2013年12月21日
数字
佐藤朋彦『数字を追うな 統計を読め』を読む。
かつてマッカーサーが,日本政府の発表する数字が杜撰であることを厳しく指摘したのに対して,当時の吉田茂首相は,「もしも戦前にわが国の統計が完備していたならば,あんな無謀な戦争はやらなかったろう」と言い返したという。
著者は言う,
客観性を持たない統計に基づいて国家を運営すれば,その国は滅びることになるでしょう。
と,その意味では,わが国の統計は戦後本当に,始まったといっていい。統計法が制定され,そこにはこうある,と著者は言う。
統計の作成に従事する者が統計を歪めるような(真実に反するものたらしめる)行為をした場合には,6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処すると規定している。
だから,
正しい統計が完備され,それを国民の誰しもが自由に利用できる環境にある,
ことが必要だと。
本書の狙いを,現役の統計局職員である著者はこうまとめる。
①統計のつくり手側からみた内容であること
②どのような点に目をつけながら統計を読めば,見えないものが見えてくるかの秘訣の伝授
③統計学の解説ではなく,数字の読み解き方を解説する
と。たとえば,労働力調査(2003年データ)について,
(15歳以上25歳未満の)就業者数は,573万人で,この年齢層の人口に占める割合は38.3%です。…残りが非労働力で853万人(56.9%)です。内訳をみると,在学者が750万人で,非労働力人口の約9割を占めています。また,学校基本調査結果から推計された人数ですが,進学のために浪人している者が14万人,そしてこれ以外の者が89万人となっています。さらにその中で,就業の希望のない者が40万人います。
この数値に注目し,「ニート」に着眼したのがたのが,『孤立無業』を表わした玄田有史東大教授である。これについては,
http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11365375.html
で触れた。これが,いわば仮説といっていい。これが数字を読むということの意味なのだろう。
あるいは,餃子の年間消費量が,宇都宮市が長くトップにあったが,著者はこういう。
単に家計調査の結果を眺めただけでは,簡単には見つからなかったと思います。家計調査の収支項目は550項目近くもあります。食料に絞っても200項目以上と,かなりの数です。この餃子の支出を見つけた宇都宮市の担当者は,家計調査による統計数字を丁寧に,そして大事に見ていき,地域振興のヒントになるのではと思いついたのではないかと思います。
その意味で,
①数字を丁寧に扱うこと,
②現場を見て歩くこと,
が数字理解には欠かせない,と著者は強調する。現場感覚があるから,数字に疑問が出る。その疑問が,数字の読みを深める。
そこで,統計リテラシー(統計を読む力)を身に着ける方法を,
①我が国の基本的で身近な統計を頭に入れておく。例えば,人口,就業者数や失業者数,物価動向,国内総生産額等々,
②基本統計数値が頭にあると,新聞などの調査結果について,気になったり,疑問を持ったりすることが可能になる,
③発表された数値の解釈やコメントはも一つの見方なので,別の見方もあると考える,
と,挙げた。
僕は,それよりも,自分の現場感覚,現実感覚と対照し,それとの違和やズレを大事にしてみたい。それが,数字の読みを深め,自分の仮説につながる,と思っている。仮説については,
http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11372364.html
で触れた。
因みに,明治に,statisticsを最初に訳したのは,柳河春三ではないかと言われているが,それを福地源一郎が,アメリカのBureau of Statistics を統計寮と訳したのが嚆矢とされている。この「統計」という訳語は,中国でも,韓国でも使われている,という。
参考文献;
佐藤朋彦『数字を追うな 統計を読め』(日本経済新聞出版)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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