2013年01月01日

われわれは二次元スクリーン上に存在している?~『重力とは何か』を読んでⅢ


前回,前々回に引き続いて,大栗博司『重力とは何か』(幻冬舎新書)を読んだ感想を続ける。

三次元空間のある領域で起きる重力現象は,すべてその空間の果てに設置されたスクリーンに投影されて,スクリーンの上の二次元世界の現象として理解することができる…。

これを,重力のホログラフィー原理と名付けられている,という奇妙な説について,ブライアン・グリーンは,『宇宙を織りなすもの』で,それをこうショッキングに表現している。

ひょっとすると私たちは,今このときも,3ブレーン(ブレーンとは膜braneのこと)の内部に生きているのではないだろうか?高次の宇宙(三次元のドライブイン・シアター)の内部に置かれている二次元スクリーン(2ブレーン)の中で暮らす白雪姫のように,私たちの知るものすべては,ひも/M理論(5つのひも理論を統合するマスター理論の意味)の言う高次元宇宙の内部にある三次元スクリーン(3ブレーン)の中に存在しているのではなかろうか?ニュートン,ライプニッツ,マッハ,アインシュタインが三次元空間と呼んだものは,実は,ひも/M理論における三次元の実体なのではないだろうか?相対論的に言えば,ミンコフスキーとアインシュタインが開発した四次元時空は,実は,時間とともに展開していく3ブレーンの軌跡である可能性はないのだろうか?つまり,私たちの知るこの宇宙は,一枚のブレーンなのではないだろうか?

著者も,「重力は幻想である」といったのは,「わたしたちが暮らしているこの空間そのものが,ある種の『幻想』」だと言えるからだ」と言っている。

私たちは縦・横・高さという三つの情報で位置の決まる三次元空間を現実のものだと感じていますが,ホログラフィー原理の立場から見れば,それはホログラムを「立体」だと感じるのと同じことに過ぎません。空間の果てにある二次元の平面上で起きていることを,三次元空間で起きているように幻想しているのです。

重力に押しつぶされて,二次元空間のようなところにいる小惑星の生命体が,地球からの知識を急速に吸収して,高度な文明へと発展を遂げていくSF小説を読んだ記憶があるが,タイトルを忘れた。

それは,ともかく,ホログラフィー原理によって,重力を含まない量子力学に翻訳できるだけではなく,量子力学だけでは解決困難な問題を,重力理論に翻訳して,アインシュタインの幾何学的な方法で解くことができるようになった。しかし,超弦理論が目指しているのは,究極の統一理論,宇宙の玉ねぎの「芯」を説明する,最終的な基本法則である。しかしまだ,道は,途上にある。

そのとき,残された大きな問題がある。

その基本法則には,理論的な必然があるのか,偶然なのか。

もし偶然だとすると,宇宙は一つだけではなく無数にあって,超弦理論で可能な選択肢は全てどこかの宇宙で実現しているのではないか。ブライアン・グリーンは,『エレガントな宇宙』でこう言っている。

インフレーション的膨張の条件は宇宙全体に散らばった孤立した領域でくり返し現れるかもしれない。そうなると,インフレーション的膨張が起こり,そうした領域は新たな個別の宇宙に発展する。こうした宇宙のそれぞれでこのプロセスがつづき,古い宇宙の遠く離れた領域で新たな宇宙が生まれ,膨張する宇宙の広がりの網が果てしなく成長する。……この大きく広がった宇宙の概念を多宇宙,その構成部分のそれぞれを宇宙と呼ぼう。……私たちが知っていることすべてが,この宇宙全体を通じて一貫した一様な物理が成り立っている…と述べた。しかし,他のもろもろの宇宙がこの宇宙から切り離されているか,あるいは,少なくともあちらのひかりがこちらに届くだけの時間がこれまでになかったほど遠く離れているのであれば,このことは他のもろもろの宇宙の物理特性には何の関係もないかもしれない。そうであれば,物理は宇宙ごとに異なると想像できる。

しかし,逆に,私たちの世界をつくっている素粒子模型は,いくつかある選択肢の中から,どうして選ばれたのか。それを「人間原理」と呼ぶようだが,

自然界の基本法則には,宇宙に人間=知的生命体がうまれるよう絶妙に調節されているように見えるものが少なくありません。

その極端なのが,ガイア理論の,ジェームズ・ラブロックの考えだが,不思議な調節は,たとえば,

太陽と地球とのちょうどいい距離。太陽から,150億メートル離れている。

陽子は正の電荷をもつので,陽子同士は反発しあう。しかし電磁気力がいまより2パーセント弱かったら,陽子同士が直接結合し,太陽は爆発的に燃え尽きる。

陽子は電子の約2000倍の重さだが,この質量比が大きすぎるとDNAのような構造をつくれない。

暗黒エネルギーは10の120乗分の一という値だが,これより大きければ,宇宙の膨張速度が速くなりすぎて,銀河は生成できない。逆に負の値だと宇宙は潰れてしまう。

空間は三次元だが,仮に四次元だと,ニュートンの法則の逆二乗ではなく,逆三乗になり,太陽系は不安定になり,惑星は太陽に落ち込んでしまう。

等々,こう基本法則を並べると,あまりにも人間に都合がよすぎる。これを神様に頼らず説明しようとするのが,人間原理だと,著者は言う。

私たちが太陽に近すぎる水星や遠すぎる海王星ではなく,知的生命体への進化に適した地球の上にいるように,私たちのこの宇宙が,たまたま私たちにとって「ちょうどよい基本法則」を持っていた…。

こう考える「人間原理」は,科学にとって最終兵器だと,著者は警鐘を鳴らす。

説得力のある仮説なのは確かですし,実際そうである可能性はありますが,安易にこの考えに頼るべきではない。最初から人間原理で考えていると,実は理論から演繹できる現象を見逃して「偶然」で片づけてしまうおそれがあるからです。

物理学の歴史においては,偶然に決まっていると思われていたことの多くが,より基本的な法則が発見されることで,理論の必然として説明できるようになりました。

そしてこういう例を挙げている。

私たちの宇宙は,三次元方向にはほとんど平坦であることがわかっています。これは宇宙の膨張のエネルギーと物質のエネルギーが絶妙につりあっているからです。もしもビックバンの一秒後に,このふたつのエネルギーがわずか100兆分の一でもズレていたら,宇宙の膨張がそのズレを増幅するので,宇宙はすぐに収縮して潰れてしまうか,急激に膨張して冷え切ってしまっていたでしょう。

この絶妙なつりあいは,人間原理でなくても,説明できる。著者は,言う。

インフレーション理論によると初期宇宙は加速的膨張によって宇宙がアイロンをかけられたように真っ平になるので,100兆分の一の精度の微調節も自然におきます。

と。そして,こう締めくくります。

科学とは,自然を理解するたる目に新しい理論を構築していく作業です。実証的検証がその重要なステップであることは言うまでもありませんが,科学の進歩とは,…ある分野から生まれた新しいアイデアが科学者のコミュニティの中でどのように受け入れられていくか,それがどれだけ新しい研究を触発しているかということも,その分野の進歩を測る重要な目安だと思います。

いま物理の最前線は,その意味で沸騰していると言っていいのかもしれない。ガイア理論のジェームズ・ラブロックがガイアシンフォニーの第4番で,こういっていた。

答えは直観的にわかり,自分を納得させるのに2年かかり,仲間をわからせるのに3年かかる。

ひとつの斬新なアイデアがパラダイムを崩し,新しいパースペクティブを開く。その醍醐味を十分知らしめる本になっている。

僕などは,宇宙が膨張している,と初めて聞いた時,その外はどうなっている?という疑問を持ったものだ。本書はそれに,間接的だがひとつの答えを出してくれていた。それが僕には拾いものであった。

ビッグバン=大爆発というと,空間の一点から,爆発物が外向きに広がっていく様子をイメージするかもしれません。そうすると,爆発物がまだ届いていないところはどうなっているのか疑問になります。しかし,宇宙のビッグバンでは,空間自身が膨張するのです。空間の膨張とは「二点間の距離が広がる」ことですから,必ずしもその空間の「外側」は必要ありません。箱が外側に向かって拡張しなくても,箱の内部の縮尺が変化すれば,二点間の距離は広がったり狭まったりします。(中略)
例えば,あなたの目の前に左から右に無限に伸びているゴムひもがあると思ってください。無限なので両端はありませんが,それでも,ゴムが伸びれば,二点間の距離は広がるし,縮めば二点間の距離は狭まります。つまり,無限の空間でも,膨張や収縮はできます。

きっとよくある質問なのでしょう。手慣れた答えです。そして思ったのは,たぶん大きさのイメージが理解を超えているのだろう。宇宙誌膨張しているという時,ゴム風船をイメージする。どうもそうではない。しかも距離に比例する速さで遠ざかっている。

距離が遠いほど遠ざかるのなら,あるところから先の銀河が地球から遠ざかる速度は,光速を超えてしまうでしょう。拘束を宇宙の制限速度としたアインシュタイン理論に反すると思うでしょうが,あの理論は宇宙の中での移動速度に関するものですから,宇宙そのものが超光速で膨張することまでは禁止していません。
では,超光速で遠ざかっている銀河は,地球から観測できるでしょうか。答えはノーです。膨張が続いている限り,その光は地球に届きません。実際,最新の観測結果によると,宇宙の膨張は止まるどころか,100億年ごとに二点間の距離が倍になる勢いで加速しています。

46億年の地球の歴史よりはるかに遠い昔が,仮に光が届いたとしても,今地球に届くのだと考えると,途方もない感覚にとらわれてくる。とても人間の間尺では測りきれないのはやむを得ないだろう。


参考文献;
ブライアン・グリーン『宇宙を織りなすもの』(草思社)
ブライアン・グリーン『エレガントな宇宙』(草思社)

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posted by Toshi at 08:06| Comment(6) | 書評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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