2014年02月06日

コーヒー



僕はコーヒー好きだが,そうなったのは,結構昔だ。かつては,コーヒーのおいしい店というのが,いっぱいあった。布ドリップで一日分を仕込み,後は客に一杯ずつ温めて出してくれる店があった。そのコクといったら,なかなか味わえないもので,クリームを入れると更に味が変わった。

そんなコーヒーに全神経を使った店が,いまやどうでもいい機械出しのコーヒーショップに変わってしまった。ドトールとスタバと比較することはほとんど意味がない。あれは,コーヒー風味の飲み物に過ぎない。インスタントがそうであるように。

ほんとうのコーヒーを探すほどの酔狂ではなく,ただ場所を借りるつもりで,スターバックス,ドトールコーヒー,タリーズコーヒー,ベローチェ,サンマルク,プロントと渡り歩く。しかし,昔の喫茶店ほどにも落ち着けず,早々に逃げ出してしまうことになる。

コーヒーもどきを売って,コーヒーショップというのは詐欺だが,しかし消費者があれがコーヒーと認めたのだから,コーヒーなのだろう。

ルノアールがコーヒーではなく,くつろぎをもらうつもりでいく店であるように,コーヒーショップは,時間調整の場所でしかないのだろう。

大体,コーヒーショップで紙のドリップやサイフォンを使っているような店は,プロとは言わない。素人が自宅で出せるものを出して,コーヒーショップとして,大金を取るのは,詐欺だ。しかし,昨今プロフェッショナルは,どの世界にもいなくなった。

小説の世界でも,ベストセラーになったら大家だと勘違いしているのが大勢いる。しかし,それを見とがめる批評家のプロもいなくなって,どの世界も,夜郎自大だらけになった。というか,夜郎自大だらけになると,まっとうな人間が,異端になる。

さて,かつて,仲間と一緒に喫茶店,コーヒー専門店をやった時期がある。ちょうどコーヒー専門店ブームの頃で,珈琲館が何店もチェーンを連ね,あのルノアールさえも,コーヒー専門店を出店したくらいだ。ただ,カウンターに座った時,カウンター内にいた店員が,注文したアメリカンをお湯で薄めて出してきたのには,ちょっと驚いた。まあ,その程度の知識だったのだろう。

われわれも,ひと様のことを言えた義理ではなく,出店二年で,見事に失敗したが,といっても不格好なことに,一年目は赤字をどう減らすかに悪戦苦闘し,二年目はどう傷を少なく店仕舞いするかに振り回されただけで,その時のことを思い出すと,まだ冷や汗が出る。水商売とはよく言ったものだ。

「水」は「勝負は水物だ」と言われるような,運次第で大きな利益を得たり,損失をこうむるといった,流水のように収入が不確定な状態を指している,

ところから来たらしいが,それは他人事の言い方で,僕の反省では,すでに出店の段階で,勝負は決まっていた,と思っている。誰が通り,誰が客になりうるかといった立地というのも大きいが,どういうコンセプトにし,どういう内装にし,どういうアプローチにするかといった店づくり,調度品・備品の構成,どういう商品構成にするのか,何で収益を得るのか,どう回転率を高めるのか,経営というか店の運営主体をどうするのか等々,それが店の命運を決める,とは一般的には言える。

が,僕は,ちょっと違うと思っている。要は,

覚悟,

なのではないか。ただコーヒーショップをやりたいのか,うまいコーヒーを提供したいのか,そこに寛ぎの空間を作りたいのか等々,それは何でも構わない。決めたら,それをやりきる,何が何でもやりきって貫徹する,というものがなければ,どんなに外見や立地が良くても,それは手段に過ぎない。魂ではない。別の言い方をすると,

こだわり,

あるいは,

執念,

なのかもしれない。たとえば,

コーヒーと呼ぶか,珈琲と呼ぶか,カフェと呼ぶか,

どちらでもいいのではない。どっちを取るかで,その思いが違う。こだわりが違う。そこにこだわりがなくてはならない。コーヒーを提供するとは,そういうこだわりを提供することだ。

僕は,いま思うのは,コーヒーの淹れ方一つでも,プロフェッショナルはある,という当たり前のことを思い知らされる。われわれは結局素人であった。

ひよっとしたら布でも,紙でも,サイフォンでも,何でもいいのかもしれない。少し薄目なのか,ぬるめなのか,濃い目なのか,そこにもこだわりがあっていい。その先に道具が来る。

プロフェッショナルとは,執念だと思っている。梃子でも動かない自恃である。こだわりである。おのれの信念を捨てたら,それは素人になる。

しかし,素人は,素人であるとは気づかない。

プロフェッショナルは,自身がプロフェッショナルでなくては,そのプロのプロたる所以がわからない。蟹はおのれの似せてしか穴を掘れない。

そのとき仕入れていたコーヒーは,キーコーヒーだったが,長く舌がその味を覚えていて,何年か後,ある大きなコーヒー店で,ブラックで飲んだ舌が,それだと教えてくれた。嫌な顔をされたが,店の人に聞くと,わざわざマネージャーが出てきて,不承不承キーコーヒーと肯った。それだけが,残った遺産かもしれない。


今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm



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posted by Toshi at 07:39| Comment(0) | コンセプト | 更新情報をチェックする
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