2013年11月30日

祭り



春日太一『あかんやつら』(文藝春秋)を読む。

副題に,「東映京都撮影所血風録」とある。著者曰く,

京都撮影所の群像劇,

だそうだ。要は,東映京都撮影所自体が舞台である。そこに,経営者,撮影所長,プロデューサー,監督,脚本家が,どんちゃん騒ぎをしながら,走り抜けていく。まるでお祭りである。こう言う時の主役である,俳優は,この本では脇役に過ぎない。

日本映画の父,マキノ省三の二男,光雄が父意の遺産である,マキノプロダクションのスタッフとともに,創立したばかりのおんぼろ会社東横映画に,乗り込むところから,話は始まる。

大陸から引き揚げてくる映画人の救済,

という願いを,東横映画製作開始の方針となる。それにともなって,みずからの映画人生で培った人脈をフルに使って,体制固めをしていく。光雄の呼び掛けに,光雄の実兄,マキノ雅弘,異母兄,松田定次,稲垣浩,脚本家も,八尋不二,比佐芳武,小国秀雄らが呼応する。

光雄は,

右翼も共産党も関係ない!映画の好きな奴が映画を作る。ここは大日本映画党や!

という方針で,東宝争議やGHQのレッドパージで追われた人にも,活躍の場を与える。

今井正や家城巳代治にも映画を撮らせている。

夢はあっても金はなかった。そんな中で,量産こそが儲かる製作体制である,というマキノ省三から受け継いだ考えで,

少々の予算はオーバーしても,月九本作るところを更に十本作れば,一本当たりの間接費がそれだけ安くつくではないか,

の考えのもとに,ムチャクチャ作り続ける。著者はこう言う。

(東映京都で)量産された時代劇は,ほとんど通俗的なものばかりだった。そのため批評や他社のインテリ系の映画人からは「ジャリ掬い」「薄っぺらな紙芝居」と蔑まれてもいた。が,貧しい中を必死の思いで潜り抜けてきた男たちには,そんなことは全く気にならなかった。どんなことをしても映画をあてなければ,彼らはすべてを失う状況にあり,そこから必死の想いで這いあがってきた。
通俗で何が悪い。
むしろ,それこそが彼らにとっての大義であり,正義でもある。

光雄は言う,

脚本には泣く・笑う・(手に汗)握るの三要素を入れろ。それさえできていれば,あとは,頭とケツさえしっかりしておけばエエ,

物語のベースは,痛快,明朗,スピーディや,

と。そう,どこか大衆演劇一座のような,必死さと,過酷さがある。

どうしたら観客に受けるのか,
どうすれば客を呼べるのか,

それだけに血道を上げていく。そして究極の量産体制に突入していく。

年間八十本の時代劇を製作する,

という。それは,

週単位ででは二本弱。いまの連続テレビドラマの倍近いペースで映画,しかも準備や撮影に手間暇のかかる時代劇をつくっていたということになる。そのため,当時の東映京都は殺人的なスケジュールに追われていた。

という。例えばこんなふうだ。

スタッフたちの時間外労働は多い時で月に300時間近いこともあり,月給の倍近くをそれで稼ぐことになる。そして,一本クランクアップするとほとんど休みはなく,すぐに次の現場に入る。休みらしい休みは正月と盆の二日くらいしかなかった。もちろん,家に帰る暇はなかなかない。大部屋俳優たちは家に帰らずに控室で雑魚寝して,早朝からの撮影に備えたという。

まるで高度成長期の企業のようだ。ハイテンションな高揚感がつづいていく。しかし,当然映画は斜陽になり,

90年代,気づいたら東映京都の作りだす作品は「古臭さ」の代名詞になっていた。

と。死の直前,長く京都撮影所長をつとめ,社長,会長を歴任した岡田茂は,相談役高岩淡に,

京都は楽しかったなあ。特にあの貧乏だった頃,あのころが一番良かった…

と述懐する。まるで,青春時代のお祭りを振り返るようだ。

昔,早稲田祭前のクラブの出し物三つ四つが並行して,大わらわで走り回っていたときの昂揚感を思い出す。もっとそれ以上の,興奮とハイテンションがあったに違いない。カツドウヤとしてのプライドと使命がある以上。

ここでもまれて,排出された監督,脚本家は数知れないが,当然,片岡千恵蔵,市川右太衛門,中村錦之助,東千代之介,大友柳太郎,美空ひばり等々の,黄金の時代劇時代を支えたスターも,舞台に登場しては消えて行く。

その時代,スクリーンを観ていた自分にとって懐かしいのは,スターではなく,脇役だった。思い出すままに挙げていけば,原建策,阿部九州男,加賀邦男,尾上鯉之助,田中春男,吉田義男,安倍徹,汐路章,進藤英太郎,山形勲等々。

その華やかなスクリーンの背後の修羅場とお祭りを知ってみると,スクリーンのあの通俗性が,輝いて見える。

著者はこう締めくくる。

東映京都にとって,本当の戦いはこれからになる。戦いには一人でも多くの味方が必要だ。本書の最大の目的は,一人でも多くの方に「共に戦う見方」になつてもらうことにある。そこになみだはいらない。







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posted by Toshi at 05:25| Comment(0) | 映画 | 更新情報をチェックする
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