2013年09月28日



毎年,二度名古屋の菩提寺に墓参りに行くのだが,父が祖父の死を機に建て替えた墓の後ろに,古ぼけた赤茶色の小さな墓石がずっとある。戦災で焼け残った元々の我が家の墓らしい。母は,墓参りの度にそこにも花を手向けていたので,いまもその慣習を続けている。

その墓は,祖父がまだ小さい時,養子の夫と幼子の祖父を残して,男と出奔した祖父の母(僕から言うと曾祖母)が入っているという。結局他国で死んで,ここに入っているということらしい。幕末のことだ。

家付き娘が出奔したため,養子となった夫は家を出て,祖父の祖母が,祖父を育てた。この人は,城の奥勤めをしてきた人らしく,厳格な人らしく,後年,祖母が嫁入りした後も,健在で,

たい(祖母の名)さん,

といって,障子の桟を指先でなぞって,ここがまだ汚れている,と言っていたと,祖母が何かの折に話していた。

その屋敷も空襲で焼け落ち,その跡地も,そこに父が立てた家も,いまはもう人手に渡っている。寺にあったという過去帳も空襲で焼けて,その赤黒いほんとに小さな墓石だけにしか,我が家の歴史は見えない。

どの家にも,それに似た出来事はあるのだろう。

母の実家は,中村と言うが,曾祖父は,鳥羽伏見とその後の混乱で幕臣の両親を失い,下僕だが家臣だかにおぶさって逃げのび,維新後,その助けられた家の苗字を名乗った,というのだが,本当だか嘘だか,もう確かめようはない。

過去に遡って,いまを正当化(正統化)しようとするのが家系図だが,いずれも源平藤橘か天皇家に源を発する,という嘘が通用する。そんなものが何の役にも立たない時代になってほしい,とつくづく思う。

人君なんすれぞ天職なる
天に代わりて百姓を治ればなり
天徳の人に非らざるよりは
何を以って天命に愜(かなわ)ん
堯の舜を巽(えら)ぶ所以
是れ真に大聖たり
迂儒此の理に暗く
之を以って聖人病めりとなす
嗟乎血統論
是れ豈天理に順ならんや

という横井小楠の詩が,いまもインパクトがあるということは,出自や貴賤や富貴を貴ぶ風潮がまだある,ということだ。二代目だの三代目だの,何代続いたのということを誇りにする店も,芸も,仕事も,僕は大切とは思わない。一子相伝するものは,ただ守るだけだ。祖先が守破離で破ったものを,また殻に閉じ込め,後生大事に守るという気風が,僕のようなどこの馬の骨という人間にはさっぱりわからない。むしろ才能あるものをこそ,その後継者にもってくるといいうことが伝統を続けていく意味になるはずだ,江戸時代に歌舞伎がそうであった例があるように。

もっと突っ込んだことを言うなら,親の財産はすべてその代で召し上げ,次世代育成のファンドにする,というくらいでいい。すべての子供が横一列で競う時代こそが活力の時代を生む。明治前後までは,少なくとも,村の有力者は村の優秀な人材を都に上って学ぶのを後押ししていく懐の深さがあった。せめて,すべての優秀な人材が,学費をサポートしてもらえる奨学金制度を充実しなければ,日本は少子化とともに保守化し,墨守化し,それとともに縮小再生産に陥る懸念がある。米百俵の例は,こういう時にこそ使う例ではないか。箱モノばかりを再生産するオリンピックなんぞに,ムダ金を使っている余裕はないのだ。

さて話が横へ流れた。

墓石があろうとなかろうと,人の人生は,

人間到る処青山あり

なのであり,一人おのれの器量と技量と度量のみで競うことが,生きることだ。

分け入つても分け入つても青い山

山頭火の句にある。

かぎりなく
はこびつづけてきた
位置のようなものを
ふかい吐息のように
そこへおろした
石が 当然
置かれねばならぬ
     空と花と
おしころす声で
だがやさしく
しずかに
といわれたまま
位置は そこへ
やすらぎつづけた(石原吉郎「墓」)

まあ,墓は,この場合,墓石のことではない。おのれの胸に刻む墓石のことだ。

そうやって静かに,おのれの生を終える,ということが,自分の望むことかもしれない。そして,そこに,おのれ自身で碑を刻む。墓碑銘を刻む。とっさに,

Confusion will be my epitaph

というキング・クリムゾン「エピタフ」の,フレーズが浮かんだ。

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




#石原吉郎
#山頭火
#墓
#キング・クリムゾン
#エピタフ
【関連する記事】
posted by Toshi at 05:21| Comment(2) | 日記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ブレスレット
Posted by 手作りブレスレット at 2013年11月07日 19:04
dubetica
Posted by duvetica ダウンベスト at 2013年11月12日 22:24
コメントを書く
コチラをクリックしてください