2013年09月05日


安斎育郎『霊はあるか』を読む。

「霊魂不説」が,仏教の教義上の原則だそうだ。親鸞は,

悲しきかな道俗の,良時吉日を選ばしめ,天地地祗を崇めつつ,卜占祭祗勤めとす

五濁増のしるしには,この世の道俗ことごとく,外儀は仏教の姿にて,内心外道を帰敬せり

と,表向きは仏教の装いをしていながら,心は仏道を離れている,と嘆いている。

先日亡くなった市川団十郎の辞世,

色は空 空は色との 時なき世へ

は,そのあたりの仏教の本質をとらえている気がしないでもない。すなわち,色即是空・空即是色,形あるものはいずれ空になる,実体のない空がそのまま万物の姿でもある,と。

本来,仏教は,本来,霊肉二元観・霊魂不滅論を取らない。「霊魂不説」すなわち,霊魂と肉体の二元的考え方を否定し,

実践的主体ということから,心を重視するが,存在論としては,あくまでも心物相関にたち,一方を不滅の実体,他方を滅の仮象などとはみない。心物ともに空・無自性を基本とする…。

しかし,

輪廻転生説がとりいれられ,輪廻する主体が問題となり,その結果,輪廻主体が一種の霊魂のごとき色彩を呈するに至り,また祖先崇拝に結びつき,祖先の霊に対するまつりをおこなうようになった…。

と著者は,仏教事典から引用する。そしてこう言い切る。

われわれが人生で扱う命題群を「科学的命題群(客観的命題群)」と「価値的命題群(主観的命題群)」とに分類してきた。前者は,「事実との照合を通じて命題の真偽を客観的に決定できるような命題群」であり,後者は,「命題の真偽が価値観に依存するため客観的に決定できないような命題群」である。「霊は実体を持つ存在である」とか,「霊は祟る」といった命題は明らかに「科学的命題」であり,もしそのように主張するのであれば,その真偽は科学的検証の対象とされなければならない。

そして心霊写真のトリック,コナン・ドイルがお墨付きを与えた妖精写真のトリック,念写のトリック,霊感商法の詐術,神霊手術のトリックなどを例示しつつ,律儀にというか,大真面目に,真正面から,

霊が見えるとはどういうことか

を検討していく。なんだか,この辺りは,薪を割るのに,薙刀か太刀を取り出しているようで,ちょっとユーモラスではある。

まず何かが見えるには,自らが発光しているか,他の光源によって反射しているかのいずれかだ,として発光生物を検討していくが,それは無理として,反射しているのだとすると,

どう考えても霊は物質系だ,

とし,ではどんな原子で構成されているのか,そして,物質で構成されている霊が移動するには,移動のためのエネルギーを調達しなければならない,しかし,火葬された体から抜け出した霊が,

生きたままの元素組成で再構成されるなどということ自体,あり得ない…。

という調子である。たぶん霊を信ずる人間とは,すれ違うことになるだろう。なぜなら,著者自身も言うように,

一般に人間には,自分の尺度に合わないものは心理的に受け入れを拒否するような面があり,自分の考えを支持する情報には進んで耳を傾けるが,それを否定するような情報に接すると心理的な不快感を感じて,さまざまな理由をつけてその受け容れを拒否する傾向がみられる,

のは振り込め詐欺にあうトンネルビジョンと化した老人を見れはよくわかる。後は,それぞれの生き方の問題なのだろう。

加藤周一の5つの秘訣が少しは参考になる。

1.因果関係を速断するな
2.AとBの関係を論じるには,AB両概念を明確にせよ
3.枝葉を省き,本質を見きわめよ
4.主観的願望と客観的推論を峻別せよ
5.事実と照合して白黒のつく問題とそうでない問題とを区別せよ

まあ,著者自身も言っているように,白黒のつかない思い込みの領域に踏み込んでいるのかもしれない。

それだけに,著者の言う,次の言葉は説得力がある。

人生には,思い描く通りにはいかない困難がつきものだ。そんな時,人は「なぜ自分にはこんな困難がつきまとうんだ」と思い悩む。どんな事態にも,そうした事態がもたらされた原因があるはずだか,時には思いがけず降って涌いた災難が困難が原因となることもある。…そのような場合,少なからぬ人が自分の不運を嘆き,「どうして理不尽にもじぶんだけこんな不幸が降りかかるのか」と自問自答する。「霊」が心の隙間に入り込むのは,そんな時だ。人間の特徴は,自分の見聞きするもの,体験するものに原因を求めたがることだ。「なぜ」にこだわる心と言ってもいい。自分の納得のゆく理由が欲しい。(中略)そんな時,「霊」は便利なのだ。

それ自体は,心の安寧を求めるその人なりの選択だが,そこに付け込まれる余地がある。

科学的命題には科学的な思考を貫く,という著者の姿勢は,正しいが,なかなか難しい。しかし,あいまいなものをあいまいなままに受け入れるのだけはやめなくてはならない。

分からなければ,わかるまで,納得がいくまで,その案件を「宙」に浮かして,結論を出さない。

それくらいはできる。


参考文献;
安斎育郎『霊はあるか』(講談社ブルーバックス)

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posted by Toshi at 06:41| Comment(1) | 書評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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Posted by ロレックス レディース 人気 at 2013年10月24日 02:24
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