因果



どうして人は因果関係を見たがるのか。たぶん,想像するに,次を予測するのに,一番便利だからだ。しかし,今の自分を過去に何かがあったから,と考えるのは,いかがなものか。

過去生から始まって,前世がどうしたこうした,母がどうしたの,父がどうしたの,となんでもいまの自分に結びつけるのを聞くと,ちょっと後ずさりする。僕が両親からいい意味でも悪い意味でもそういう強いインパクトを受けなかったせいかもしれない。

それは,自分が仮託しているのだ,とどうして認めないのか。それだけ過去の何か,誰かに縛られている自分を強調して,何が楽しいのか。僕にはさっぱりわからない。

仮に,それがあるとしても,そうやって輪廻転生や因縁を仮定することで,自分のいまの言い訳であり,自分のいまの理由がわかったからといって,それは自分ではコントロールできない。コントロールできないことをいっぱい並べるのは,自分のいまを言い訳しているようにしか見えない。

仕方がない,

と言ってみて,それでそこに甘んじられるなら,それもいい。しかしそうでないなら,そんな訳を知ったところで,どうなるのか。それを変えられるわけではない。

「まあ,しょうがない」と思うだけでは,
しょうがないだけの選手で終わってしまう。

とは,落合博満の言。

器械じゃあるまいし,原因が特定できるわけではない。

なぜそうなった?

なぜ?

と言ったところで,原因点のようなものが特定できるわけではない。人の人生に,

特異点

はない。いくつもの選択肢(選択できない選択肢もある)を経て,いまがある。両親を選択できるようになっているわけではない(選ばれたという見方もあるが,そう思うことで幸せになれるならそう思えばいい程度のことだ)。自分が選択したわけでなければ,結局,自分のコントロール外でしかない。

自分のコントロールできないことに縛られると,結局何をしても事態を変えられないと,ただおのれの無力を思い知るだけではないのか。これを,

学習性無力感,

学習性絶望感,

というらしい。要は,

努力を重ねても望む結果が得られない経験・状況が続いた結果,何をしても無意味だと思うようになり,不快な状態を脱する努力を行わなくなる,という。

あるいは,

長期にわたって,ストレス回避の困難な環境に置かれた人は,その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという。

心理学者マーティン=セリグマンが,1967年に,マイヤーと,犬を用いて行った,という。ネットではこうある。

予告信号のあとに床から電気ショックを犬に与えるというものである。犬のいる部屋は壁で仕切られており,予告信号の後,壁を飛び越せば電気ショックを回避できるようにした。
また,前段階において次の二つの集団を用意した。
電気ショックを回避できない状況を用意し,その状況を経験した犬と足でパネルを押すことで電気ショックを終了させられる状況を経験した犬である。
実験ではその二つの集団に加え,なにもしていない犬の集団で行った。
実験の結果,犬の回避行動に差異が見られた。前段階において電気ショックを回避できない犬はその他の集団に比べ回避に失敗したのである。具体的にはその他の集団が平均回避失敗数が実験10回中約2回であるのに対し,前段階において電気ショックを回避できない犬は平均回避失敗数が実験10回中約7回である。
これは犬が前段階において,電気ショックと自分の行動が無関係であると学習しそれを認知した為,実験で回避できる状況となった場合でも何もしなくなってしまったと考えられる。

これを学習性無力感と呼んだわけだ。これが,うつ病に至る心理モデルの一つとして有力視されているらしい。

しかしおもしろいのは,これを発見したセリグマンが,ポジティブ心理学の創始者でもあることだ。

セリグマンは30年以上にわたってうつ病やうつ状態の研究をしてきた。多くの患者は,つらい出来事に心を奪われた状態が続いて,いつまでも不幸な状態が続いていた。ある時セグリマンは,それまでの心理学が,病気を治すための努力はしてきたが,「どうすればもっと幸福になれるか」については,あまり研究してこなかったことに気がつき,ポジティブ心理学を創始した,と言われる。

つまりこうだ,過去からの因果にとらわれるのではなく,

個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する,

と。

ただ精神疾患を治すことよりも,通常の人生をより充実したものにするための研究,

が必要とみなしたということだ。これは,ソリューション・フォーカスト・アプローチもそういう発想だ。

なぜではなく,

どうしたらいいのか,

どうなったらいいのか,

というソリューション・トークによって,未来を変えようとする。どうせ因果も因縁も変えられないなら,

変えられるものを変える,

動かせるものを動かす,

それで変わるというよりは,動かすという主体的な活動が,自分に効力感を回復させてくれるのではないか。

出来ない理由より,

どうすればできるか,

を考えた方が,発想は活発になる。


今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm



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