2013年09月17日

走る


空前のマラソンブームだそうである。昨年ほんのわずか,その一端に触れ,ハーフ完走だけで,リタイアした自分としては,忸怩たるものがあるが,人間の走るについては,少し考えを改める必要があるようだ。

人間の足について,人類学者,アリス・ロバーツは,こう書いている。

わたしたちの体の構造は,人類が長距離走に耐えるように進化してきたことを示唆している。たとえば,腱と靭帯は,エネルギーを貯めて効率よく走れるようになっているが,そのような特性は,毎日走って体を鍛えたりしなくても,わたしたちの体に元々組み込まれているのだ。

自分の足を見てみよう。類人猿にしては…とても変わっている。人類の足は,立って,歩いて,走るためにできている。近い親戚のチンパンジーやゴリラと違って,わたしたちは足でモノをつかむことができない。その代りに,すべての指が一列に並び,足は直立するための土台という,より重要な機能を果たすようになった。また,人類の足にはアーチ構造が見られる。内側の縦のアーチ(土踏まず)と外側の縦のアーチ,そして甲の部分を横切るアーチだ。これらのアーチは,収縮性のある腱と靭帯によって支えられている。走る時,足が地面につくと,腱と靭帯がバネのように伸びてエネルギーを貯め,地面を離れる足にそのエネルギーを戻す。アキレス腱は,筋肉と踵骨をつなぐ太い腱で,やはりバネの役目を果たしている。また,人類の足は長いので,大きな歩幅で歩いたり走ったりできる。

この人間の足の長さは,かなり以前からのようで,

最初のヒト族(ホミニン)はアウストラロピテクス属の猿人で,二本足で歩いていたが,四肢のバランスはチンパンジーに似て,腕が長く,脚が短かった。初期のヒト属(ホモ属)も四肢のバランスはチンパンジーのようだったが,ホモ・エレクトスが登場した180万年前頃には,脚の長い人類が現れはじめた。

そこで,走るのに適したように変化があらわれる。例えば,前傾姿勢が保てるように背筋が発達,脚を後ろに動かすための臀部の筋肉も大きくなる等々。なにより,人間の体には,体毛がほとんどなく,長距離を走っている時に,熱を発散し,桁はずれて多い汗腺による発汗と汗の蒸発によって体温を下げるという,適応がある。

この特徴が,人類を,短距離ではそれほど速く走れないが,長距離では決して他に引けを取らない,霊長類で唯一,走れるようになった種なのだ。

だから,人類学者には,

歩行が基本的で重要な移動方法であるのは確かだが,走ることが人類や祖先にとってどれほど大切な役割を果たしてきたかが見逃されてきた,

とし,

人類の体は,歩き,時には走って長距離を移動するために進化してきた,

考えているものがいるようだ。人類は,その脚力で,出アフリカで,ユーラシアから北極圏,南北アメリカへと移動していったのだ。

しかし,歩いたほうがエネルギーの消費が少なくてすむのに,なぜ,あえて走るようになったのだろうか。

それは,走らなければ生きていけなかったからだ。弓矢のような道具が発明される前,祖先たちは長距離を走って獲物に接近して槍で仕留めるか,あるいは,追い続けることで獲物を疲れさせて捉えていた。走らなければ,大きな動物を捉えることはできなかった。

長距離を走れるようになった遺伝子を子孫につなげてきた。それが,

粘り強いハンターの役に立つ脚と臀部を具えている,

というわけだ。

チーターのような,その瞬発的な力はない代わりに,粘り強く走り続ける持久力が我々の特徴であるなら,それは,精神にももともと備わっているはずなのではないか。

いまも狩りをする,ブッシュマンに同行したアリス・ロバーツは,その長距離ランナーぶりに驚嘆しているが,なにより,日中に狩りをすることが,他の捕食動物やハイエナのような清掃動物とも重ならず,ニッチを獲得したのではないか,と推測している。そこには,人の狩りの仕方がある。真昼間,動物の足跡みつけて,それをたどり,執拗に追跡する。そして夜は,安全な集落に戻る。

持続する脚力は,持続する精神力とセットのはずだ。持続する精神力は,持続できる体力とセットのはずだ。

仮に持久力のある脚力があっても,執拗に追い詰めていく精神力がなければ,途中で投げ出すだろう。つまり,精神の持久力の限界が,脚力の限界になる。その脚力は,精神力とあいまって進化したというべきなのだ。

ほんのわずか走ってみた,つたない経験でも,足が痛かろうが,腹が痛かろうが,それが限界ではない。もうだめ,と思いつ,しかし粘って粘って,自分の中で,あの橋まで,あの電柱まで,と先へ先へと身体を引っ張るのは,精神力だと,つくづく思う。自分がだめ,と思った瞬間,耐えてきた体の痛みが,脚の痛みが,我慢できないほどの痛みとなって,諦めを後押しする。




参考文献;
アリス・ロバーツ『人類20万年 遥かな旅』(文藝春秋)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




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posted by Toshi at 04:47| Comment(0) | 人類学 | 更新情報をチェックする
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