(精選版日本国語大辞典・日本語源大辞典)、

績苧(うみを)の巻子(へそ)、其の形、外圓く、内虚にして、環の如くなれば云ふ、
麻手巻の義、

とある(大言海)。

布を織るためには、まず植物の繊維を糸状にする必要がある。古代では材料に麻(あさ)、楮(こうぞ)、苧(お)、苧麻(からむし)などが使われる。つまり、

おだ-まき、

ではなく、

お-たまき(手巻)、

ということのようであるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A7%E7%92%B0

苧(お)、

は、

アサ(麻)、

の異名で、また

アサやカラムシの茎皮からとれる繊維、

をいい、

苧環、

とは、

つむいだアサの糸を、中を空洞にして丸く巻子(へそ)に巻き付けたもの、

をいう(日本大百科全書)が、これを、

綜麻(へそ)、

ともいいhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A7%E7%92%B0。布を織るのに使う中間材料で、次の糸を使う工程で、糸が解きやすいようになかが中空になっている(仝上)。

因みに、「へそくり」で触れたように、その語源として、

へそは紡いだ麻糸をつなげて巻き付けた糸巻である綜麻(へそ)をいい、『綜麻繰』とする説、

がある。



は、

大麻、
苧麻(からむし)、
黄麻、
亜麻、

などの総称(広辞苑)であるが、現代では、

「大麻(ヘンプ)」「苧麻(ラミー)」「亜麻(リネン)」「黄麻(ジュート)」「洋麻(ケナフ)」、

等々、茎の繊維を取る植物の総称として使われているhttps://hemps.jp/asa-hemp-taima/とある。なかでも、

「大麻」と「苧麻(ちょま・ラミー)」、

は古代から日本で利用され、最も古い日本の「麻」の痕跡は、縄文時代の貝塚から見つかった「大麻」を使った縄(仝上)という。

麻(あさ)、

は、

植物表皮の内側にある柔繊維または、葉茎などから採取される繊維の総称、

であるが、

狭義の麻(大麻)、

と、

苧麻(からむし)、

の繊維は、

日本では広義に、

麻、

と呼ばれ、和装の麻織物(麻布)として古くから重宝されてきた。狭義の麻は、神道では重要な繊維であり様々な用途で使われる。麻袋、麻縄、麻紙などの原料ともなる。

狭義の「麻」、

大麻、

は、古語、

總(ふさ)、

といい(平安時代の『古語拾遺』)、

を(麻・苧)、

そ(麻)、

とも言った。

「綜」.gif

(「綜」 https://kakijun.jp/page/1486200.htmlより)

「綜」(漢音ソウ、呉音ソ)は、

会意兼形声。「糸+音符宗(ソウ たてに通す)」、

とある(漢字源)。「へ」の意で、縦絲を上下させて、横糸の杼(ひ)の通る道をつくるためのもの、とある(仝上)。

綜合、
総合、

と表記するように、「綜」と「総」は類義語だが、

「総」は、同音の漢字による書きかえで一部の代用語に用いられる、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B6%9C

会意兼形声文字です(糸+宗)。「より糸」の象形(「糸」の意味)と「屋根・家屋の象形と、神にいけにえをささげる台の象形(「祖先神」の意味)」(「祖先を祭る一族の長」)の意味)から、一族の長が一族を1つにまとめるように「糸を整え織る為の器具(へ)」を意味する「綜」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2360.html

ともあるが、

形声。糸と、音符宗(ソウ)とから成る。多くの糸を一本にまとめる意を表す(角川新字源)、

形声。声符は宗(そう)。〔説文〕十三上に「機(はた)の縷(る)なり」とあり、〔唐写本玉篇〕に「機の縷は絲を持して交はる者なり」の文がある。〔列女伝、母儀、魯の季敬姜伝〕に「推して往き、引きて來らしむるる者は綜なり」とあり、経(たていと)と緯(よこいと)とを織りなすものであるから、錯綜(さくそう)といい、綜括・綜合という(字通)、

と、形声文字とするものもある。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)
柳田國男『増補 山島民譚集』(東洋文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:36| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする