2013年10月05日

生き残り



渡邊大門『黒田官兵衛』を読む。

来年の大河の主人公だそうだが,僕はそもそも黒田官兵衛という人物が,世に言うほどたいそうな人物とは思わない。講談じゃあるまいし,当時軍師などという存在はいない。所詮,信長,秀吉,家康の配下として力量を発揮しただけの人物だと思う。

多くは,黒田家の正史『黒田家譜』に因っているようだが,これがまた食わせ物だ。そもそも家譜とか家系図が正しいなどという思い込みは棄てたほうがいい。秀吉程でないにしろ,家康にしろ信長にしろ,戦国時代から出てきた武将,大名は,それほどの出自ではない。だから,江戸自体家系図づくりが盛んに行われた。平和な時代になると,武功で名を成せなければ,出自か先祖の武功を誇るしかない。

『黒田家譜』は,三代目藩主光之(官兵衛の曾孫)が貝原益軒に編纂を命じた。既に官兵衛死して八十年,官兵衛誕生から数えれば百四十年経過している。したがって,

黒田家の先祖が近江佐々木源氏出自,

という記述すら怪しい。しかも史料不足から,いまでは偽書とされる『江源武鑑』が多用されており,

有力な大名家の家譜は,正史と位置づけられ,そこには「真実」が記されていると考える向きが多い。しかし,実際には,一次史料を用いて子細に内容を検討する必要がある。特に……『黒田家譜』に動向が記されていても,裏付けとなる一次史料がない場合は,そのまま鵜呑みにすることはできない。伝承(口伝)などにより,不確かなまま記された可能性がある。

と著者は慎重な物言いをされている。しかし,僕は,家譜は,ただ正史を書くために記されたのではない,と考える。系図と同様,自らの出自と武功を顕彰するのが目的だと考える。不都合な部分はカットされるだろう。

著者はこう言う。

改めて,近世初期に期待された官兵衛像を考えてみると,名君像を提示したかったと推測される。それは,先見性に優れており,戦いの巧者であり,江戸幕府成立の立役者であり,質素・倹約を旨とする理想の君主像である。官兵衛の逸話が数多くさまざまな形で残っているのは,その証左と言えるであろう。
たとえば,『黒田家譜』によると,官兵衛は運命の岐路に立たされると,必ず正確な判断を行っている。…政局を見誤り,正確な判断を下せず没落した大名は数多い。官兵衛は,その都度判断を見誤ることなく,尋常ならざる出世を遂げた。先見性は,名君の重要なファクターであった。…藩祖ともいうべき官兵衛を名君に仕立てることは,長政(官兵衛の子)や福岡藩にとっても重要なことであった。それゆえ諸書を通じて,官兵衛の神憑り的なエピソードが繰り返し再生産されることになった。

と。ふと思い出すのは,二兵衛と並び称され,長政の命を救った竹中半兵衛の子,竹中重門が書いた,秀吉の伝記『豊鑑』である。祖先を顕彰することは,そのまま自らの家系を顕彰することになる。

その意味では,関ヶ原で下した判断が正しくても,加藤清正や福島正則は,家康にとって利用価値はなく,黒田や細川は利用価値があったということだ。関ヶ原で判断を誤っても,立花宗茂のように復権するものもあれば,,島津義久のようにしぶとく生き残るのもある。また毛利や上杉のように減封されて生き残った者もある。

あくまで,主導権はそのときの天下の実勢を握ったものの手中に,それぞれの命運はある。それがあの時代の厳然たる事実であるとするなら,生き残れた判断だけに,価値があるのではないだろう。

そのあたりは僕にはわからないが,少なくとも,石田三成のような,覇権に挑む生き方を,官兵衛が取らなかったことだけは確かである。その意味では,毀誉褒貶は別にして,官兵衛に,三成ほどの気概は感じられない。

著者はこう締めくくっている。

官兵衛の出自は播磨の一土豪であり,小寺氏の一家臣に過ぎなかった。しかし,官兵衛のすぐれた才覚は認めざるを得ない。(中略)官兵衛がいかんなく才能を発揮したのは,類稀なる交渉術を駆使する調略戦であった。敵方の領主を見方に引き入れたり,和平を結ぶ際に有利な条件のもとで締結に漕ぎ着けるなど,その役割には大きな重責が伴った。官兵衛は,秀吉の中国計略以後,北条氏討伐の小田原合戦に至るまで,その役割を全うしたといえる。

そして,官兵衛を軍師とするには無理があり,

官兵衛は数々の大名との交渉を担当したことから,「取次」などと称するのが無難なようだ。

と結論づけている。それは蜂須賀正勝も同様であり,毛利側の交渉窓口であった安国寺恵瓊もまた同じ役割を担っていた,ということができる。



参考文献;
渡邊大門『黒田官兵衛』(講談社現代新書)

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posted by Toshi at 05:48| Comment(1) | 書評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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Posted by サマンサ バッグ 人気 at 2013年11月05日 22:44
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