2014年06月26日

マインドサイト


ダニエル・J・シーゲル『脳をみる心・心をみる脳』を読む。

キーワードは,マインドサイトである。

マインドサイトについて,こう書く。

マインドサイトとは,自分の心と脳の働きを意識することができる注意集中の形である。マインドサイトをもつことで,心のなかの暗く激しい渦に巻き込まれるのではなく,「いま自分はどんな気持ちでどんな状態にあるか,これからどうなりそうか」に気づくことができます。すると,これまでの決まりきったパターンから抜け出します。いつもと同じような気持ちになり,感情に押し流されていつもと同じ行動をとるという悪循環から抜け出すことができるのです。マインドサイトによって,自分のそのときの感情に「名前をつけて,手なづける」ことができるようになります。

マインドサイトそのものの語義的な定義がないので,憶測になるが,

心を見る眼

という意味と,

心を見るポイント

という意味と,

心のさまざまな側面

というような意味がある,と僕は受け止めた。ただ対自やメタ・ポジションというだけではなく,見方の意味が含まれているように思う。

マインドサイトは特別なレンズのようなものです。

という言い方もあるし,

気づきの車輪,

といって,自転車の車輪のイメージで,中心軸からスポークが外輪へ向かって伸び,外輪の思考,感情,知覚,身体感覚に注意を向けている,その中心軸で気づきを感じる,その中心軸を前頭前野と考えていい,という言い方もしており,マインドサイトの持つ意味の多重性がある。

さらに,手法として,

フォーカシング(自分の心の状態に注意を向ける)

マインドフルネス(瞑想)

が紹介されているので,更に

注意を向ける向け方

という側面でもある。

そして心の表象を,著者は,

自分の心のイメージをつくる「私マップ(me-maps)」

他者の心についてイメージする「あなたマップ(you-maps)」

私とあなたの関係性をあらわす「私たちマップ(we-maps)」

があるとし,

これらがなければ,自分自身の気持ちや他者の気持ちを感じ取ることはできません。

という。この前提としてあるのは,

自分の心をよく知らなければ,他者の心を知ることはできません。自己理解するための力が高まることによって,相手の気持ちを理解して受け入れることができるようになります。脳のミラーニューロンが「わたしたち」という視点を獲得することにより,自己感覚もまた新たな視点を獲得します。心と身体の状態に気づき共感すること,自己を強化して他者とつながり合うこと,個でありながら集団としていられること―これこそが,社会的脳の共鳴回路がつくり出すハーモニーの源なのです。

という考え方なのである。

背景には,最新の脳科学の成果があるが,脳をイメージする時の,

脳ハンドモデル

は出色である。

手の親指を他の指と手のひらのなかに包み込むようにすると,「手ごろ」な脳のモデルができます…。握りこぶしの手のひら側のほうが人間の顔にあたり,手の甲が後頭部にあたります。手首は背骨から脳の根元まで伸びた脊髄と考えてください。親指をピンと立て,他の指をまっすぐに伸ばすと,ちょうど手のひらが脳の内部にある脳幹にあたります。親指を手のひらに折り曲げると,そこが大脳辺縁系のだいたいの位置を示します(両手を同じようにしてもらえば,右脳と左脳の対照的な様子を右手と左手で造ることができます)。その後人差し指から小指をくるっとまるめて元に戻すと,それが大脳皮質となります。

前述の車輪モデルで言う,中心軸,つまり前頭前野の持つ機能が,マインドサイトの機能と重なることに気づく。それには,9つある。

①身体機能の調節 心拍,呼吸,将かなどの私立神経の調節。交感神経というアクセルと副交感神経というブレーキのバランス調節である。
②情動調律 自分の心の状態を変化させて,相手の心の状態に共鳴するよう波長を合わせる。だからこそ相手に思われている,と感じられる。
③感情のバランス調整 感情のバランスを保つ
④柔軟に反応する力 入力と行動の間に「間」を置く力をもち,それが柔軟な反応をつくりだす。
⑤恐怖を和らげる力 前頭前野には大脳辺縁系と直接つながる線維連絡があり,恐怖をつくり出す扁桃体の発火を抑制し,調整する
⑥共感 あなたマップを作る能力。相手の心の状態に波長を合わせるだけでなく,心の中でどんなことが起こっているかを感じ取る力がある
⑦洞察 私マップをつくり,自分の心を知覚する。過去と現在をつなげて,この先何が起こるかを予測する,タイムトラベル装置
⑧倫理観 何が社会のためにいいか,そのためにどんな行動をすべきか,の概念をもつ。ここが破壊されると道徳観念が喪失する
⑨直感 体の知恵へのアクセス。心臓や腸などの内臓を含むからだ内部の隅々から情報を受け取り,「こうしろといっている」「これがただしいとわかる」という直感をつくり出す

要は,マインドサイトとは,脳の,とりわけ前頭前野のもつ能力をどう生かすか,ということだと言い換えてもいい。そのために,

①オープンさ 見聞きした者や心に浮かんだものすべてをありのままに受け容れる
②観察力 経験の中にあってなお自分を観察する力。自己観察によって,自分の生きている瞬間を全体としての文脈からみることができる
③客観性 思考,感情,記憶,信念,意図などの,ある瞬間心にあるものが一時的なものにすぎず,それが自分の全人格をあらわすものではなく,ほんの一面に過ぎないと気づかせてくれるのが,客観性

が,マインドサイトによる心のコントロールのための三要素としている。だから,

心とは関係性のプロセスであり,身体とつながり合うプロセスである。それによってエネルギーと情報の流れを調節するものである,

という定義は,心を実体化しないという意味で,キルケゴールの有名な一節が,瞬時に浮かぶ。

人間は精神である。しかし,精神とは何であるか?精神とは自己である。しかし,自己とは何であるか?自己とは,ひとつの関係,その関係それ自身に関係する関係である。あるいは,その関係に関係すること,そのことである。自己とは関係そのものではなくして,関係がそれ自身に関係するということである。

だから,マインドサイトは,

エネルギーと情報の流れをチェックし,整える,

ためのものと言い換えてもいい。そこで得るのは,

一つ目は,心臓の動きを感じ,お腹の具合に耳を傾け,呼吸のリズムに心を合わせる…身体の状態に耳を澄ますことによって,たくさんの大切なことが伝わってくるということ…。

二つ目は,関係性と心の世界は一枚の布の経糸と横糸だということです。私たちは他者との相互作用を通じて,自分の心をみています。

ということになる。最終的には,マインドサイトで,8つの統合を目指す,とする。

①意識の統合 注意集中する気づきの中心軸をつくりだす
②水平統合 全体思考の右脳と論理,言語の左脳の統合
③垂直統合 あたまのてっぺんからつま先まで,個々の部位の機能を統合し,一つのシステムとして機能させる
④記憶の統合 潜在意識に光を当て意識化する
⑤ナラティブの統合 左脳の論理的物語と右脳の自伝的記憶の統合による,「私の人生はこうだ」と理解する
⑥自己状態の統合 異なった基本的欲求と衝動を抱えた自己を,健全で多層な自己の一面として受け入れる
⑦対人関係の統合 私たちとしての健やかな幸せの状態。共鳴回路によって相手の心の世界を感じ,ともにいる,心の中にいる感覚
⑧時間的統合 未来が読めない,不確かな世界のなかでも,つながりを感じ,心穏やかに生きられる

それぞれが,臨床事例を通して,どう実践的に身に着けていくかが,具体的に紹介されている。いってみると,偏ったり,喪った自分を取り戻し,自分の再生の実践報告である。もちろん読んだだけで,マインドサイトが身に付くわけではないが,自分のボスとしての自分というものを取り戻すとはどういうことなのかが,よく伝わる物語になっている。

自分を取り戻すとは,

自分の一貫したライフストーリーが語れる,

ということなのだということがよくわかるのである。

ただ,最後に,ちょっと気になったことがある。

著者は,自分の核について,

すべての自己の状態の根底には,なんでもありのまま受け容れる核たる無垢の自己(receptive self)があるのではないかと私は考えている。研究者のなかにはこれを,itselfを意味するラテン語の単語ipseにちなんでipseityとよぶ人もいます。Ipseityとは,複数の自己の状態の根底に共通して流れる「自分らしさ」である。

なんとなく,心の中に,

純粋の自分がいる
まっさらな自分がある

という言い方をすることで,世俗的な「自分探し」の「自分」と同じように,自己を実体化してしまったのではないか。あくまで,関係性の中での自分であるからこそ生きる,

マインドマップ

ではないのか。関係性の統合とは,あくまで,メタないしメタ・ポジションを指すのであって,実体ではないはずではなかったか。

もしマインドマップを喩えではなく,実体としてのレンズであったり,実体としての中心軸の自分,としてしまったのでは,それまでのせっかくの議論が胡散臭くなる。自己を関係性の中に徹底して納めなければ,

脳の中の小人,

ホムンクルス(Homunculus)

と同じことだ。自分の中の自分の中の自分の中の自分……。

どこまでもキリはない。

それはともかく,本書が,ナラティヴ・アプローチの参考図書として,セミナーのレジュメに記載されていた意味がよくわかる。それは,ポジショニング次第で,どんな物語を語ることもできる,という意味でもある。自分という世界の多様性と豊かさ,と言ってもいい。

良くも悪くも,本書もまた,著者自身の,

物語

であるのだろう。

参考文献;
ダニエル・J・シーゲル『脳をみる心・心をみる脳』(星和書店)



今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:32| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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