2025年01月10日

山たづ


君が行き日(け)長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ(万葉集)、

の、

山たづ、

は、注記として、

ここに山たづといふは、今の造木をいふ、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

山たづの、

で、

「迎へ」の枕詞、

となり、

山たづ、

は、

にわとこ、

で、

神迎えの霊木、

とある(仝上)。ちなみに、

造木、

は、

みやつこぎ、

と訓ませ、

にわとこの古名、

である(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。

たはく」で触れたことだが、この歌の題詞(だいし 詞書と同じ、和歌や俳句の前書き。漢文で書かれた万葉集の場合、題詞(だいし)という)には、

軽太子(かるのひつぎのみこ)、軽太郎女(かるのおほいらつめ 軽太子の同母妹)に姧(たは)く。この故にその太子を伊予の湯に流す。この時に、衣通王(軽太郎女(かるのおおいらつめ)のこと)、恋慕ひ堪へずして追ひ往く時に、歌ひて曰はく、

とある。

やまたづ、

は、

にわとこ(接骨木)の古名、

で、

みやこぎ、

ともいう、

とある(岩波古語辞典)。

山たづの、

は、

ニワトコの枝葉は相対して生ずる、

ので、

むかへ

にかかる枕詞である(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

山たづ、

は、

くさたづ(接骨草)に対す、

とある(大言海)。

くさたづ、

は、

接骨草、
蒴藋、

と当て、

接骨木(にはとこ)をたづの木と云ひ、木本(きだち)なれば、又、木だつと云ふ。それに対して、此草は草本(くさだち)なれば、草たづと云ふなり、

とあり(大言海)、江戸後期の『箋注和名抄』に、

今俗、呼接骨木、為木多豆呼蒴藋為草多豆、

とある。

ソクズ.jpg



ソクズの実.jpg


くさたづ、

は、

そくず(蒴藋)の異名、

であり、

そくどく、

とも訓ませ(仝上)、

レンプクソウ科の多年草。北海道を除く各地の山野に生え、高さ1~1.5メートル。葉は大形の羽状複葉。夏に白い小花が多数集まって咲く。実は小粒で赤く熟す。全草を乾かして入浴剤にする(デジタル大辞泉)、

スイカズラ科の多年草。本州、四国、九州および中国の山野に生える。根茎から太い茎を直立し、高さ一~二メートル。葉は大形の羽状複葉で五~七個の小葉からなり対生する。小葉は長さ五~一五センチメートルの広披針形で縁に鋸歯(きょし)がある。夏、茎の先に大形の花序をつけ、白い小花を密生する。花冠は五裂し、径三~四ミリメートル。花序のところどころに黄色の杯状の腺体がある。果実は径約四ミリメートルの球形で赤く熟す。葉・根を乾燥したものは薬用としてリウマチ、打撲傷あるいは下痢どめに用いる(精選版日本国語大辞典・動植物名よみかた辞典)、

と、科目が別れるが、漢名は、

蒴藋(サクチュウ)、

とあり(精選版日本国語大辞典)、葉は、

ニワトコに似たり、

実も、

ニワトコの如し、

とあり(大言海)、で、

くさにわとこ、
くさたず、
にわたず、
オランダ草、

などという(精選版日本国語大辞典)。

山たづ、

つまり、

たづのき、

は、

にわとこ(接骨木)の異名、

とされる(「大和本草(1709)」)が、

「ねずみもち(鼠黐)」の異名、

とも(「本草和名(918頃)」)、

「きささげ(木豇豆)」の異名、

ともされる(「きささげ」については「楸(ひさぎ)」で触れた)。

たづのき、

は、

木たづ、
山たづ、
みやこ木(ぎ)、
みやつこぎ(造木)、

ともいう(大言海)、いわゆる、

にわとこ、

で、

接骨木、

と当て、

續骨木、
接骨、

ともいい(大言海)、『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918年編纂)に、

接骨木、和名美也都古木、

『康頼本草』(984)にも、

接骨木、美也川己支、ニハトコ、

とある(大言海)。で、

ミヤツコギ、

の名は「宮仕う木」に由来し、紙を切って木に挟み神前に捧げた幣帛(御幣)が、大昔は木を削って作られた木幣だったものと推定され、その材料に主にニワトコが用いられた、

とする説があるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%82%B3。だから、「ニハトコ」の由来に、それと絡める説もあり、

みやつこ木の音転(大言海・松屋筆記)、
ニワトコキは、ニ-ソクト(蒴藋)木の義か(名語記)、
ニハイトヒキ(庭厭木)の義(日本語原学=林甕臣)、
ニハトコ(庭鳥籠)の義(名言通)、
ニハ(庭)+ツ(連体助詞)+ウコギ(五加木)の略転(語源辞典・植物篇=吉田金彦)、

等々の諸説があるが、はっきりしない。すくなくとも、

くさたづ、

と対比していたことは確かのように思えるが、漢字表記の、

接骨木、

は、

ニワトコ、

とも、

せっこつぼく、

とも訓ませるが、

枝や幹を煎じて水あめ状になったものを、骨折の治療の際の湿布剤に用いたため、

といわれるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%82%B3。中国植物名は、

無梗接骨木(むこうせっこつぼく)、

といい、漢名で接骨木といえばトウニワトコを指す(仝上)とある。ただ、

接骨木、

を慣用漢名としているが、正しくは、

センリョウ、

の漢名としているものもある(精選版日本国語大辞典)。

ニハトコ、

は、

レンプクソウ科の落葉低木。山野に自生。枝の内部に白い髄があり、葉は長楕円形の小葉からなる羽状複葉。春、白色の小花が円錐状に咲き、実は赤く熟す。幹や枝を消炎・利尿薬に、花を発汗に用いる。庭木とする(デジタル大辞泉)、

とする説もあるが、多くは、

スイカズラ科の落葉低木。本州・四国・九州の山野に生える。高さ約六メートル。髄は褐色で太く柔らかい。葉は対生し奇数羽状複葉で五~一一個の小葉からなる。小葉は長さ六~一五センチメートル、披針形または長楕円形で縁に細鋸歯(きょし)がある。托葉は線状。春、葉腋に花柄を出し先が五裂したごく小さな白花を円錐状に集める。果実は小球形で赤く熟す。葉・花は煎(せん)じて利尿・発汗薬および湿布に用いる(精選版日本国語大辞典)、

スイカズラ科(APG分類:ガマズミ科)の落葉低木。高さ2~6メートル。葉は羽状複葉。3~5月、円錐(えんすい)花序をつくり、5数性の小花を多数集めて開く。花冠は淡黄色、裂片は反り返る。子房は下位で3室。果実は球形、9~10月、赤色に熟す。本州から九州、および朝鮮半島に分布し、北海道には花序の粒状突起が長い変種エゾニワトコがある。庭木として植えられ、早春の切り花とする。葉は発汗、利尿に効果があり、民間薬とする。髄は顕微鏡観察用の切片をつくるのに用いる(日本大百科全書)、

山野のやや湿ったところに生えるスイカズラ科の落葉低木。庭木として植えられたり、切花にされる。高さ3~6m、枝には太く柔らかい髄がある。葉は羽状複葉で小葉は5~7枚。花は枝の先に多数集まって円錐状となり、長さ幅とも3~6cm、4~5月に咲く。萼裂片は著しく退化し、花冠は淡黄色、5裂し、そり返る。子房は下位で3室、各室に1胚珠が下垂する。液果は夏に赤く熟し、鳥が食べる。若い枝の髄は顕微鏡観察用の切片を作るピスとする。中国産のニワトコに似たS.williamsii Hanse(中国名は接骨木)の花を乾かしたものを接骨木花といい、発汗・利尿剤とし、また打身、切傷、リウマチにも効く。日本のニワトコも接骨木と呼ばれ、同様に利用される(世界大百科事典)、

スイカズラ科の落葉低木。本州〜九州、朝鮮の山野にはえる。枝には柔らかく太い髄がある。葉は対生し、長楕円形の小葉2〜5対からなる奇数羽状複葉。3〜4月、若枝の先に散房花序を出し、径3〜5mmで淡黄白色の花を多数開く。果実は球形で6〜7月、赤熟。材は細工物などとする(マイペディア)、

等々、スイカズラ科とされる。

ニワトコ.jfif



ニワトコの蕾.JPG



ニワトコの花序.JPG


ニワトコの果実.jfif


参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:53| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする