2012年12月19日

問題と思えなければ問題は存在しない~吉川 悟先生「治療システムと介入の下地作り」に参加して



吉川悟先生の「治療システムと介入の下地作り」~ 基本の大切さ、システムズアプローチの実技指導~というワークショップに参加しました。いわゆるシステムズアプローチです。誰が原因で,なぜ起こったかという原因論ではなく,どういう状況で,何が起きたか,を基本スタンスにして,文脈を理解したうえで,相互作用によるパターンを見つけ,そのパターン(の一部)を変えてやることで,問題対処のパターンを変える,あるいはコンテキストを変えることで,行動の意味を変える等々,症状が変わらなくても行動の意味が変わることで,問題が消える。たとえば,何度も,ちゃりで家出する少年を競輪選手にさせれば,問題の意味が変わるというたとえ話がでましたが。

案内のメールに,吉川先生のメッセージとして,こうありました。

「システムズアプローチの実践において最も重要なことは、さまざまな技術的なこと以上に「治療システムの構築」です。治療システム構築のためのジョイニングを簡単に考えるのではなく、情報収集の仕方そのものについてもジョイニングの鉄則に則り、「クライエントや家族が話しやすいようにすること」「話の展開に負荷をかけないようにすること」などのための基本原則が様々に存在します。また、治療システムが有効に構築できたとしても、拙速な介入は怪我の元となります。

介入のためには、下地作りが必要で、働きかけようとしていることが「現在の治療システムにとって負荷が大きなものにならないか」「当然のこととして変化を了解してくれる可能性があるのか」「できることをお願いしようとしているのか」といった単純なレベルの日常確認でさえ、介入の下地といえます。

2日間のワークを通じて、これら2点の繋がりのある内容を重点的にチェックしていただき、その技量を上げていただくことが今回の目標となります。 」

要は,ジョイニングの基礎から,面談の仮説設定まで,初めはシナリオあり,次はシナリオなしで,ほとんどが実践的なワークでした。この中で得たものをまとめるのは,正直至難の業で,ワーク中,汗をかき,恥をかき,意欲をなえさせられ,混乱させられ続けたので,そこで得た考えをまとめることにしたいと思います。まあ,事象の経過報告にとどまらざるをえませんが。

システムズアプローチについては,詳しくないので,吉川先生が,著書で,こう書かれているところからスタートし,自分なりの整理をしたいと思います。

システムは実体として存在するものではありません。システム論が観察対象を概念化する指標である以上,観察者が任意の要素間の相互作用にある種の秩序を見出すことによって,その要素の集合体をシステムとして概念化するのですから,システムは観察者の中に存在するもので,実体としてのシステムの存在の有無は議論されないことになります。

つまり,セラピストが必要に応じて対象システムを切り分けていく,という風に受け止めて構わないと感じました。つまり,五人の家族がいても,セラピーの場所に,来る,来ないにかかわらず,母と子ども二人だけのシステムを対象として,それを変化の対象を任意のシステムとして,その中で起こっている問題のパターンを変えようとすることだ,と理解しました。その切り分けに,たぶんシステムズアプローチをするセラピーの力量が問われるだろう,と。


では,システムズアプローチの目的は何か。

ある立場の考え方では,客観的な事実としての問題を維持しているという状態であっても,その中でそれが「困ったこと」程度にあつかわれ,安定的な相互作用が維持できているという場合には,自分たちのコンテキストが変化すること(治療を受けること)を望まないと述べています。つまり,客観的には「困ったこと」であったとしても,それが「困った」ことという程度で維持できる状態では,その「困ったこと」は『問題』ではなく,安定的な相互作用を維持させる一つの要素になっていると考えるのです。そして,治療を求めるということは,そのシステムにとってこれまでのかかわり方が変化せざるをえないということの象徴であり,「困ったこと」が『問題』として扱われているためだと考えています(これは,そのシステムだけの要望ではなく,そのシステムの属しているより大きなシステムや,個人というより小さなシステムからの影響に対応するためかもしれません)。
 さて,こうした『問題』ついての考え方の違いと同様に,『解決』についての考え方も『問題』に対応しています。客観的な立場や一定の規定にしたがって問題が解決したか否かではなく,全く問題自体が変化していなくても,治療を必要としていたシステムが『問題』を問題としなくなった段階がシステムズアプローチにおける『解決』だと考えるのです。

つまりは,IP(Identified Patient 患者とみなされたひと)中心の問題と考えてはいけない,そのシステムで起こっている相互作用と考えて,そのパターンを見つけなくては入れない。だから,問題は何か等々という窓枠はなく,切り取ったシステムでは,どういう文脈で,何が起きているか,というパースペクティブだけが必要なのだ,と理解しました。


そこで,システムズアプローチの,起こる出来事に対する基本的なスタンスは,

誰が,なぜ起こったか,

とは考えない。そうではなく,

どんな状況で,何が起こっているのか,

を重視することになります。

問題と感じているのは,来談者であり,セラピスト側は,問題と見る窓枠,あるいは問題に焦点を当てる見方を取らないのだと受け止めました。問題があると考えるから,問題に焦点が当たる。問題ではなく,何かが起きている,それは何かということに焦点を当てるのである,と。

「状況」とは,「出来事が行われている場面の設定の共通因子となるもの」「文脈を理解する」という意味であり,場面設定を変えると,何かが変わる,と考える。「何が」とは,「出来事から意味や価値を排除した出来事のつながり=パターン」を理解する。

そのパターンの一部を変えることで,何かが変わる,と考えるのです。その何かは,その家族の特有の文脈だから,そうなったとみなす,だから文脈が変われば,違う意味を持つかもしれないし,その何かは,家族同士の相互作用で,そのつながっている一連のパターンを少しいじるだけで,動くかもしれない。しかし,セラピストが変化を起こすのではない。家族の誰かが動いてくれればいい。そのためにセラピストは家族の誰かが動きやすくしてやればいい。そうやってパターンさえ変われば,人の問題行動は変わっていくのではないか……。

だから,どういう特有の状況で,何が起きているかをつかむ。情報には,コード化できるコード情報と文脈やニュアンスというコード化できないモード情報というのがある,とされます。ここでは,その文脈の中で,特有の出来事の連鎖をつかみ,そこに一定のパターンを抽出していこうということになります。その際,問題かどうかは,こちらの予断であり,先入観に過ぎません。そういうものを脇に置いて,ただ観察する。科学者の実験に似ています。特有の状況の,特質すべきパターンを抽出する。

われわれは場面に応じて行動を使い分けているので,兄弟や友人と話しているのと同じため口を聴けば,会社では問題になるかもしれない。会社でやっている指示命令口調を,家族にすればやはり問題かもしれない。しかし,ため口を問題にしない職場だってありうる(そこで,困ったことではあっても,問題というほどに考えなければ,治療の対象となることはない)。


システムズアプローチの治療構造は,

情報収集→仮説設定→働きかけ→情報収集→

と循環していきます。一瞬一瞬のやり取りが,そのまま働きかけになり,それに対応する相手の振る舞いが,情報収集となり,次の働きかけのための仮説,ではこういうことではないか,という仮説を立てて働きかけていく。これは,たとえば入って,挨拶したら,相手がどう返してきたかを見て,また仮説を立て,次の働きかけを考えていく,というふうに頻繁に一回転が回っていく。だから,当然一つの仮説にしがみつくなどということはありえない…。


さて,まずやって来たクライアント家族に話を聞かなくてはならない。

それを,吉川先生は,「家族『を』治療する」のではなく,「家族『と』治療する」といいます。そのために,家族と仲良くならなくてはならない。「家族に家族の一員として認知」してもらわなくてはならない。ちなみに,うまくいっているセラピーでは,家族が,自分たちの中の誰ですか,ときくと,ピタリと当ててくれるそうです(現実にいるいないにかかわらず,たとえば,叔父さんとか,お兄さんとか)。遠い親戚とか,おせっかいな近所のおばさんでは,よそいきのやり取りになる。「友達になったのではだめ」と吉川さんはいいます。

身内としてそこにいなっていなければ,家族の中で,日常「普通」に行われていることが,その場にでてこない。普段のやりとりが見えてこない。その中に,家族のやっているパターンがあるはずだからです。家族の一員として認められていくプロセスをジョイニングというようです。


ジョイニングプロセスには3つの方法があります。

① 来談者それぞれのふるまいに合わせる(マイム) 家族のしゃべり方,特有のテンポ,間合い,感情表現等々
② 来談者それぞれのかかわり方に合わせる(トラッキング) 家族それぞれの役割や行動に合わせること等々
③ 来談者それぞれの考え方・価値観に合わせる(アコモデーション) 主導権が父にあるのか,母にあるのか等々

こうすることで,家族の中にいて,違和感なく,自然な会話を聞き取れ,

・家族の自然なかかわり方があらわれやすくなる
・セラピストによそいきの態度を示すことが少ないこと
・セラピストへの抵抗感が減ること

で,そのパターンが見やすくなるわけです。


そこで,ジョイニングの実践練習です。

家族が座っている部屋へ,セラピストがノックして,入っていく,と設定した場面を,実際に何度もやりました。というより,やり直しました。

たとえば,頭を何度も下げる,無用に頷く,手を前で組む,腰を低くする,愛想笑いで小首を傾ける等々,それ自体が家族にあるメッセージを送ることになる。無用のメッセージを与えない,ニュートラルな動きというのが,なかなかむつかしい。もともとセラピストが上,家族が下という上下関係が社会的に前提になっているところで,こっちの意図を出さない,自然な流れが必要ということなのでしょう。

だから,家族と面談が始まっても,まず誰を見るかで,相手へのメッセージが決まる。例えば,誰かが話し始めても,その人は,あくまで窓口かもしれない。本当の主導権を握っているのは,別の誰かかもしれない。その人と話しながら,家族がその人をどう見ているのか,どういう反応をしているのか,を注意深く目配りしなくてはならない。家族相互の関係,家族同士の位置関係を見極めなくてはならないのです。


ジョイニングの留意点は,家族の相互作用,関わり方,価値観を理解するために,

① 家族の相互作用に合わせる。そのために,家族の相互作用が起きやすいようにふるまって,役割行動を引き出す。「どなたか御家族をご紹介ください」と振ることで,とりあえず,窓口役が明確になるが,その窓口役を優先しつつ,その紹介の仕方に,他の家族メンバーがどう対応するのか,同調的か,肯定的か,批判的かを見極めていく。
② 家族のかかわり方に合わせる。たとえば,家族の特徴的なかかわりが起きやすくする。たとえば,子供に聞くと,誰がフォローするのか,親に聞くと,誰がそれを引き取るのか。それに応じて,家族のかかわりを肯定的にリフレーミングする。「よくお子さんのことを見ていらっしゃいますね」等々。
③ 家族の価値観にあわせる。たとえば家族全体にコンセンサスがある場合は,それにあわせていく。家族それぞれに対立がある場合は,それぞれお子さんのためにいろいろお考えになっているんですね」「それぞれお子さんに何がいいかを考えていらっしゃるんですね」と,違いを肯定的に返すことで,包括的枠組みを提示する。あるいは,個々の価値観の必要性を共有するようにする。「心配するポイントは違っても,それぞれ考えていらっしゃるんですね」とポジショニングを示す等々,いずれもコンセンサスを作り出すように働きかけている。


この間に使っているのは,「見る」「聞く」のふたつの「頭」ですが,ここから,仮説を立てて,働きかけていく段階では,「情報を整理する」というもうひとつの「頭」が必要になり,最終的には,もっとたくさんの頭を働かせて,目まぐるしく働らかせるのだ,と吉川先生いいます。とても初心者ではそこまでいきません。3つの頭ですらもてあましています。

しかし考えてみると,(コーアクティブ)コーチングでいう,レベル1,2,3というのは,ある意味で相手の言葉と同時に,その場全体の雰囲気,相手の非言語的メッセージを聞くことを含めているので,それ自体は難しくはない。しかし,相手が,一対一ではなく,家族という複数になった瞬間,見るという行為そのものが,様々なメッセージとして,それぞれに伝わってしまうというリスクを抱え込んでしまうのです。これは未知の領域です。

なにはともあれ,こちらの些細な動き一つ,例えば,誰に顔を向けて話しているか,そのとき肯定的に頷いたのか,その時合わせて誰に目線を送ったのか,それだけですでに相手家族に,それぞれ別々のメッセージを送っていることになる,しゃべっていなくても,振る舞いで,すでにメッセージを出している,のです。このことは,一対一でも,十分注意を払うべきことのように思います。


さて,ともあれ,家族のいう「問題」の入り口に入ったら,

① 家族側が,自分なりに全体像を説明する。この時,相手の話を止めず,顔だけで反応しておく。同時に,目は話を聞いている家族それぞれの反応を追っておく。ここでも,さまざまに,やらなくてはならないことがある。耳は話を聞き,目は家族全員を見ておく。しかし頭は働かせておかなくてはならない。「一回した話の中身は二度と聞いてはいけない」という。二度目にいうときは,「先ほど,何々とおっしゃったことですが,もう少し詳しくお聞かせいただけますか」と補足するか,「それは一日中続いたのですか」というように,相互の働きかけを聞き出すように問う。
② メッセージ情報を聞き出す。その場合,いつの情報かが重要で,できるだけ最近の情報が必要。そこでは,いろんな構成メンバーがかかわって,問題につながるものでなくてはならない。そして,誰がエピソードをしゃべっているにしろ,首はその人に向けながら,目で,他のメンバーの反応を見ることで,相互の関係が見えてくる。

情報には,聴覚から入ってくる,記述的情報(こんなことがありました云々)と,観察による情報(家族の相互作用やセラピストとの相互作用)がある。必要なのは,システムの中で起きているパターンを摑むこと。で,そのためには,

① 順に出来事を聞いていく。「その後,どうなりましたか」「それから」
② 起こっている出来事をセラピストがまとめる。聞いた話を,○○の前に△△があり,××は○○後に,△△は,いろいろな経過後に,□□によって収束した,というように。

そうやって,いつもの出来事と,それがとうやって収まっていったかを聞く必要がある。そして,情報が集まり,家族特有の出来事が起きた時の対処方法のパターンがわかったところで,仮説を立てる。「こうやって働きかけよう」と。

吉川先生はこう書いていました。
必要な情報とは,現在問題を抱えているシステムが,「どのような交流の中で,ある一定の個人のどのような行動を問題としているか」「その問題に直接的にかかわる領域で,どのような相互交流をしているのか」また「これまでにどのような方法で,問題を解決しようとしてきたか」など,問題にかかわる相互交流がどのように成立しているかという点を中心に,現在家族が陥っているコンテキストを見つけることが必要なのです。

と。たとえば,子供がぐずぐず言って登校しない→父親が有無を言わさず叱る→母親が父親に文句を言う→夫婦で喧嘩になる→時間が来て父親は出勤する→母親が父親の文句を呟く→子供が母親の機嫌を取る→母親子供の意向を聞く→家族が収まる,というパターンが聞き取れたとして,しかし,どの部分を変えることが,全体のコンテキストを変えるために,最もたやすい部分かは,情報収集からだけではわからないと言われます。すると,例えば,このパターンを崩すために,何か立てた仮説を立て,それを試してみて,うまくいかなければまた修正をして,家族の反応を見ながら検証し,仮説を修正していくことになります。

ここで学んだのは,母親の対応がまずい,父親の叱り方がまずい,夫婦げんかがまずい等々という問題発見,問題設定の切り口で話を整理するのではなく,出来後の発生→出来事に特有の家族間のやり取り→何か特有のやり取りで出来事が収まっていく,という一連の流れを,家族それぞれのかかわり方(役割やポジション)を含めてつかまえ,どの部分を変えられるのか,どう変えるとどんな変化が起こるのか,を考えていくことになります。

しかし家族は,大きな変化を望みません。例えば,引きこもりの子供に,「働きかけを変えましょう」と,たとえば晩御飯を持っていく時間を30分ずらしましょうと提案しても,大した変化でなくても,受け入れてもらえない,という。きちんとご飯を食べさせなくてはいけない。変に変えると,何が起こるかわからない,と不安になる。で,1分遅れ,から始めていく。次は,2分遅らす。時計をにらみながら,行動する。すでに,その行動変化で,何かが起き始めているような気がします。このように同じことを繰り返している,そのパターンをずらすことで,システムを動かす一歩にしようとしている,そう理解しました。

しかし,この日は,とてもそこまではいけませんでした。

以上が2日間で学んだことの整理です。

仮説をどう立てるか,それをどう働きかけていくかまでは,あまり深入りできなかったのですが,ここまでのプロセスでも,単純に見えることでも,理論的なバックボーンがあるかもしれないという不安が残り,これで十分まとめられたのか,という危惧がありますし,表面をなぞった感があることは否めません。

ま,ともかく,浅学な自分に把握できたのは,こういうことだ,ということだということで,あきらめるしかありません。まだまだ勉強です。


参考文献;
吉川悟『セラピーをスリムにする!』(金剛出版)
吉川悟『家族療法―システムズアプローチの「ものの見方」』(ミネルヴァ書房)
吉川悟&東豊『システムズアプローチによる家族療法のすすめ方』(ミネルヴァ書房)


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posted by Toshi at 08:39| Comment(10) | 家族療法 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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