掛け合うことで奥行きが増す~トークライブに参加して
先日,第1回 高田稔×飯塚和秀 月例トークライブ「ビジネスセンスを磨く為に今、実践すべきこと」に参加した。お二人の話を聞く機会は,前にもあったが,今回は,掛け合いのトークによって,別の面白さを発見したので,そのことから書き始めてみたい。
通常,講師が話をする場合,テーマに即して講師が用意したストーリーを,話の巧拙,面白さの良し悪しは別として,一本の筋で話していく。もちろんふんだんに,聞き手と対話していく場合,質疑の中で膨らませられる場合もあるが,対話式のトークライブの場合,講師が自分の問題意識で話し出したことを受けて,相手役が自分の関心で,さらに突っ込みたいところや,例示や例えを変えると,講師側も,それに引き出された関心領域や問題意識を示しながら,少し,最初の話からずれながら,話が進んでいく。
こういうキャッチボールの面白さは,二人の人が同じテーマ,同じ例題を話しながら,それによって自分の中から引き出されるものが微妙に違うし,見ている視点も少し異なる,あるいは同じ例示を示しながら,見えている光景は違っているかもしれない。そのライブ感覚が,フリーセッションに似て,増幅される感じになると,面白くなる。
その意味では,どちらかに正解があるというよりは,その微妙にずれたり,噛み合ったりするものと,聴講側も,頭の中でキャッチボールしながら,考えていく。公開の対談に似ているようだが,どちらかというと,対論に近い,噛み合いながら,テーマをそれぞれ側の関心と問題意識で支え合って,(聞き手から見ると)そこで別の結論が見えたりするのが面白い。ここで結論を出そうとはしているわけではないけれども。
さて,これに参加した直接のきっかけは,「ビジネスセンス」という言葉だ。
センスは,その良し悪しは,たとえば仕事の仕方ひとつとっても,日々の徒ごとのこなし方,ちょっとした提案の仕方,アイデアの出し方,物の言い方,上司との接し方等々,すぐに感じさせるものがある。それは日常の場面でも同じで,人との付き合い方,料理の選び方,着ているものそのものと着こなし方,しゃべり方,何気ないしぐさ・ふるまい等々,何をやっていても,いろんな場面で,センスのいい人というのはいる。
それは,努力でカバーできるのか,例えば,勉強したり体験したり,情報に接する機会をたくさん作る,といったことで,ある程度研ぐことはできるのか,そう問いを立ててみると,どこかに天性の部分もあるかもしれない,と少し諦めたくなる類のものだ。自分はそういうものがないほうだと諦めているので,それがどこから来るか,いつも気にはなっていた。
辞書的には,「センスがある」と言えば「判断力が優れている」「物の微妙な見極めができる。」「感覚が優れている」「細部の違いまで理解できる」のような意味で使われるらしい。
似た言葉に,筋がいい,という言葉がある。辞書的には,可能性,潜在能力,将来性を指す。確立として,あるレベルに達するということを,「(まだ)荒削りだが‥‥」,という言い方をする。別に将来が保証されているわけではないが,呑み込みがいいとか,覚えが早いとかといったニュアンスだ。ここも,要領がいいというのとはちょっと違う,「センス」に関わるところのような気がする。
もう一つ,勘,という言い方がある。直観,直覚とも言い換えられるが,これは,経験と知識から,事態をパターンでとらえる,というのが近い気がする。勘がいいというのは,同じ経験をしていても,微妙に抑えどころが違っている場合があることを指している。不思議と勘所を外さない人というのはいる。ここにもセンスによる差がある気がする。
たとえば,どんなことも,経験しただけでは,ノウハウやスキルにはならない,という。その意味はどうそれをメタ化するかにかかっている,ということらしい。しかし,同じ経験をしていても,何をそこでつかむかは,その人のセンスにかかっているところがある。コツというかツボというか,抑え所を外さない人が必ずいる。
だから,ある面では,天性のものがある気がする。
しかし,美術や陶芸,あるいは骨董もそうだが,よく一級品を観ること,というのは言われているので,全くの天性というよりは,経験を積み重ねていることで,筋が見える,少なくとも眼力は,ピンキリはあるにしても,ついてくるもののようにも思う。だが,誰もが努力すれば,イチローのようになれるわけではないし,優秀な目利きになれるわけでもない。
それは,「ビジネスセンス」といった場合にもある程度当てはまる。基本の一歩は,ビジネスの原理原則の修得と,ビジネス環境を見る目がいる。ある程度,知識とともに,経験,とりわけ時代状況とその変化をつかむための情報集収集がいる。いまの時代で勝ち残っている企業の商品やサービスをよく見ることで,目を肥やす,この場合だと多くの情報をつかんでみることはできるかもしれない。
しかし,それは勉強であって,直接センスにはつながらないのではないか,という危惧がある。
その場合鍵になるのは,本ではないし,新聞のような二次情報でもない,ましてネットでもない気がする。肝心なのは,なにより,人のような気がする。マイケル・クライトンが大事にするのは人から聴く話だそうだが,直接間接を問わず,いろんな人に接してみること,まずは,当代の売れっ子をウォッチしてみることだ。そこで,どういう判断をしているか,自分なりに筋をつかむ。そうやって,筋を外れない,勘違いのないエリアにとどまれるようにするにはどうすればいいかをフォローする。もちろん真似でいい,徹底的に,○○流を会得してしまうのが悪くない。ただ,守破離の,「離」が出来なければ,第二の○○でとどまる。亜流ではだめだろう。たとえキリでも,自分のものにしなくては。
定石という言葉があるが,ビジネスの定石というと,少しセンスには届かない。「定石を覚えて二目弱くなり」という言葉があり,真似であれ,覚えたものであれ,会得したものであっても,知識や経験は,それを金科玉条にしてしまうと,機能的固着に陥る。いわゆる固定観念になる。時代の動き,時代感覚,現場感覚で,「おかしい」「そうではない」と感ずるかどうか,このあたりにセンスの意味がありそうだ。
「定石は覚えて忘れよ」という言い方もするのは,碁盤上は千変万化,その現場での感覚を重視しなくてはならない,という意味なのだろう。定石を,状況の変化で変わっている,どこが変わっているのか,という問題意識で,それを変えていけたら,ピンのセンスというところなのだろう。
たとえば,この日学んだ例でいえば,
【AIDAM】
Attention
Interest
Desire
Memory
Action
↓
【AISAS】
Attention
Interest
Search
Action
Share
↓
【AMTUL】
Attention
Memory
Trial
Utility
Loyalty
こういうマーケティングの基本の流れを学んだとして,そのままではたぶん頭の片隅に入るだけだ。知識を学んでも,センスにはなっていかない。
大体が,センスは,30代40代でないと,時代そのものについていけなくなっている,という。というより,50代60代では,時代の中心にはいないのだから,当たり前だろう。どうしても過去の価値や経験を覆す経験やモノの見方を身に着けることが難しくなっている。というよりも,仮に時代についていけても,どうせ付け焼刃,今までの考え方を変える視点や発想は取りにくい。変化に心底から驚くのではなく,それに抵抗したり,反発する方が強くなっている。
無理を承知で,それでもなお,出来上がった自分のものの見方を,変身・脱皮していくには,ものすごいエネルギーを必要とする。それができる60代は,相当なものだが少数派だろう。自分の成功体験を手放して,再度ゼロからチャレンジし直すつもりでないと,新しいものの見方を自分のものにするのは難しい。
そこで,現代に使えるビジネスセンス磨きの基礎編を,自分(60代)向けにまとめてみるなら,次の五項目になる。
①モデルを選んで,その眼を借りる
この場合,知識や学説のものの見方の他に,人のものの見方もある。
たとえば,AMTULが最新モデルとすれば,その知識の眼を借りて,いま,
Attentionは何か,
Memoryは何か,
Trial は何か,
Utilityは何か,
Loyaltyは何か,
のそれぞれを指針にして,売り方やサービス,商品をみてみる。
当然,○○という人をモデルに,その人ならどう見るか,その人の見識・眼力に仮託して,ものをみてみるというのもある。
②まずは,ウォッチング,トライアル
なぜ,あのやり方は成功しているのか,あの店は繁盛しているのか,成功例をできるだけ,身体で体験してみる。行ってみる,食べてみる,使ってみる等々。さらには,それに関する情報を拾ってみること,そういう人が話したり,しゃべったりする機会があれば聞き逃さないというのも含まれる。
③問題意識をもつ
疑問と言い換えてもいい。なぜ,お試し期間」があるのか,何でポイントカードがこんない何種類もあるのか,何でもいいが,ちょっと疑問に思ったら,その意味を考えながら,自分なりの答えを出す。性急に正否を出すのではなく,自分の答えとして,とっておく。それはどこかで,現実にそれをどう考えているかを聴く機会はある。それまでどんどん貯めておく。答えを急がない。たとえば,マックの競争相手は誰か,立ち食いソバの競争相手は誰か,コンビニの競争相手は誰か等々もいい。
④人とキャッチボールをする
自分だけで自己完結させていても,発展はない。自分の疑問,問題意識,観察は,機会を見ていろんな場で,質問したり,キャッチボールしたりしてみる。それ自体が情報交換であり,情報収集であり,周囲の人のネットワークになり,センスをまねたり,学ぶ場にもなる。
⑤仮説を現実に当てはめる
たとえば,自分の強みと相手のニーズがベン図の重なりになっているのが,自分のビジネスモデルの基本だとしたら,自分が今から商売を始めるとして,自分の強みはそもそも何なのか,そのレベルはとうか,それがいまの時代の人の誰に使えるのか,正しいかどうかは別として,それを仮説として,現実にそんなユーザーがいるのか,その眼でいまの時代を観る。5W2H(why,what,when,Where,How,How much)であてはめてもいい。「誰」を想定してみるのもいいし,どんな場面,どんな機会,どんなとき,と思考実験してみるのもいい。現実に確かめる機会はここでも有効だろう。
しかし,これをやったらセンスが身に付くとまでは言い難い。同じことをやってもツボを外さないセンスのいい人はいる。しかし,まあ,いまの時代とビジネスを観る視角は得られるだろう。まずはそこからだ。が,若いからこそできることかもしれない。脳のキャパがあると言っても,老人にはこれは相当きついかも……。
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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