2013年04月23日
語る芸
先日,ACT寄席「桂扇生独演会」に参加する機会があり,久しぶりにたっぷり三席,「野晒し」「抜け雀」「三軒長屋」を聞かせてもらった。
http://www.facebook.com/home.php#!/events/518641234844985/519466041429171/?comment_id=519519814757127¬if_t=event_mall_comment
出張時,飛行機で落語を聴くことは結構あったが,やはり落語は生に限ると再認識した。
身振り手振りということもあるし,表情ということもあるし,会場という場そのものが創り出す雰囲気ということもある。何より,その場で,自分が,直接その声,その表情を聴きながら,その話の中に入っていく,そこで一緒になって笑い,身を乗り出すところがなくては,たぶん,語りというものは,耳だけでは,半分も聞いたことにならないのだろう。
ずいぶん昔,学生のころ,人形劇を持って,へき地を巡回していたことがある。そんな折,設営が間に合わないという事で,急遽場つなぎに,僕が,子供たちの前で,何か話をすることになった。持ち合わせはなく,昔子供のころ読んでいた,絵本で,『迷子の小象』というのが,不意に浮かび,いきなり,何の練習もせず,子供たちの前に出て,勝手に,というのは誰もその話を知らないので,ストーリーを創り上げた記憶がある。話は,迷子になった小象が,親切な動物たちに,襲ってくるライオンなどから守られながら,母親と再会する,というような話だが,子供が喜んだのは,腕を,象の鼻に見立てて,振るという動作であった。
その動作だけで,子供の顔が笑い崩れる,という体験を,最初で最後だが,した。その経験から言っても,ただ淡々と語るだけでは,どんな話も,乗れないだろう。小象の時は,小象の声色で,ライオンの時は,怖そうな声色で,会話を組み立てていく。そうすることで会話が,リアルに耳に届く。文章を読むとき,一人でそれを見分け,聞き分けているのを,具体的に,見えるカタチで,聞こえるカタチで,表現する。紙芝居のオヤジの声色に,動作が加わった感じだろうか。それは,語りに,見合った,見立ての動作が加わって,初めて,表現として成立する,という気がする。落語を聞いて,それをまず思いだした。
落語や話芸を語る資格は,僕にはないが,聞いてみて気づいた素人の,落語という語りの芸について,感想をまとめてみたい。
まずは,三席それぞれの概要を,ネットから拾ってまとめておく。
「野晒し」の概略は,
ある夜,長屋に住む八五郎の隣りから女の声が聞こえてくる。隣りに住むのは,堅物で有名な尾形清十郎という浪人。日ごろから,「女嫌い」で通っていた先生に,女っけが出来たことに憤慨八五郎は,翌朝,先生に迫る。八五郎が「ノミで壁に穴開けて覗いた」と言うと,とうとう真相を語った。
「あれはこの世のものではない」
先生の話によると,向島で釣りをした帰りに野晒しのしゃれこうべを見つけ,哀れに思って酒を振りかけ,手向けの一句を詠むなどねんごろに供養したところ,何とその骨の幽霊がお礼に来てくれたというのだ。
その話を聞いた八五郎,「あんな美人が来てくれるなら幽霊だってかまわねえ」とばかり先生から無理やり釣り道具を借りて向島へ。居並ぶ太公望(釣り客)達に,「骨は釣れるか?新造か?年増か?」と質問して白い目で見られつつ良い場所へ陣取り,早速,骨釣りを始めた。
「私ぁ~,年増が,好きなのよー」と変な歌を歌い出したり,「水をかき回すな」との苦情に。「いつ水をかき回したい!たたいてんだよ!かき回すってなアこうするんだ!」川面を思いっきりかき回したりと,八五郎の暴走は止まらない。とうとう,幽霊が来たシーンを一人芝居でやっているうちに,自分の鼻に釣り針を引っ掛けてしまった。
「抜け雀」の概略は,
小田原の宿で,薄汚れた旅人が毎日三升の酒を飲み,何もせず寝てばかりで七日が過ぎた。金は無いが,自分は狩野派の絵師だからと,衝立に墨で雀の絵を描いた。江戸へ行き,帰りに寄って金を払うから,それまでこの絵を売ってはならぬと言い残して旅立った。
翌日,主が雨戸を開けて日の光が射し込むと,絵の中の雀が飛び出して外で餌を啄み,戻って来て元の絵の中にピタッと収まった。これが評判になって,毎日客が訪れ大繁盛。小田原の殿様の耳に入り,絵を千両で買い取るとの話を,絵師との約束があるので断った。
その後,年配の武士が訪れ,止り木がないので雀はいずれ落ちて死ぬからと,雀が抜け出た隙に,画面一杯に鳥籠を描いた。戻って来た雀は鳥籠の中にピタッと収まった。
江戸から戻って来た絵師に事情を話すと,絵を一目見て,描いたのは自分の父親だ,なんという親不幸をしてしまったかと嘆く。「親をカゴカキにしてしまった」と。
三軒長屋の概要は,
三軒長屋の両端に鳶の頭と剣術の楠木先生,真ん中には質屋の妾が住んでいる。頭の家では若い者が喧嘩騒ぎ,道場は稽古で喧しい。
質屋の旦那が泊まりに来た夜も,壁から出刃の先が飛出し,剣術で壁が揺れ「こんな家は出たい」と嘆く妾に,ここは家質になっており,あと数日で自分の物になるから,奴らを追い出すと告げ,女中がこれを漏らして,頭の知る所となった。頭が一計を案じた。
まず,楠木先生が「今度引越すことにしたのだが,金が無いから千本試合をやるので,血を見たり騒々しくなる」と告げると,旦那が「金を用立てるから」と止めさせ「たかだか五十両で厄介払ができた」と喜ぶ。
次に,頭が「今度引越すのだが,金が無いから花会をやるので,怪我人が出たり迷惑をかける」と告げた。これも旦那が五十両を渡して止めさせ,何処に引越すのか問うと,
「へい,楠木先生があっしのところへ,あっしが楠木先生がのところへ引越しやす」と。
それぞれの,荒筋だけでも,面白くないわけではないが,ストーリーの面白さだけではなく,芝居で言う,会話とト書き部分を含めた,ディテールに,面白さがある。
落語家が,男に女,老人に子供,武士に町人と声色を使い分け,所作をしわけていて,おもしろいのは,江戸時代は,身分社会だから,物言いやしゃべり方,所作に,身分の上下,階層の上下が出る。それも,いわば,ト書きの具体化の,(古典)落語ならではのおもしろさなのかもしれない。
ディテールというのは,会話であり,所作であり,振る舞いであり,声音の使い分けなのだが,その積み上げるエピソードのつなぎで,場面設定を転換していく。特に,中心になるのは,声音にしろ,所作にしろ,象徴的なもので,それと表現する。換喩と言ってしまえばいい。見立ての極限と言ってもいい。例えば,すする音で蕎麦を食べるシーン,襟元を開いて,年増を表現…といった具合で,それとわかる象徴となるジェスチャーであり,声をうまく使って,ディテールを象徴的に表現し,いちいち事細かく演じないで済ましていく。
人の記憶は,意味記憶よりエピソード記憶の方が,具体的で文脈に依存している。それは,よりイマジネーションにつながりやすい。しかも,情報は,言葉に置き換えられるコード情報より,言葉にならない,雰囲気,ニュアンスといった,文脈のもつ「そのとき」「その場」の状況の持つ背景をあらわすモード情報の方がインパクトがある。
その意味で,文脈に依存したエピソードという,情報の表現の仕方としては,見立てや声色,所作を使い分けながら,その場,その時を,表現し続ける。ある意味,モード情報を大盤振る舞いしなくては,その雰囲気を伝えられない,落語家個人の話術しかない限界点に立っているから,その雰囲気,文脈を共有できる表現を極限まで,選び分け,使い分けることになるのかもしれない。
たとえば,腕を象の鼻に見立てたように,扇子が刀になり,槍になり,箸になり,煙管になり,丸めた指がお猪口になり…という具合に,見立てて作られた所作が,こちらの想像力をバックアップする。しかし芝居や映画のように,全身が,まるごとその空間に入り込み,一体化するというのはない。こちらに,半身を残したというか,見立てを見立てと見ている自分が残っている。どんな名人の話芸でも,話者の創りだす空間は,聴く側との距離がある。その中にずぶずぶに入りこんで,よく言われたように,高倉健の映画を観た観客が,映画館からみんな肩で風を切って出てくる,そういう風にはならない。落語で語られている世界は,聴く側との間に距離がある。いや,それは,だから笑いが,誰もが一斉に笑い,一斉に泣く,といった寅さんの映画での笑いと違う,一人一人のクオリア,一人一人の笑いの質を残した笑いになる所以なのではないか。もちろん,どっと来るところがある。しかし,そのどっと来るところは,それぞれのキャリアと経験と,感覚の質を残した感じなのではないか,と思う。
それが,映像や芝居のように,現実にト書き部分まで具象化し,顕在化しているものと,ト書きの部分は,落語家の所作や言動に,どういうイメージや体感覚を,それぞれの心側で引き出したかによって,微妙に違うのではないか。その差が,文字からイメージを膨らませる小説だと,もっと個人個人で,その引き出す体感覚,イメージが違うはずだ。
落語は,一人の落語家が,語りひとつで紡ぎ出す,小説と芝居・映画の中間の,半分聴き手一人一人のクオリアを楽しむ余地を残しつつ,その場で生まれるリアルな雰囲気をも楽しむという,ちょっと面白い位置にある,という事を感じた。
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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この記事へのコメント
今日は よろしくお願いしますね^^すごいですね^^
Posted by フェラガモ at 2013年07月23日 15:36
突然訪問します失礼しました。あなたのブログはとてもすばらしいです、本当に感心しました!
Posted by レイバン メガネ at 2013年07月23日 15:36
お世話になります。とても良い記事ですね。
Posted by レイバン メガネ at 2013年07月23日 15:37
今日は よろしくお願いしますね^^すごいですね^^
Posted by プラダ メンズ at 2013年07月23日 15:37
はじめまして。突然のコメント。失礼しました。
Posted by フェラガモ アウトレット at 2013年07月23日 15:38
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