2013年06月19日
暗黙知とリーダー
人は,閉鎖システムであり,オートポエーシス理論の提唱者,フランシスコ・ヴァレラは,主体的個人の「自己(self/identity)」は五つのレベルの閉鎖システムで定義される,と言っている。
第一は,生命体の最小要素は細胞レベル。「生物的自己」
第二は,免疫レベル。身体的同一性を保つ。「身体的自己」
第三は,行動レベル。知覚器官をもとに行動するレベル。「認知的自己」
第四は,人間社会における個人のレベル。「社会的自己」
第五は,個人が組織化されたレベル。「集団的自己」
人間の想像力が,上位レベルへの創発の原動力だという。ここでは,作動することとそれを観察することとが同一に同時に行われている。つまり,自分のしていることを自分でモニタリングしている。そうすることで,自律性が保たれ,一貫性が保たれる。
生命体とは,機械と異なり,設計図なく自分で自己を創出していく自律的なシステムである。その作動の仕方は,外界に対して,自分の中から,その固有の歴史に依存して,対応していく。いわば,リソースは自分の中にある。それが生きるということだと言い換えてもいい。
西川アサキという人がコンピュータ・シミュレーションによって,面白い実験をした。閉鎖系システムと開放系システムで,集団がどう変化し,リーダーがどう出現するかをみている。
システムが他律的で,機械のように開かれていれば,適切な情報伝達と入出力操作によって,世界像を完璧に共通化し「客観化」していくことができる。しかし生命体のように閉じていれば,情報の意味を主観的に解釈するプロセスが入るので,どうしても差異や不透明さが残る。
結論を言うと,開放システムの場合は,リーダーが一人出現する場合もあるが,多数のリーダーが乱立したり,全くリーダーが出現しなかったりする。一方,閉鎖システムでは,必ずリーダーが安定して出現する。
この理由を,西垣さんは,こう整理している。
開放システムでは,各メンバーにとって世界があまりに「透明」に見えすぎ,瞬間的にせよ,そこには一元的で絶対的な価値観(世界観)が生まれる。わずかな周囲条件(外部環境)の変動に敏感に反応し,グローバルな状況が急変する。外部環境に他律的に依存するために,唯一のリーダー,複数のリーダー,リーダーシップなしの間を揺れ動く。
一方,閉鎖システムは,各メンバーにとって,世界は不透明であり,それぞれ保守的に自分なりの価値観を維持しようとする。その意味で安定している。グローバルな状況としては多元的で相対的な価値観が併存する。と同時に,一人のリーダー,つまり一元的価値も生成されやすい。そういう一元的な価値観のもとでこそ,集団における相対主義も存立しうる。
このシミュレーションが示唆するのは,こういうことだ。西垣さんは,オープンな社会が必ずしも望ましくないことを示している,と言う。つまり,
人間が自律性を失って開放システムに近づくと,社会がいわば透明になりすぎ,外部環境の変動にともなって,「絶対的リーダーへの一極集中/多極化/完全な無秩序」といった諸状態の間をぐるぐる彷徨することになりやすい。
これに対して人間本来の閉鎖性が保たれていれば,それぞれが自律的で唯一の尺度は存在しないにもかかわらず,社会のなかに一種の慣性力が働いて,安定したリーダーが生まれる。
こういったリーダーに対するほどほどの従属関係がある時の方が,世界の崩壊は起きにくい。逆に,メンバーにできるだけ透明な情報伝達と一元的な価値観を強制する独裁社会の方が,多様性に基づく値がまれず,世界は不安定になる。
実はこのリーダーシップとメンバーの従属関係に基づく階層構造は,ポラニーの暗黙知の構造と深くつながる。ポラニーの暗黙知の構造は,
「諸細目(particulars)」と「包括的存在(comprehensive entity)」との二項関係からなるダイナミックスである。前者は近接項,後者は遠隔項にそれぞれ対応する。
たとえば,顔を認識する例で考えると,
まず,相手の眼,鼻,口,額,頬,顎などの「諸細目(近接項)」にちらっと目を向けるが,いつまでも続くことはない。われわれの注意はすぐに諸細目から離れ,顔全体という「包括的存在(遠隔項)」に移行する。といっても,諸細目は完全に忘れ去られるわけではない。相手の顔を認知識別しているとき,われわれは相手の眼や鼻などの諸細目を無意識に,「顔全体の姿」のなかにしっかりと感知しているのだ。それらは潜在化し,明示的に語られないものの,顔全体の「意味」を構成しているのである。
つまり,下位レベルの諸知覚器官による認知観察行動は自律的におこなわれ,脳はそれらを完全に統御しているわけではない。しかしそれなしでは「顔という全体」を認知できない。
こういうダイナミックスは,リーダーとメンバーも同じなのではないか。
リーダーは集団の代表であり,リーダーの言動は事実上社会組織の言動とみなされる。それは,暗黙のうちに集団個々の構成メンバーの言動によって支えられている。逆にいえば,個々のメンバーの主観を反映した対話や行動をもとに上位レベルのリーダーの言動が生成され,逆にリーダーレベルからみれば,個々のメンバーの言動は無意識のレベルにある。
いわば,個々のメンバーの「諸細目」とリーダーという「包括的存在」のセットで暗黙知を形成している。諸細目の無意識(メンバーレベルでは無意識ではない)とのダイナミックなやり取り抜きでは,組織の活力は生まれない,という当たり前のことを言っているのかもしれない。
参考文献;
西垣通『集合知とは何か』(中公新書)
西川アサキ『魂と体,脳―計算機とドゥルーズで考える心身問題』(講談社)
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この記事へのコメント
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Posted by abercrombie at 2013年08月11日 01:46
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