2024年12月19日

もがも


川(かは)の上(うへ)のゆつ岩群(いはむら)に草生(む)さず常にもがもな常処女(とこをとめ)にて(万葉集)

の、

ゆつ、

は、

斎つ、

と当て、

ツは連体助詞で、

いわい清める、

意で、

おろそかに触れるべからざる、
神聖・清浄な、

の意で使う(広辞苑・岩波古語辞典)。

草生(む)さず常にもがもな常処女(とこをとめ)にて、

は、

草生(む)さず常にもがもな、

を、

草も生えないようにいつも不変でありたい、

と注釈し、

もがも、

は、

最終の願いのための手段に対する願望、

とし、

草も生えはびこることがないように、いつも不変であることができたらなあ。そうしたら、永遠に若く清純なおとめでいられように、

と、訳されている(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

もがも、

は、

終助詞「もが」にさらに終助詞「も」を添えた語、主に奈良時代にもちいられ、平安時代には「もがな」に代わった、

とあり(広辞苑・デジタル大辞泉)、

体言、形容詞の連用形、副詞などの連用部分につき、その受ける語句が話し手の願望の対象であることを表す、

とし、その

事柄の存在・実現を願う、

意を表し、

……があるといいなあ、
……であるといいなあ、

の意で使う(仝上・デジタル大辞泉)。発生的には、

「もが」に「も」が下接したものであるが、「万葉集」で「毛欲得」「母欲得」「毛冀」などと表記されている例もある、

とされ、上代にすでに、

も‐がも、

という分析意識があった(精選版日本国語大辞典)としている。

都へに行かむ船もが刈り薦(こも)の乱れて思ふ言告げやらむ(万葉集)、
あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ(万葉集)、

と、奈良時代に使われた、

もが、

は、

係助詞「も」に終助詞「か」がついた「もか」の転(広辞苑・デジタル大辞泉)、
係助詞「も」に終助詞「が」の付いたもの(精選版日本国語大辞典)、

がある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)が、

名詞、形容詞および助動詞「なり」の連用形、副詞、助詞に付く。上の事柄の存在・実現を願う意を表す(デジタル大辞泉)、
文末において、体言・副詞・形容詞および助動詞「なり」の連用形、副助詞「さへ」などを受けて、願望を表わす(精選版日本国語大辞典)、
体言・形容詞連用形・副詞および助詞「に」を承け、得たい、そうありたいと思う気持ちを表す(岩波古語辞典)、

等々とあり、

……があればいいなあ、
……であってほしいなあ、
……でありたい、
……がほしい、

といった意味で使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。

もが、

をさらに強調して、

もが・も、

といったことになる。上代でも、

「もが」単独の形、は「もがも」に比して少なく、中古以後は「もがな」の形が圧倒的になる、

とある(精選版日本国語大辞典)。ただし、後世にも、

源実朝や橘曙覧など万葉調歌人の歌にはしばしば用いられる、

とあり、

もがも、

が、平安時代以降、

もがな

に代わっても、「金槐集」など万葉調の歌には使われたのと同じで、

万葉調、

の特色として、歌人には使われたようである。終助詞、

も、

は、主として奈良時代、

春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影にうぐひす鳴くも(万葉集)、

と、

文末で、活用語の終止形、助詞、接尾語「く」に付く。感動・詠嘆を表す(デジタル大辞泉)
活用語の終止形(係結びでは結びの形)、ク語法について、詠嘆の意を表す。体言には、「かも」「はも」等々の形で用いる、なお「かも」は平安時代には「かな」に代わる(広辞苑)、

などとあり、

……ことよ、
……なあ、

の意となる(デジタル大辞泉)。

もがも、

が変化した、

もがな

は、

終助詞「もが」「な」の重なったもの。上代の「もがも」に代わって中古以後に用いられた形、文末において体言・形容詞や打消および断定の助動詞の連用形・格助詞「へ」などを受け、願望を表わす(精選版日本国語大辞典)、
体言、形容詞の連用形、副詞などの連用部分につき、その受ける語句が話し手の願望の対象であることを表す(広辞苑)、
終助詞「もが」+終助詞「な」から、名詞、形容詞および助動詞「なり」「ず」の連用形、助詞に付く。上の事柄の存在・実現を願う意を表す(デジタル大辞泉)、

とされ、

かくしつつとにもかくにもながらへて君が八千代に逢ふよしもがな(古今和歌集)、

と、

……かほしい、

意や、

み吉野の山のあなたに宿もがな世のうき時の隠れ家にせむ(古今和歌集)、
ありはてぬ命待つ間のほどばかりうき事繁く思はずもがな(古今和歌集)、

と、

……があるといいなあ、
……であるといいなあ、
……(で)あってほしいなあ、

といったいで使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。成立に関しては一般に、

願望を表わす「もが」に感動を表わす「な」の付いたもの、

とするが、上記の、

かくしつつとにもかくにもながらへて君が八千代に逢ふよしもがな(古今和歌集)、

を、

かくしつとにも角にもながらへて君が八千代に逢よしも哉、

と、

中古「もがな」が「も哉」とも表記されたこと、また「をがな」の形、さらには「がな」の形も用いられていることなどから、当時「も‐がな」の分析意識があったと推測される、

とある(精選版日本国語大辞典)。

も‐がな、

と意識された、

がな、

は、奈良時代にあった、

「もがも」という終助詞……が、平安時代になると、それが「もがな」に転じた。それが後には、「も」と「がな」との結合であると一般に思われるようになったらしく、「も」と「がな」を分離して、平安・鎌倉時代には、「をがな」の形でつかわれた(岩波古語辞典)、
多く「もがな」の形で用いられたが、中古中期ごろから「をがな」の形も現れた。「もがな」は「も‐がな」と意識され分離し、のち「がな」単独でも用いられた(精選版日本国語大辞典)、

とある、

がな、

は、

願望を表わす終助詞「が」に、詠嘆の終助詞「な」の付いてできたもの(精選版日本国語大辞典)、
終助詞「が」+終助詞「な」(デジタル大辞泉)、

で、

かの君達をがなつれづれなる遊びがたきになどうちおぼしけり(源氏物語)、
あっぱれ、よからうかたきがな。最後のいくさして見せ奉らん(平家物語)、

などと、

体言または体言に助詞の付いた形を受け、願望、

の意を表わし、

……が(あって)ほしいなあ、
……だったらよいのに、

の意で使う(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。中世以後になると、

はしへまはれば人がしる、湊の川の塩がひけがな(歌謡「閑吟集(1518)」)、
早ふいねがないねがなともがけどいぬる気色なく(浄瑠璃「今宮心中(1711頃)」)、

と、

命令(禁止を含む)文を受け、第三者の動作の実現を願う、

意を表わし、

……(て)ほしいなあ、

といったいで使う(精選版日本国語大辞典)。

「哉」.gif

(「哉」 https://kakijun.jp/page/0927200.htmlより)

「哉」(漢音サイ、呉音セ・サイ)は、

会意兼形声。才は、裁の原字で、断ち切るさま。それに戈を加えた𢦏(サイ)も同じ。哉は「口+音符𢦏(サイ)」で、語の連なりを断ち切ってポーズを置き、いいおさめることをあらわす。もと言い切ることを告げる語であったが、転じて、文末につく助辞となり、さらに転じて、さまざまの語気を示す助辞となった。また、裁断するとは素材に初めて加工はすることであるから「はじめて」の意の副詞となった、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です。「口」の象形(「言葉」の意味)と「川のはんらんをせきとめる為に建てられた良質の木の象形とにぎりの付いた柄の先端に刃のついた矛の象形」(「災害を断ち切る器具」、「断ち切る」の意味)から、「言葉を断ち切る助字」を意味する「哉」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2392.html

ともあるが、

形声。「口」+音符「𢦏 /*TSƏ/」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%93%89
形声。口と、音符𢦏(サイ)とから成る(角川新字源)、

は、形声文字とする。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:46| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする