2013年04月29日

嫌悪感は生存適応性が高い?


嫌悪感については,前回,

http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11168248.html

で触れたが,引き続き,人間しか持たないという嫌悪感について,続けて考えてみたい。

ハーツは,面白いことを言う。

多くの感情には,ポジティブな気持ちよりもネガティブな気持ちが勝るほうが物事がうまく運ぶのだ。なかなかそんなふうには思えないかもしれない。しかし,ポジティブさよりもネガティブさの方が多めというアンバランスに基づいて行動した方が,生物学的に見ると生存適応性が高くなる。プラス面に近づくよりも,マイナスを回避する方が,生存にはずっと有利なのである。

世をあげてポジティブ思考なのだが,程度問題だ。能天気なのは,リスク対応ができない,それは人間の嫌悪感の存在理由とつながっている。嫌悪感の敏感なものが,生き残ってきた。

たとえば,ハーツは,「見るも恐ろしい」病もちの物乞いから逃げたがる衝動を嫌悪感と呼び,

嫌悪というのは,恐怖の一種,つまり病が招く緩慢で不確実な死から逃れさせるために進化した,特殊なタイプの恐怖だからである。…恐怖は衝動的で思考を伴わず湧き起こり,素早く激しく,そして差し迫った危険が招く死を避けるのに役立ってくれる。…これと対照的に,嫌悪感は学習され,熟慮的で,かなりゆっくり進行している。

一定の認知を経て理解するプロセスが介在しないと嫌悪が起きない,という。脳は,恐怖は扁桃体が活性化し,嫌悪感は,島皮質が活性化する。

嫌悪は,人間の感情をつかさどる六つの基本感情のなかでも,最新でかつ先進的であると私は確信している。(中略)人類はなぜ,恐怖というより基本的な反応から,嫌悪感を発展さ是なければならなかったのか。それは,人間の寿命が哺乳類のなかでも特別に長かったからだ。

と言う。つまり,嫌悪感の神経学的な基盤が,嫌悪感の基本的な特徴が人間を病気から守ることだ,として,ある実験の例を挙げる。

健康な被験者に無害な細菌を注射し,悪人たちがピストルで威嚇している写真か,あるいは発熱している人の写真,
咳をしている人の写真,痘痕だらけの人の写真のいずれかを見せた。次に被験者の血液を採取して,免疫反応の強さを測定したのである。その結果,病気の写真を見た人は,恐怖心をかきたてられる写真を見た人よりずっと免疫反応が強かったという。これは,病気にかかっている人を見ることで,体内の免疫システムが誘発されて,迫りくる病気と闘う反応を起動させることができることを意味する。しかし,病気の写真を見て,強い嫌悪感を感じた人は,特に感じなかった人に比べて,免疫システムの反応が低かったという。

これについて,ハーツはこう説明する。

私たちには生まれながらにバックアップシステムが備わっているからではないだろうか。嫌悪感を刺激しても病原菌から逃げたいという気持ちに心が向かわない場合には,身体が病原菌と闘おうとしてより激しく積極的に免疫システムが働く。逆にいえば,身体の免疫システムが十分にしっかりしていない時にこそ,心は嫌悪感をよりいだきやすくなるのだ。…免疫システムが危うくなると,健康そのものである時よりもよりたやすく,激しい嫌悪感を催すことが多い。

こう考えることができる。十分身体の免疫システムが働かない時は,嫌悪感で,それを回避して,「行動による免疫システム」を働かす。つまり回避して,避けようとする。

しかし醜いものや気持ち悪いものを回避することは,単に「行動による免疫メカニズム」と呼んでもいいのか?それとも,社会的差別や反感の正当化なのではないのか?そうハーツは問いかける。なぜなら,子どもはそれを避けたりはしない。だから生得のものではない。

むしろ,「不適応者」に対する嫌悪感情の根源にあるのは,もっと深いところに潜む懸念だと私は確信している。

それを「死」とハーツは言う。ある実験では,自分の死について心に浮かぶ感情をじっくり考えてもらい,死んだときに肉体に何が起こると思うかを書き留めてもらった。その結果,自分の死について考えると,嫌悪感受性が高くなった,という。だから,

いつか死ぬ運命だと想起させる他人や刺激を嫌がる気持ちは,そもそも自分自身の死への意識と,死に対していだく恐れだ。

嫌悪感をコントロールするのは,死への恐怖なのだ,と言う。そして,共感との関連で,こうまとめている。

結局,…嫌悪感は,どんな不愉快なことが我が身に起こるかについて知る,生き残るための直感だ。

その意味で,他の,喜び,悲しみ,怒り,恐怖,驚きは,嫌悪感と比べると,はるかに自動的,反射的で,しかも外から与えられる感情である。嫌悪感には,幼い子供や動物にはみられない,ある意味で自己中心的な思考と自覚が必要だ。基本的に嫌悪感は,本質的に自己焦点的であり,内省的だという。

ある意味嫌悪感が,社会的な産物なら,差別も価値観も,また内省によって崩すことができる。知識と経験が嫌悪をもたらすなら,知識と経験が嫌悪感を消してくれるはずなのだ。嫌悪感が,知的発達と同じ軌跡を描くのであれば,意味のない嫌悪は,知的レベルの低さを反映している。


参考文献;
レイチェル・ハーツ『あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか』(原書房)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

#レイチェル・ハーツ
#あなたはなぜ「嫌悪感」をいだくのか
#島皮質
#嫌悪感
#嫌悪表情
#扁桃体
#免疫システム




posted by Toshi at 06:17| Comment(6) | 書評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今日は~^^またブログ覗かせていただきました。よろしくお願いします。
Posted by バーバリーブラックレーベル at 2013年08月01日 14:10
プラダ カナパ バック おしゃれ http://www.bagsoinstall.info/
Posted by バック おしゃれ at 2013年11月08日 13:00
Do you have any video of that? I'd want to find out some additional information 剛毅朴訥仁に近し: 嫌悪感は生存適応性が高い? .
Posted by louis vuitton outlet online at 2013年11月13日 07:01
2010年7月4日について私は9時55分には、基本的birdherder送ら
Posted by シャネル 財布 新作 at 2013年12月12日 14:53
Hey there! I just wanted to ask if you ever have any trouble with hackers? My last blog (wordpress) was hacked and I ended up losing many months of hard work due to no data backup. Do you have any solutions to prevent hackers?|
サマンサタバサ 財布 http://www.acethetik.com/
Posted by サマンサタバサ 財布 at 2014年01月04日 04:42
剛毅朴訥仁に近し: 嫌悪感は生存適応性が高い?
[url=http://www.gng01658jhwzxj69179kk11bzcw662k7s.org/]uhssqvpezpc[/url]
ahssqvpezpc
hssqvpezpc http://www.gng01658jhwzxj69179kk11bzcw662k7s.org/
Posted by hssqvpezpc at 2014年01月04日 04:46
コメントを書く
コチラをクリックしてください