伊勢参り
鎌田道隆『お伊勢参り』を読む。
楽しさと学びとを深く広く定着させた江戸時代の旅,その代表がお伊勢参りではなかったか…
という著者の言い分も分からないではないか,少し楽天的すぎる。
抜け参り
という言葉がある。奉公人が主人に断りなく,家出する。主婦も家出する。そして,
伊勢神宮とさえ言えば家出も許される,
しかも,雇い主側も,
伊勢までの往復の日数を数えてまってみた,
という社会的な風潮があった。しかし無一文でも,沿道の人の施行を受けて,多くは,無事に帰ってこられる,という社会的基盤もあった。逆に言うと,伊勢参りは,封建時代の身分にしばりつけられた自分のありようを,一瞬解き放つ,絶好の機会となっていた,ともいえる。
一般に旅費は,一日当たり,四百九文,一文を二十円から三十円とすると,一日おおよそ一万円,これは普通の奉公人レベルで賄える金額ではない。それも,伊勢参りという名目があると,施行で支えてもらえる。
江戸時代,日常的な参宮とは別に,大規模な集団的参宮が,おおよそ,六十年に一度起こっている。
慶安三年(1650)江戸の商人たちが中心。白装束。
宝永二年(1705)京都の子供たちが発端,360万人。
享保八年(1723)京都の花街の遊女たち。派手な衣装・装束。
明和八年(1771)京都周辺から始まり,お札降りで拡大。
文政十三年(1830)阿波から始まる。450万人。
その他にも地域的に群参があったとされるが,時代が下るにつれて,施行や接待が拡充し,明和の大阪施行では,豪商たちが,競って施行したり,阿波藩や郡山藩の領主層も,施行に乗り出している。
こうした施行の基盤があることが,より誰でもが参宮にかこつけて抜け参りに出やすくしている,ということはいえるだろう。
こういう領主層の好意的態度こそ,おがげまいりの性格を示しているという考え方もあるが,藤田俊雄は,こう言っている。
「おかげまいり」とむすびついた「おかげおどり」にたいして,伊賀名張や大和俵本では,藩役人が必死になってこれを抑圧しようとし,領民と激しく対立した…,
という事実を上げ,政治的な集団運動ではなかったにしろ,必ずしも,領主にとって,全く危険のないものではなく,
(大名による)施行がおこなわれた反面には,無言の大衆的圧力がはたらいていることを見なければならない…,
としている。たとえば阿波藩の施行には,前年ぬけ参り禁止をした反動とみることができる,と。それだけ,伊勢参りという行為のもつ,社会的プレッシャーというものが相当に大きかったと,見ることができる。
確かに,伊勢参りには,参宮という信仰心とともに,一面日常を脱出する娯楽の側面があることを否定しないが,反面で,身分社会の下層の人々,奉公人,農民の,そうしたくびきからの解放という側面があったことも事実なのである。
伊勢参りを止めだてした主人に神罰がくだったという話がいろいろ伝搬しているということは,雇い主側へも強烈なプレッシャーとなっており,伊勢参りと言いさえすれば,突然の出奔も許さざるを得ない風潮があり,それを物質面で支える施行のバックボーンもあった。
この背景を考えるとき,幕末の慶応に大流行した「ええじゃないか」は,このおがけまいりの延長線上にありながら,ほとんど伊勢参宮や信仰とは関係なく,爆発的なエネルギーの解放という側面が突出した現象であったことがよく見えてくる。おかげまいりの流れをただの信仰と娯楽だけにみると,ええじやないかは異質のものに見えるが,エネルギーの解放という側面で見れば,見事につながって見える。
その面で,著者は楽天的にも,この面を全く見逃しているように見える。既にそのことは,江戸時代最後の「おかげまいり」である文政のおかげまいりにその兆しはあったのである。それを全く言及しないのは,意図があるのでなければ,少し杜撰ではないか。
文政のおかげまいりに際しては,続いて,地域によって,おかげおどりが流行る。
誰いうともなく,踊らないものは一族病死し,家が焼失するという噂が立ち,揃いの緋紋羽のぶっさき羽織をつくり,明け六つに氏神の杜に勢ぞろいし,踊り騒ぐうちに村役人に交渉して,年貢一石につき三斗の減免を要求し,ついに一斗の減免に成功したという。
ここには,慶応の「ええじゃないか」に直接つらなる,時代の変化を見抜いた,したたかな民衆の解放感がほの見える。
参宮にかこつけて抜け参りする民衆に,その兆しがずっとあったのである。それは,
伊勢参り大神宮にもちょっと寄り
のしたたかさ,なのである。
参考文献;
鎌田道隆『お伊勢参り』(中公新書)
藤田俊雄『「おかげまいり」と「ええじゃないか」』(岩波新書)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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