をち水

我がたもとまかむと思はむますらをはをち水求め白髪(しらが)生(お)ひたり(万葉集)、 の、 をち水、 は、 月にある若返りの水、 を指す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 をちみづ、 は、 復(ち)水、 変若(ち)水、 と当て、 飲むと若返るという水、 をいい、 天橋(あまはし)も長くもがも高山(たかやま)も高くもがも月夜…

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へつかふ

絶ゆと言はばわびしみせむと焼太刀(やきたち)のへつかふことは幸(さき)くや我(あ)が君(万葉集)、 の、 わびしみせむと、 は、 私がしょんぼりすると思って、 と訳され、 焼太刀の、 は、 へつかふ、 の枕詞(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 へつかふ、 は、 そばにちかづく、 意で(広辞苑)、 へつかふことは幸…

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くるべき

我妹子(わぎもこ)に恋ひて乱ればくるべきに懸けて撚らむと我(あ)が恋ひそめし(湯原王) の、 くるべき、 は、 糸車、 で、 我が恋ひそめし、 は、 別れるときはこうでも言おうと思っていたの表現で、一種の負け惜しみ、 と注釈し、 乱れ心を糸車にかけて、うまいこと搓り直せばよいと、そう思って恋い初めただけのこと、 と訳す(伊藤博…

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かつがつ

玉守(たまもり)に玉は授(さず)けてかつがつも枕と我れはいざふたりねむ(大伴坂上郎女) の、 かつがつも、 は、 ともかくも、 の意、 心底からは納得しない気持ち、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 かつがつ、 は、 且且、 克克、 と当てる(広辞苑)。 一説に、「耐える」意の「かつ」を重ねたもので、本来、「こらえ…

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をそろ

相見ては月も経(へ)なくに戀ふと言はばをそろと我(あ)れを思ほさむかも(大伴駿河麻呂) の、 をそろ、 は、 おそ、 は、 軽率、 ろ、 は接尾語、とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 おそろ、 は、 「おそ(軽率)」に接尾辞「ろ」の付いた語(広辞苑)、 ロは助辞、ヲソ(虚言)と云ふに同じ(大言海)、 「ろ」は接尾語、軽率…

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はねず

思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我(あ)が心かも(大伴坂上郎女) の、 はねず色、 の、 はねず、 は、 にわうめ、か、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 うつろひやすき、 の枕詞とある(仝上)。 (ニワウメ https://ikbird.sakura.ne.jp/4na/niwaume/niwaume.htm…

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しゑや

あらかじめ人言(ひとごと)繁(しげ)しかくあらばしゑや我(わ)が背子奥もいかにあらめ(大伴坂上郎女) の、 しゑや、 は、 ちぇ、 ああしゃくだ、 の、感嘆詞、 奥、 は、 将来、 の意(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 しゑや、 は、 よしゑむやしの略、 ともある(大言海)が、 シもヱもヤも感動詞、 …

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中言(なかごと)

汝(な)と我(あ)を人ぞ離(さ)くなるいで我(あ)が君人の中言(なかごと)聞きこすなゆめ(大伴坂上郎女) の、 聞きこすなゆめ、 は、 耳を貸してくださるな、決して、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 こす、 は、 下手に出て希求する意、 とある(仝上)。 こす、 は、上代の特殊活用の、 こせ・〇・こす・〇・〇・こそ…

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山橘(やまたちばな)

あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ(春日王) の、 山橘、 は、 やぶこうじ、 とあり、 上二句は序、「色に出づ」を起こす、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 序、 は、 あることばを導き出すためにその前に置く修飾のことば、 で、 序詞、 ともいう(精選版日本国語大辞典)。 …

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月読(つくよみ)

月読(つくよみ)の光に来(き)ませあしひきの山きへなりて遠からなくに(湯原王) の、 月読、 は、 月を神に見立てた呼名、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 山きへなりて、 は、 山が隔てとなった遠いみちのりでもないのに、 と訳し、 き、 は、 不明、 とする(仝上)。 つくよみ、 は、 つき…

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しつたまき

しつたまき数にもあらぬ命もて何かここだく我(あ)が恋ひわたる(安倍虫麻呂) の、 ここだく、 は、 許多(ここだ)く、 幾許く、 と当て、 ここだ(幾許)、 は、 こんなに数多く、 こんなに甚だしく、 の意で、 ココダに副詞を作る語尾ク、 のついた副詞、 ここだ(幾許)く、 も、同じ意味になる(伊藤博訳注『新版…

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わた

海(わた)の底奥(おき)を深めて我(あ)が思へる君には遭はむ年は経ぬとも(中臣郎女) の、 わた、 は、 奥(心の底)の枕詞、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 わた、 は、 わたのはら(海の原)、 海(わた)の底、 わたつみ(海神)、 わたなか(海中)、 わたつうみ(海)、 等々と使い、 わたつうみ、 うみ、 …

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たまきはる

直(ただに)逢ひて見てばのみこそたまきはる命に向(むか)ふ我(あ)が恋やまめ(中臣郎女) の、 命に向ふ、 は、 命を的にする、 命がけの、 の意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 たまきはる、 は、 魂極る、 玉極る、 霊極る、 魂剋る、 玉きはる、 魂きはる、 などと当て(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大言海)、こ…

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けだしくも

けだしくも人の中言(なかごと)聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ(大伴家持) の、 けだしくも、 は、 ひょっとしたら、 と訳し、 中言、 は、 中傷、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 中言(なかごと)、 についてはで触れた。 けだしくも、 は、 蓋しくも、 と当て、 副詞「けだしく」+係…

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けだしくも

けだしくも人の中言(なかごと)聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ(大伴家持) の、 けだしくも、 は、 ひょっとしたら、 と訳し、 中言、 は、 中傷、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 中言(なかごと)、 についてはで触れた。 けだしくも、 は、 蓋しくも、 と当て、 副詞「けだしく」+係…

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息の緒

なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我(あ)れ恋ひめやも(大伴家持)、 の、 息の緒、 は、 緒のように長く続く息、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 息の緒にして、 は、 命がけで、 と訳す(仝上)。 息の緒、 は、 生の緒、 とも当て、 息の長く続くことを緒にたとえた語で、 いのち、 …

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ねもころに

思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我(あ)れかも(大伴家持) の、 ねもころ、 は、 ただひたすらに思い詰めて、 と訳される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 ねもころ、 は、 懇、 と当て、 ねんごろ、 の古い形(精選版日本国語大辞典)で、後に、 ねもごろ、 とも変ずる(仝上)。今日使う、 ねんごろ…

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目言(めこと)

海山も隔たらなくに何しかも目言(めこと)をだにもここだ乏(とも)しき(大伴坂上郎女) の、 目言、 は、 目で語りかけること、 で、 目配せする機会さえも、 と訳される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。なお、 こごた、 は、 は、 幾許、 と当て、 こんなに多く、 こんなに甚だしく、 の意、 ここだく、 …

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うはへなし

うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽(つく)さく思へば(大伴家持) の、 うはへなき、 は、 かわいげのない、 と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 うはへなし(うわえなし)、 は、 無情、 とも当て(大言海)、 上重(ウハヘ)なしにて、露骨(ムキダシ)なる意にもあるか、 とあり(仝上)、 愛想がない、 すげな…

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しくしく

春日野に朝居(ゐ)る雲のしくしくに我(あ)れは恋ひ増す月に日に異(け)に(大伴像(かた)見) 春雨のしくしく降るに高円(たかまど)の山の桜はいかにかあるらむ(河辺東人) の、 しくしく、 は、 しきりに、 の意で、 上二句は序、しくしくを起こす、 とあり、 月に日に異(け)に、 は、 月日が経つにつれてだんだんと、 と訳され…

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