2024年12月24日
打麻(うちそ)
打ち麻(そ)を麻続(をみ)の王(おほきみ)海人(あま)なれや伊良虞(いらご)の島の玉藻刈ります(万葉集)
の、
打ち麻を、
は、
麻続(をみ)、
つまり、
麻続(ヲウミの略)、
にかかる枕詞(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。
打麻(うちそ)、
の、
そ、
は、
麻(あさ)、
のこと(精選版日本国語大辞典)、
で、
打麻、
は、
うつそ、
ともいい、
麻を打って柔らかくしたもの、
をいう(広辞苑・岩波古語辞典)。
麻、
は、
大麻、
苧麻(からむし)、
黄麻、
亜麻、
などの総称(広辞苑)で、現代では、
「大麻(ヘンプ)」「苧麻(ラミー)」「亜麻(リネン)」「黄麻(ジュート)」「洋麻(ケナフ)」、
等々、茎の繊維を取る植物の総称として使われている(https://hemps.jp/asa-hemp-taima/)。なかでも、
大麻、
と
苧麻(ちょま・ラミー)、
は古代から日本で利用され、縄文時代の貝塚から「大麻」を使った縄が見つかっている(仝上)という。
麻(あさ)、
は、
植物表皮の内側にある柔繊維または、葉茎などから採取される繊維の総称、
であるが、
狭義の麻、
の、
大麻、
と、
広義の麻、
の、
苧麻(からむし)、
があり、後者は、日本では、
麻、
と呼ばれ、和装の麻織物(麻布)として古くから重宝されてきた。狭義の麻は、神道では重要な繊維であり様々な用途で使われる。麻袋、麻縄、麻紙などの原料ともなる。
狭義の麻である、
大麻、
は、古語、
總(ふさ)、
といい(平安時代の『古語拾遺』)、
を(麻・苧)、
そ(麻)、
とも言った。
打麻(うちそ)、
の、
そ、
はこれである。これは、
クワ科の一年草、
で、
春蒔きて、秋刈る。茎、方(カタ)にして、直(すぐ)に生ふること、七八尺に至る、葉の形、カヘデの葉に似て、長大にして対生す、茎の皮の繊維(すじ)を取りて、麻絲とし、其残茎は、アサガラ(一名ヲガラ)となる、
とあり(大言海)、
雄、雌あり、雄麻は、夏薄緑なる細かき花を生じて、實無し。一名サクラアサ。枲麻。雌麻は、花、緑にして細かき粒の如き子(み)を結ぶ。アサノミと云ひて、食用とす。一名、みあさ。苴麻、
とある(大言海)。和名類聚抄(931~38年)には、
麻、阿佐、
とある。漢語では、雄株を、
枲(シ)、
雌株を、
苴(ショ)・芓(シ)、
という(http://www.atomigunpofu.jp/ch4-vegitables/taima.htm)とある。「櫻麻」で触れたように、この名は、万葉集古義(江戸末期)に、
櫻麻は、櫻の咲く頃、蒔くものなる故に云ふ、と云へり、
とあり(大言海)、
麻の種は陰暦三月の頃に蒔く、
からだとし(仝上)、
雄麻(ヲアサ)の一名、
とした(仝上・精選版日本国語大辞典)。
をとめらが績麻(うみを)のたたり打麻懸(うちそかけ)倦(う)む時なしに恋ひわたるかも(万葉集)
とある、
打麻懸(うちそかけ)、
というと、
「うちそ」を糸にするために木のわくにかけて績(う)む、
意から、
「績む」と同音の「倦(う)む」
にかかる(精選版日本国語大辞典)とある。因みに、冒頭の、
麻績王(おみのおう)は、7世紀末の皇族で、
麻続王、
麻積王、
とも称されるが、
生没年不詳、
とされ、『日本書紀』には、675年5月17日(天武天皇4年夏4月18日)の条に天武天皇によって、
三位麻続王に罪あり、因幡に流した、
とあり、麻績王の子の1人を伊豆諸島の伊豆大島に流罪にし、もう1人を血鹿嶋(長崎県五島列島)に流罪にしたとある。冒頭の『万葉集』の歌では、流罪先が、
伊勢国の伊良虜の島、
になっているので、流罪先も諸説あることになる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%BB%E7%B8%BE%E7%8E%8B)。
「打」(唐音ダ、漢音テイ、呉音チョウ)は、「うちつけに」で触れたように、
会意兼形声。丁は、もと釘の頭を示す□印であった。直角にうちつける意を含む。打は「手+音符丁」で、とんとうつ動作を表す、
とある(漢字源)が、
形声。「手」+音符「丁 /*TENG/」。「うつ」を意味する漢語{打 /*teengʔ/}を表す字、
も(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%89%93)、
形声。手と、音符丁(テイ)→(タ)とから成る。手で強く「うつ」意を表す、
も(角川新字源)、形声文字とする。
「麻」(漢音バ、呉音メ、唐音マ)は、「麻」で触れたように、
会意文字。「广(やね)+𣏟(麻の茎を二本並べて、繊維をはぎ取るさま)」。あさの茎をみずにつけてふやかし、こすって繊維をはぎとり、さらにこすってしなやかにする、
とあり(漢字源)、大麻の一種で、雌雄異株で、雄株を枲又牡麻、雌株を苴麻又小麻というとある(字源)。別に、
会意。广(げん)(いえ)と、𣏟(はい)(あさ)とから成り、屋下であさの繊維をはぎとる、ひいて「あさ」の意を表す(角川新字源)、
ともあるが、これらは、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)に基づくもので、
『説文解字』では「广」+「𣏟」と説明されているが、これは誤った分析である。金文の形を見ればわかるように「广」とは関係がない、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BA%BB)、
形声。「厂」(「石」の原字)+音符「𣏟 /*MAJ/」。「砥石」を意味する漢語{磨 /*maajs/}を表す字。のち仮借して「あさ」を意味する漢語{麻 /*mraaj/}に用いる、
としている(仝上)。なお、
麻は雌体、枲は雄体、
を意味するともある(漢辞海)。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95