ソリューション・トークの効果


『DV加害者が変わる』を読んだ。解決志向グループセラピー実践マニュアルと副題された本書は,DV加害者プログラムでのソリューション・フォーカスト・アプローチの実践記録である。

DV加害者に対する裁判所命令の一つとしてDV加害者プログラムへの参加が義務付けられているアメリカでは,様々な治療プログラムが試みがなされているにもかかわらず,再犯率は,15~50%と言われている。このプログラムは,3カ月に8回のセッションを行うという,まさに短期プログラムにもかかわらず,再犯率は,16.7%であった。

特徴は,従来型のように,問題や原因に焦点をあてる「プロブレム・トーク」ではなく,どうなりたいか,どうしたいかに焦点をあてた「ソリューション・トーク」に集中し,次の原則に基づいて,治療に取り組んでいる。

①参加者が答えをもっている
②できないことではなく出来ることに焦点を絞る
③変化は絶えず起きている。参加者は問題や欠点があると思っているにもかかわらず,より満足のいく方法か違った仕方で対処できているときがある。
④部分の小さな変化は他の部分の変化を導く

つまり,「問題に深入りせず,目標と目に見える行動と進歩する生活を新しく有益な方法で描写することによって,意味と解決を構築することをめざす」。なぜなら,

病理や問題について話すことは自己成就的実現(言い続けると本当になること)になり,問題のある現実を維持したり解決したりしようとする私たちの注意をそらすことになる

からだという。そのために,ソリューション・トークの鍵は,ゴール設定である。

ゴールが使われ始めると,何ができないかから何ができるかに注意の焦点が移っていく。そうすると参加者は他人や自分をせめるのではなく,今とは違うより良い未来を作る責任を感じるのである。

そして,

ゴール作りの目的は変化が起きやすい状況を作ることである。参加者が自分のゴールと合致する行動をはじめたら,その行動がもたらす利点を参加者に気づかせる。ほんの小さな行動や考えの変化にも注目し,それが重要なものだと説明する。私たちの役割は,参加者が作り上げる目標とその結果としての行動が彼らにとって大きな利益であることを体験してもらい,そのための状況を作ることである。

それを,SFAの創始者,インスー・キム・バーグ,スティーブ・ディ・シェイザーは,「あたりまえのことを予想もしなかったことに変える」という。つまり,

小さな変化を見逃さない,

ことなのだ。そのため,ゴールは,6つの条件が説明されている。

①あなたの生活を改善するうえで役に立つゴールを作り出してほしい
②そのゴールは対人関係上のものでなければならない。つまり,あなたがゴールに向かって努力するときに,別の人があなたの変化に気づき,あなたの行動の変化から影響を受けるようなものでなければならない
③別の考え方では,あなたがゴールに向かって努力しているビデオテープをもってきたとすれば,あなたが「している」違ったこと,さらにはそれらが他の人にどう影響しているかをテープ上で指摘できるようなものでなければならない
④ゴールはあなたが普段していなかった何か「違う」ことでなければならない
⑤毎回ゴールへの努力を説明することになっているので,少なくとも週に2,3回は実行できるような行動でなければならない
⑥第3回のグループセッションまでに全員が承認されたゴールを作り上げていなければならないし,それに向かって努力していなければ3回目以降グループにとどまることはできない

では,セラピスト(ここではファシリテーターと呼んでいる)はどういう姿勢で取り組むのか。ソリューション・フォーカスト・アプローチのおなじみの原則といっていい。

第一は,知らない姿勢。

私たちは,参加者が彼ら自身の生活の専門家になれると信じている。(中略)変化の本質は,参加者自身が解決を創造したり見つけたりする努力のなかにあると私たちは信じている。解決は参加者の探求によってのみ得られるものである。(中略)私たちが彼らの能力を信頼していれば,彼らは自分に適した持続可能な解決に到達する…。

第二は,選択肢を作り出す。

参加者の多くは,自分の周囲の人々と出来事が,彼らの生活を支配していると感じている。彼らは周りから支配的だと言われているのに,自分では他の人々に支配されていると感じている。彼らは自分に無数の選択肢があるということを見落としている。その選択肢を自覚させ,彼らが自分の生活の専門家だという自覚を促すことがファシリテーターの重要な仕事の一つである。

第三は,変化は絶え間なく起こる。

ひとに「殴る人」「犠牲者」「うつ」「そううつ」などと分類されると,彼らが絶えず変わって変化している複雑な人だという事実を認識しにくくなる。実際にひとが「変わって」も,その変化は無視されやすく,(中略)「それは一時的なものだ」として片づけられてしまう。

第四は,あらゆるものは関連している。

小さな持続する変化は広範囲に影響する可能性がある…。小さな変化は一人の参加者の小さな持続する変化は広範囲に影響する可能性がある…。小さな変化は一人の参加者のゴール探求に活用されるものだが,グループ過程にも使われる。(中略)最も変化しそうな参加者から変化を追求し始めればよいことになる。それが変化の流れに他の参加者を引き込むからである。参加者が次々に引き込まれると,流れはさらに強くなり,人を惹きつける。流れが十分強力になったとき,グループ自体が前進し,参加者の報告に強い関心を示すようになる。

では実践としてどんな対話をするのか。

①傾聴

それは,聞いてますよ,というメッセージを伝えるだけでなく,あなたの話していることに興味があります,とかあなたの話していることは重要ですというフィードバックを参加者に伝えていることになる。

②承認

参加者の行動,感情,思考を支持し,参加者に希望を注ぎ込み,さらにゴールを追求しようという勇気を与える。

③繰り返し

参加者の説明した行動,意味,感情をさらに明確にして強化するフィードバックを与えるという意味で,鏡や反響板のような働きをする。

④拡大

参加者のゴール達成の努力に新しい意味と可能性を生み出すために,参加者の言葉を使ったり拡大したりする。

⑤評価的質問

・探索を助ける その中でどんな可能性がありますか
・計画を助ける このゴールをどうやって実行しますか,いままでとどんな違うことをしますか
・指標づくり それができたことがどうやってわかりますか
・例外探し できていたことはないですか
・スケーリングクエスチョン ゴール10のうちいまいくつ
・効果を考える それが出来たらどんなことが起きますか,それをしていたことを誰が知っていましたか
・有用性 それがどんな役に立ちましたか
・実行可能性 それをすることは無理のないことですか
・意味つげ どうやってそれが出来たんですか
・変化を起こしたのは本人 あなたはいつそれを決めたんですか

こう見てくると,ソリューション・フォーカスト・アプローチがコーチングと親和性がいかに高いかが改めて再認識できる。




参考文献;
モー・イー・リー&ジョン・シーボルト&エイドリアナ・ウーケン『DV加害者が変わる』(金剛出版)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




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