2014年06月15日
立つ
立つの語源は,「タテにする」「地上にタツ」らしい。立つ,建つ,起つ,発つ,は中国語源に従うとある。これと別系統で,「タツ」というのが,裁つ,絶つ,断つ,とある。これは,タチ切ル,のタチから来ているらしい。
では,立つの意味は,というと,これが凄い。広辞苑(電子辞書版)をベースにいくつか加えると…。
1事物が上方に運動を起こしてはっきりと姿をあらわす
①雲・煙・霧などがたちのぼる 「霧が立つ」
②月・虹などが高く現れる 「月が立つ」
③新しい月・季節がくる 「春が立つ」
④波・風などがおこる 「風が立つ」
2物事があらわになる,はっきりあらわれる
①高く響く 「声が立つ」
②人に知れ渡る 「名が立つ」「目立つ」
③はっきり示される 「値が立つ」「押し立てる」「打ち立てる」
3作用が激しくなる
①湯がわきたぎる 「湯が立つ」
②激しくなる 「腹が立つ」
③起こる,生ずる 「不思議立つ」
④切れる 「切り立つ」
4(「発つ」「起つ」)ある場所にあった物がそこから目立って動く
①たてに身を起こす 起き立つ」
②毛などが逆立つ 「逆立つ」
③身を起こしてそこを離れる 「座を立つ」
④まかる,退出する 「承りて立ちぬ」
⑤出発する 「京を立つ」「早立ち」「旅立ち」
⑥鳥が飛び去る 「飛び立つ」
⑦勇気をもってことを起こす
5ものが一定の,たてに真っ直ぐになってある
①足などで体がまっすぐに支えられている 「火中に立つ」
②草木などがまっすく生えている 「電信柱がたつ」
③とげ・屋などがたつ 「矢が立つ」
④丈の高いものが位置を占めている 「山が立つ」
⑤とどまる,たたずむ 「辻に立つ」
⑥地位を占める 「先頭に立つ」「優位に立つ」「苦境に立つ」
⑦要な役目・地位につく 「教壇に立つ」「選挙に立つ」
⑧位に即(つ)く,位に昇る 「后に立たせ給う」
⑨戸,ふすま,扉などが閉ざされている 「襖が立つ」
⑩突き出た形のものができる 「霜柱が立つ」「角が立つ」
⑪目的をもってある場所に身を置く 「街頭に立つ」
6(建つ)事物が新たに設けられる
①建造物が造られる 「家が立つ」「銅像が立つ」
②初めて設けられる 「市が立つ」
7物事が立派に成り立つ
①用にたえる 「役に立つ」「御用に立つ」
②そこなわれずに保たれる 「「男が立つ」
③やっていける 「暮らしが立つ」
④道理・筋道が通る 「理屈が立つ」「見通しが立つ」
⑤はたらきが優れている 「筆が立つ」「弁が立つ」
⑥目標などが定まる。 予定が立つ」「計画が立つ」
⑦割り算で商が成り立つ 「六を二で割ると三が立つ」
8物がたもたれた末に変わって無くなっていく
①炭火・油などが燃え尽きる 「蝋燭の立つ」
②(経つ)時が経過する 「月日が立つ」「一年が立つ」
9他の動詞について,その行為が表立っていることをあらわす
「思い立つ」「いきり立つ」「はやり立つ」「急き立つ」「競い立つ」「気負い立つ」「勇み立つ」「力み立つ」「奮い立つ」
すっごく単純に言うと,具体的に横たわっているものを「立てる」,という意味が抽象度が上がっても,そのままの意味を保っている,というと大雑把すぎるか。
もともと坐っている状態が,常態だったのだから,
立つ,
ということはそれだけで目立つことだったのに違いない。そこに,
ただ立ち上がる,
という意味以上に,
隠れていたものが表面に出る,
むっくり持ち上がる,
と同時に,それが周りを驚かす,
変化をもたらす,
には違いがない。
立つ,
には特別な意味が,やはりある。
引き立つ,
思い立つ,
気が立つ,
心が立つ,
感情が立つ,
あるいは,
忠義立て
隠し立て
心立て
という使い方もある。伊達も「取り立て」のタテから来ているという説もある。そう思って,振り返ると,腹が立つ,というように,立つが後ろに付くだけではなく,
立ち会い,立ち至る,立ち売り,立ち往生,立ち返る立ち並ぶ立ち枯れ,立ち遅れ,立ち働く,立ち腐れ,立ち遅れ,立ち竦む,立ち騒ぐ,立ち直る,立ち退き,立ち通す,立ち回り,立ち向かう,立ち行く,立ち入り,立ち戻る,立ち切る,立ち居振る舞い,立ち代り,立ち消え,立ち聞き,立ち稽古,立ち込み,立ち姿,立ちどころに,立ち退き,立ちはだかる,立て替え,建て替え,立ち水,立ち塞がる,立待の月,立て板,立て付け,立て直し…。
「立つ」ことが目立つ,ある特別のことだというニュアンスが,接頭語としての「立ち」に波及している。しかし,
立場,立木,立つ瀬,建前,立て方,立ち衆,立行司,立て唄,立女形,立て作者,立ち役…,
と見ると,「立つ」には,特別な意味がある。詳しく調べたわけではないので,素人考えだが,「立つ」ことが,際立って重要で,満座が坐っている中で,立つことがどれほどの勇気がいることで,目立つことかと思い描くなら,「立つ」には,いい意味でも,悪い意味でも,目立つ,中心に立つ,という意味が込められている。
今日,立つこと,立っていることが当たり前になったとき,
立つ,
と同じような効果のある,振る舞いはなんであろうか。かつて,
立つ,
とは,
(おのれが)やる,
ということを主張するに等しかったとすれば,それと同じことは,いま,
よほど目立つことでなれければ,
誰にも気づかれぬことになる。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
『広辞苑(第五版)』(電子辞書)(岩波書店)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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