高照らす日の御子は明日香の清御原(きよみ)の宮に神ながら太敷きましてすめろき(天皇)の敷きます国と(万葉集)、
の、
太敷く、
は、
か/き/く/く/け/け
と活用する、
他動詞カ行四段活用、
で、
ふと(太)、
は、
形容詞「ふとし」の語幹相当部分、
で(精選版日本国語大辞典)、
物の直径が大きい意、接頭語的に使う、
とあり(岩波古語辞典)、
績麻(うみを)なす長柄(ながら)の宮に真木柱太高敷(ふとたかしき)て食国(をすくに)を治めたまへば(万葉集)
と、
直径が大であること、
の意、そこから転じて、
あきづ島大和の国の橿原(かしはら)の畝傍(うねび)の宮に宮柱(みやばしら)太(ふと)知り立てて天(あめ)下知らしめしける(万葉集)、
と、
(柱などの直径が大きい意から)建物などがどっしりと壮大であること、
また、
しっかりしていること、
の意となり、それをメタファーに、
中臣の太祝詞(ふとのりとごと)言ひ祓(はら)へ安賀布(あかふ)命も誰(た)がために汝(なれ)(万葉集)、
と、
荘重で立派なこと、
の謂いで使う(岩波古語辞典)。で、
ふとのりと、
ふとたすき、
ふとしる、
など、
神や天皇などに関する名詞・動詞などの上に付けて、壮大である、立派に、などの意を添え、これを賛美する意を表わす、
のに使う(精選版日本国語大辞典)。
ふとしく、
の、
しく、
は、
しる(領)と同じ、
とある(岩波古語辞典)。
しる、
は、
知る、
領る、
と当て、
物事をすっかり自分のものにする、
意(精選版日本国語大辞典)で、ここでは、
統治する、
支配する、
という意で、
ふとしく、
は、
吉野の国の花散らふ秋津の野辺に宮柱太敷(ふとしき)ませば(万葉集)、
と、
宮殿などの柱をしっかりとゆるがないように地に打ちこむ、
宮殿を壮大に造営すること、
にいい。
ふとしきたつ、
ふとしりたつ、
ふとしる、
ふとたかしく、
ともいう(仝上)。これをメタファに、
やすみしし我(わ)が大君高照らす日の皇子神ながら神さびせすと太敷(ふとしか)す京を置きて(万葉集)、
と、
居を定めて天下を統治する、
意、つまり、
ふとしる、
と同義である(精選版日本国語大辞典)。
(「泰」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) )
「太」(漢音呉音タイ、慣用タ・ダ)の異体字は、
大、夳、態、泰、𡘙、𡙒、𣡳、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%AA)、
「泰」の略字体、
「大」と同義、
とあり(仝上)、その字源は、
会意文字。太は、泰の略字。泰は「水+両手+音符大」の会意兼形声文字、
とある(漢字源)。また、
(「泰」は)「大」に「水」と「廾」を加えた異体字。秦の政治改革に際して作られた文字で、「水」は水徳を表し、「廾」は「秦」の文字に似せるために加えられた、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B3%B0)あるが、
形声。声符は大(たい)。〔説文〕水部泰字条十一上に「滑らかなり」とあり、その古文として太の字形をあげている。泰は水の上に、人を両手でおしあげている形で、人を水没から救い、安泰にする意。大の下の点は、水の省略形とみてよい。もと泰と同義の字であるが、のちその副詞形、また修飾語的な用義の字となった。〔玉篇〕大部に太を録して「甚なり」といい、副詞とする。古い時期には大・太を厳密に区別することがなく、金文に大宗・大子・大室・大廟・大史の字は、すべて大に作る。漢碑には大守・大尉をまた太守・太尉としるすことがあり、太守の例が多く、ほぼその慣用字となる。太・泰はもと一字、大・太・泰は声義近く通用の字であるが、それぞれ慣用を異にするところがある(字通)、
は、形声文字とし、
指事。大に、重複の記号の(丶は省略した形)をそえて、大きい意を強調する(角川新字源)、
は、指事文字とし、
会意兼形声文字です(二+大)。「両手両足を伸びやかにした人」の象形(「大きい」の意味)と「2本の横線」(「2倍にする」の意味)から「大きい上にも大きい」すなわち「ふとい」を意味する「太」という漢字が成り立ちました、
は、会意兼形声文字(https://okjiten.jp/kanji164.html)とするなど、ばらばらである。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95