フューチャーサーチ



マーヴィン・ワイスボード&サンドラ・ジャノス『フューチャーサーチ』を読む。

フューチャー・サーチは,もともと「ストラテジック・フューチャー・コンファレンス」と言っていたそうだ。そのままだ。未来への話し合いを構造化したものだからだ。

著者はこう書く。

フューチャー・サーチが効果的なのは,…私たちにとって大切ではあるが一人ではできない課題に取り組む中で,人間としての尊厳や意味,コミュニティを求める内なるニーズにアクセスすることができるからだと考えています。「全体 “象”」(whole elephant)との関係から自分自身をみることで,過去に不可能だったアクションプランを生み出すことができるのです。

群盲象をなでる

のことわざがあるが,それぞれがそれぞれの経験でモノを見ている。それをもちよって,共通の現実,象を作らない限り,相手がどう理解しているかは見えてこない。「全体象」はそれを言っている。

そのために,フューチャー・サーチでは,

・ホールシステムが一堂に会する
・ローカル(検討対象とする組織やコミュニティ)での取り組みを,「全体象」(グローバル)の中でとらえる。
・未来に焦点をあて,コモングラウンドを明確化する
・参加者が自己管理し,行動に責任を持つ

の4つの基本原理に基づいて,三日間(正確には,初日午後から,三日目の午前まで)の日程で行われる。

初日午後は,過去を振り返る。現在と外部のトレンドに焦点をあてる
2日目午前は,トレンドの続き。現在に焦点をあて,自分たちの行動を認める
2日目午後は,理想的な未来のシナリオ,コモングラウンド(共通の拠りどころを)を明確化する
3日目午前は,コモングラウンドの明確化。アクションプランの作成。

活字の上だけではわからないが,広範囲なステークホルダーを集め,自分ちのコンテクストを確認して,未来像を描こうという流れは見えてくる。

成功の条件を,こうまとめている。

・ホールシステムが一堂に会する
・ローカルな行動を起こすコンテキストとしての全体象
・問題と対立に注目するのではなく,コモングラウンドと未来に焦点をあてる
・小グループによる自己管理
・全日程への完全な出席
・快適な話し合いの環境
・3日間の日程
・フューチャーサーチ終了後の活動についての責任を公にする

特に,問題に焦点をあてず,いまここにある現実と,未来を志向する姿勢が強調される。それには,

・意見はすべて正当なものと考える
・すべてをフリップチャートに書く
・お互いに耳を傾ける
・時間を守る
・問題と対立を扱うのではなく,コモングラウンドと行動を探求する

を原則とし,

私たちは,対立には目をつぶり,すでに決議されたことや,これまでがお互いに接することがなかったために行動を起こすことができなかったことを共に実行するために,対立を受け入れ,解決できないことは保留にすることを進めているのです。

その背景をこう説明している。

(すべての対立に取り組まなければならないという考えに)フューチャーサーチではそこにはまってしまうことは命取りになります。…もし私たちが最も深いところにある意見の相違について徹底的に検討し始めたなら,私たちは家族,同僚,…とですら一日を乗り切ることを難しくなってしまうでしょう。日常生活において,私たちはすべての問題に取り組んではいないのです。フューチャーサーチでも,合意したことに対して行動を起こす前に,対立しているすべての問題に取り組まなければならないということはありません。

妥当だと思う。未来に向かって,問題に焦点をあてるのではなく,解決状態(その時どういう状態になっていたらいいか)に向かって何をするかに焦点をあてようとしているのだから。

さてしかし,これは体験してみるべきものだから,この仕組みがいいものかどうかは,何とも言い難い。しかしそれとは別に,僭越ながら,違う感慨が起きる。

こうやって,次々アメリカのソフトを輸入し,お先棒を担ぐ連中がいっぱいいることに,辟易する。自分の頭で考えるものは,外に答えを探そうとはしないものだ。しかし,コーチングもそうだが,いつも答えを欧米に求める姿勢を,恥ずかしいと思わない限り,このいまの日本の体たらくは変わらない。

中国の偽造を言っている場合ではない。精神は,全く同じ構造だ。

日本に,こういうようなソフトがないのかと言えば,ある。たとえば,遠く,中世に,小さな共和国を維持した,70戸ほどの小さな村がある。そこでは,

乙名を指導者とする行政組織,在家を単位とする村の税を徴収し,若衆という軍事・警察組織をもち,独自の裁判を行い,村の運営を寄合という話し合いですすめ,そのために,構成員は,平等な議決権をもつ,

自治の村であった。それを惣村という。

あるいは,秩父事件でも,われわれのリーダーシップの根がある。

そこに,ソフトがある。しかし,

ひとつは,多くは歴史上,失敗とみなされるために,

さらにはわれわれが,答えを外に探したがるために,

いまも昔も,ないがしろにされてきた。おのれたちのリソースを大事にしないものは,根無し草である。

まあ,最後は愚痴になった。


参考文献;
マーヴィン・ワイスボード&サンドラ・ジャノス『フューチャーサーチ』(ヒューマンバリュー)
蔵持重裕『中世 村の歴史語り』(吉川弘文館)
長崎浩『政治の現象学あるいはアジテーターの遍歴史』(田畑書店)


今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm



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