2013年09月22日

設問


クレイトン・M・クリステンセン『C・クリステンセン経営論』を読む。

僕は経営の専門家でもないし,経営の実践者でもないが,本書の面白さは,設問の鋭さ,問題設定の鋭角さにある,と感じた。それがクリエイティブであるかどうかは,その問いの新しさ,斬新さにある。まさにその典型といっていい。

「イノベーターのDNA」の中で,著者は,

ピーター・F・ドラッカーは半世紀以上前に,挑発的な質問の力について,「適切な答えを見つけ出すことよりも,適切な質問を投げかけることが重要であり,また難しい

と言い,

イノベーターは,常識にあらがう質問をたえず問う。すなわち,タタ・グループ会長のラタン・タタが言うところの「当たり前を疑う」のである

と書く。そして,創造性あふれるビジネス・リーダーの特徴を,5つの発見力としてまとめた。

関連づける力
質問力
観察力
実験力
人脈力

まさにそれは著者自身をも指している。その著者の設問は,各章の冒頭を取り上げただけでわかるだろう。たとえば,次のようだ。

ビジネス界で必ずと言っていいほど繰り返されるパターンと言えば,業界大手が技術や市場の変化にいち早く対応できずに失敗するというものである。(中略)業界リーダーシップたちは,マネジメントにおいて有名かつ重要とされている,あるひとつの教義をやみくもに信奉している。すなわち,顧客の意見に耳を傾けるというものだ。(「イノベーションのジレンマ」)

企業が戦略の変更に苦しむ理由はたくさんあるが,特に大きな理由は一つだ。それは,「たいていの企業では,戦略的思考が経営上のコアコンピタンス(中核能力)になっていない」という点である。(「戦略再構築へのドライビング・フォース・マッピング」)

大企業のマネジャーは「破壊的変化」が迫ってきていることに気づいているはずである。それならば,変化に対応するための経営資源が欠けているのだろうか。いや,ほとんどの場合,有能な人材を擁し,商品の品ぞろえも豊富で,技術ノウハウも第一級,その上資金にも余裕がある。それでは,マネジャーに欠けているのは何か。(「『イノベーションのジレンマ』への挑戦」)

どの業界でも,破壊的イノベーションは足下から忍び寄ってくるものだ。市場を支配しているフレーやーは,自社の製品やサービスの改善に力を注ぎ,それが平均的なユーザーにはそのような機能があることすらわからないレベル(過剰に機能が搭載されたコンピュータを想像していただきたい)にまで達する。とはいえ最初のうちは,市場のローエンド市場にアピールするように設計された,より単純で利便性が高く,しかも低コストの製品やサービスに目を向けてはいない。ただし時間の経過とともに,このような単純な製品やサービスの性能も向上する。そして,大幅な性能向上により,大多数のユーザーのニーズを満たすものとなる。(「医療ビジネスのジレンマ」)

1980年代に,IBMはOSの生産とプロセッサ・チップの製造をアウトソースすることを決定した。…ところがこの動きが惨憺たる結果を招いたのは周知のところだ。…過去を振り返って「いったい全体,IBMは何考えていたんだろうか」と言うのはたやすい。だが,現実には,その決定は当時の主流だった経営論にかなったものだった。(「シフトする収益源を先読みする」)

具合がわるくなり,医者にかかった場面を想像してみよう。症状について説明することもなく,勝手に医者が処方箋を書き上げて,「これを二錠ずつ,1日に三回服用しなさい。そしてまた来週いらっしゃい」と言う。「どこが悪いのか,まだお話していないのに,これが私に効くとどうしてわかるのですか」とあなたは尋ねる。「効かないはずがありません。二人の患者には効いたのですから」と医者が答える。
名医と呼ばれる人ならば,このような診察をすることはあるまい。…しかし研究者やコンサルタントこのような一般的な助言を日々「処方」し,経営者たちもこのような「治療」を日々受けている。(「よい経営理論,悪い経営理論」)

市場セグメンテーションは,新進の若手マネジャーたちがビジネス・スクールで学び,優良企業のマーケティング部門でいまなお実践されている。しかしこれこそが,イノベーションを恐ろしく賞賛の低いギャンブルに変えてしまった原因なのだ。(「セグメンテーションという悪弊」)

マネジメントの基本は,社員および関係者たちが協力し合える環境を整えることだ。経営者は目的を達成するために,オーケストラの指揮者のごとく多彩なメンバーの才能と行動を導く。これは一筋縄ではいかない。従来の手法を続けるのではなく,変革を促す場合はとりわけ複雑だ。新たな目標に向けて社員の協力を引き出すには,当代きってのCEOですらつまづきかねない。(「アグリーメント・マトリックス」)

いま必要なのは,数々の社会問題において,これまでとは異なるアプローチによって既存構造そのものを改革し,しかも波及効果が高く,かつ持続性にも優れているソリューションを生み出す組織への支援を強化することである。我々は,これを「触媒的イノベーション」と呼んでいる。(「破壊的イノベーションで社会改革を実現する」)

優良企業で熱心に働く敏腕マネジャーたちの多くが,なぜこれほどまでにイノベーションにてこずるのだろうか。(「財務分析がイノベーションを殺す」)

ビジネスモデルのイノベーションが起こると,産業構造全体が変わり,数百億ドルの価値が再配分される。…グローバル企業のイノベーション投資のうち,新しいビジネスモデルの開発に焦点をあてたものは1割に満たないことがわかった。…調査によれば,ビジネスモデル・イノベーションによって新たな成長を遂げるには,二つの難問があることが明らかになっている。一つ目は,定義されていないことである。ビジネスモデルを開発する際の力学やプロセスに関する研究はほとんどされてこなかった。二つ目は,開発の前提条件,そこに働く相互依存性,強みや限界など,既存のビジネスモデルを十分理解している企業がほとんどないことである。(「ビジネスモデル・イノベーションの原則」)

イノベーティブな人材を見つけるには,どうすればよいのだろうか。また,自分自身がイノベーティブになるには―。イノベーション能力がビジネスを成功させる秘訣であると知っているビジネス・リーダーたちは,この答えを求めて途方に暮れる。残念ながら,創造的な人材を創造的たらしめているものは何なのか,ほとんどの人たちが知らない。(「イノベーターのDNA」)

(ハーバード・ビジネス・スクールの)授業の最終日,私は,学生たちに…三つの質問に答えを出すように求める。最初の質問は,こうである。どうしたら幸せなキャリアをしっかりと歩めるか。次の質問は,どうしたら伴侶や家族との関係をゆるぎない幸福の源にできるか。最後の質問は,犯罪者にならないためにはどうしたらいいか,である。
(「プロフェッショナル人生論」)

アメリカの企業買収総額は毎年二兆ドル超に上る。その一方,M&Aの失敗率は7~9割に達する…。このように期待を裏切る買収が多いのは,経営陣が,既存業務を改善する買収と,自社の成長見通しを抜本的に改革する可能性を秘めた買収を見分けられないせいで,戦略の目的から外れた買収相手を選んでいるからである。(「真実のM&A戦略」)

破壊的イノベーションとは,あなたのビジネスに向けて発射されたミサイルのようなものだ。この20年間,次から次へとミサイルが現れては狙い通りに標的を破壊していく様を,我々は描写してきた。…破壊で舞い上がった粉塵が晴れた後,それでもたくましく成長していけそうなビジネスを自社に確保しておくため,あなたは何をしておくべきか。(「破壊的イノベーションの時代を生き抜く」)

こう,冒頭の一節と,そのタイトルを見ただけで,著者の鋭い問題意識がよくうかがえるだろう。凡百の経営論とは,切り込み口が違うし,その問いに見合うだけの,実践的な結論と処方箋がきちんとある。

著者は,こうさりげなくこう書いている。

私は,私の研究を利用した企業がそのアイデアからどれほど巨額の富を得てきたか,ちゃんとわかっている。つまり,自分がそれなりの影響力を持っていることを承知している。しかし,がんになってみて,その影響力がいまの私にとっていかに重要でないかがわかったのは興味深かった。そして,神が私の人生を評価する物差しは,お金ではなく,私が関わりを持った1人ひとりであるという結論にたどり着いた。

では著者の理論の特徴は何か。こう言っている。

理論とは,ある行動が引き起こす結果とその理由を予測して説明するものである。…すぐれた理論は,少なくとも二つの面で有益である。第一に,予測を可能にする。…第二に,確固たる理論は,現在何が起きており,その理由は何かを理解するために,これを説明する。

そのために,すぐれた理論は,三段階のステップを踏む,と言う。

・結果をもたらす原因を説明することの重要性(結果を導く特性を見つけ,それについて単に経験的に説明するのではない)

・理論家が暫定的な理解(仮説)から,信頼のおける予測へと移行するうえで有効な分類プロセス

・すぐれた理論を構築するために失敗から学ぶことの重要性

この中で,重要なのは,

特性と結果の関係と,本質的な因果関係とを混同しない

ということが,えせ理論との分水嶺になる。たとえば,

ベンチャーキャピタルからの出資を受けた企業と,事業会社から出資された企業の成功を比較している。これは,成功の原因は出資の出所にあるとほのめかし,成功企業に関連する,現時点では道成る根拠にすぎないと思われる特性に成功の原因があるとは考えていない。

これは,「特性と結果の関連性を表しただけ」で,因果関係を明確にしていない。しかし,経営者から見ると,

推奨された特性―これは概して成功と連動している―が得られたならば,自分たちも何とか同じ成功にあやかりたいと考えてしまう。

と。だから,著者は言う。

基本的に,「成功をもたらすのはどの特性か」と問うことをやめ,「どのような状況でこの理論を用いると,失敗につながるか」という問いにつながるか,

という問いに焦点をあてよ,と。

これは,いつも特性に振り回される我々への痛烈なメッセージといっていい。際立つ特性,よく週刊誌や強み論に見られる,特性を原因と見る考え方だ。しかし,そこには,他の選択肢が検討された余地はない。血液型の因果論もどきとよく似ている。

戒めとすべきことだろう。こういうのに振り回されるのは,特異な目立つ現象に振り回されるのに似ている。ちょうど下手なサッカー選手がボールを追っかけまわすのに似ている。それではボールを支配することはできない。



参考文献;
クレイトン・C・クリステンセン『経営論』(ダイヤモンド社)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




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posted by Toshi at 05:31| Comment(7) | ビジネスリーダーシップ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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