かつて学生のころ,ひとつの転機を表現する意図だと思うが,二つの代表作の完結について,
(鉄腕)アトムは太陽に向かって飛び,(サイボーグ)009は流れ星になった,
という名文句を,読んだ記憶があるのだが,たぶんそれだと思った石子順造の本(『マンガ芸術論』)には出ていなかった。もう一人の石子だったかもしれない。そう思うと,かつて読んで,心に残った一言が気になりだし,とりあえず気になるところをひろいあつめてみた。
太宰治の「晩年」のエピグラムに,ヴェルレーヌの,選ばれてあることの/恍惚と不安と/二つわれにあり,というのが載っていて,ひどく気にかかったのを覚えている。
太宰つながりで言うと,田中英光が,「さようなら」で,「さようなら」とは,さようならなくてはならぬ故,お別れしますというだけの,敗北的な無常感に貫かれた,いかにもあっさり死の世界を選ぶ,いままでの日本人らしい決別の言葉だ。そう書いた田中自身が,太宰の墓の前で,「あっさり」自殺した。
そのつながりで言うと,吉本隆明の言う,<わたし>たちが宗教を信じないのは,宗教的なもののなかに,相対的な存在にすぎない自分に目をつぶったまま絶対へ跳び超してゆく自己欺瞞をみてしまうからである。この言葉の,苛烈かつ明晰な自己意識が好きだ。これを自己倫理と呼ぶ。
自己を律するという意味では,五省はいう。至誠に悖るなかりしか,言行に恥ずるなかりしか,気力に欠くるなかりしか,努力に憾みなかりしか,不精に亙るなかりしか。自分を律するとき,頭を,「言行に恥ずるなかりしか」と言葉がよぎる。誤解されると困るので,あわてて付け足す。別に江田島好きではない。この言葉が好きなのだ。
それとつなげれば,石原吉郎の,わらうべき一切は/わらうべきその位置でささえねばならない,という覚悟というか矜持が好きだ。
ハイデガーの,人は死ぬまで可能性の中にある,というのも,どうしても,『存在と時間』の中からは見つけ出せなかった。記憶違いかもしれない。
フランクルは言う。ここで必要なのは,生きる意味についての問いを180度方向転換することだ。わたしたちが生きることから何を期待するかではなく,むしろひたすら,生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ。…もういいかげん生きることの意味を問うことをやめ,わたしたち自身が問いの前に立っていることを思い知るべきなのだ。生きることは日々,そして時々刻々,問いかけている。わたしたちはその問いに答えを迫られている。考え込んだり言辞を弄することによってではなく,ひとえに行動によって,適切な態度によって,正しい答えは出される。生きるとはつまり,生きることの問いに正しく答える義務,生きることが各人に課す課題を果たす義務,時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない。『夜と霧』全体の印象と関係してくる。自分のなすべきことを強くもっていた人は,死んでいない。
これと関連させて,神田橋條治が,誰かの言葉として,
人事を尽くして天命を待つを,天命を信じて人事を尽くすと言い換えたのを紹介していた。この方が,ぴったりくる。
最近のお気に入りは,
龍村仁の,ガイアシンフォニー第三番で,人生とは,なにかを計画している時に起こってしまう別の出来事のことをいう。結果が最初の思惑通りにならなくても,…最後に意味をもつのは,結果ではなく,過ごしてしまったかけがえのないその時間である。この言葉の,「過ごしてしまったかけがえのない時間」と言える時間をすごしているのか,が自省である。
勝海舟が,誰にもまして,最近は好きだが,勝海舟はいう。おれは,いままでに天下で恐ろしいものを二人みた。それは横井小楠と西郷隆盛だ。勝の人物評は,多少割り引く必要があるが,しかしこれは本音だと思っている。もうひとつ,勝の言葉に,おのれに振りかかった理不尽な批判に,行蔵は我に存す。毀誉は他人の主張。我に与らず我に関せずと存候。こう福沢諭吉に返事した。この強烈な矜持が好きだ。
ヴィトゲンシュタインは,人は持っている言葉によって見える世界が違う,と言っていた記憶があるが,やっぱり探したが,見当たらないので,正確な文言は違うかもしれない。でも記憶化されて残ったほうに意味があるのだろう,と思う。
人が使う言葉には,その人の独自の世界が,その言葉に見えている。それを共有できるかどうかは,その言葉の向こうに何を一緒に見ているかどうかだ。
コーチングで,コーチはクライアントの見ている世界を一緒に見ているのか。
見ているだけではだめだ。それが見えているか。見えているつもりになっているだけではないのか。言葉ではなく,その人の感情や思いでもなく,その人の見ている世界,その人に見えている世界が,一緒に見えるまで,クライアントに寄り添っているか。田中ひな子さんは,クライアントの脳とドッキングさせる,といった。
クライアントに耳を傾けているか。クライアントの使う言葉に敏感になっているか。それは,言葉というコード情報からだけでは見えない,クライアントの文脈や背景に一緒に立ち,その雰囲気とニュアンスにあるモード情報でしかつかめない,クライアントの言葉のニュアンスをかぎ分けているか。自戒を込めて,言葉にナーバスになろう!
今日のアイデア;
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