ナラティヴ


アリス・モーガン『ナラティヴ・セラピーって何?』を再読。

「ナラティヴ・アプローチ入門」を受講するのを契機に,かなり前に読んだ,本書を再度読み直してみた。

基本中の基本の再確認だが,結構大事なことを忘れていた気がする。その基本を,おさらいしておきたい。

著者は,イントロダクションで,

ナラティヴ・セラピーは,カウンセリングとコミュニティー・ワークにおいて,相手に敬意を払いつつ非難することのないアプローチとなることを自らに課しています。人々をその人の人生における専門家として位置づけるわけです。問題は人々から離れたものとして捉えられ,人々は本人の人生における問題の影響を減らすのに役立つようなスキル,遂行能力,信念,価値感,取り組み,一般的能力を豊富に備えていると考えられています。
多用な原理がナラティヴな仕事の仕方を支えていますが,私の意見としては,次の二つが特に重要です。ひとつは,絶えず好奇心をもっていること,もうひとつは,あなたが本当に答を知らない質問をすることです。

このことを,この本を読むときに念頭に置いておいてほしい,と勧めている。

さらに著者は,ナラティヴ・セラピーにおいて,

私はも相談者に合うとき,会話の方向性に対する可能性をまるで旅路のように考えることがあります。選択可能な分かれ道や交差点,小道,行路が数多くあるのです。一歩踏み出す度に,前後左右,斜めにと,いろいろな種類の新しい別の分かれ道や交差点が現れます。相談者と共に見出すたびに,私たちは可能性を広げていくのです。どこへ行くか,そして途中で何を捨てていくのかは,私たちに選ぶことができます。いつも違った道に行くことができます。

と。そして,

ナラティヴ・セラピストが相談者にたずねるひとつひとつの質問は,旅路の中の一歩なのです。

と。いわば,共同作業なのである。しかしそのために,

セラピストは,相談者の興味が何か,そして,旅がいかに相談者の好みと一致しているか理解したいと考えます。

例えば,こんな質問をしながら。

この会話は,あなたにとってどんな感じがしますか?
このことについて続けて話をしましょうか?それとも……について話した方がいいですか?
あなたはこのことに興味を感じますか?このことは,時間を割いて話した方がいいでしょうか?

等々。

ナラティヴ・セラピーは,「再著述」の会話または「リ・ストーリング」の会話,

である。ストーリーとは,

出来事が
(過去・現在・未来の)時間軸上で,
連続してつなげられて
プロット(筋)になったもの

である。実は,人は,いくつものエピソードをもっているのに,ひとつの意味でつなげた自分の物語をもっていて,その意味から外れた多くのエピソードは,筋からはずされている。本当は,

すべてのストーリーは同時に存在し得,なにか出来事が起こると,そのときにドミナントである意味(プロット)によって解釈される。

その限りで,

出来事に対して…与えている意味は,自分自身の人生に対する影響力において中立的ではない…,

のである。しかも,

自分の人生を理解する仕方は,自分たちが生きている文化というより広範なストーリーによって影響を受けている。

それには,

ジェンダー,階級,人種,文化,そして性的指向性,

等々がストーリーのプロットを大きく左右する。そのことに,必ずしも自覚的,意識的とは限らない。

では,見つけるべきドミナント・ストーリーに代わるオルタナティヴ・ストーリーは,

代わりのストーリーであれば何でもよいわけではなく,相談者自身によって同定され,相談者自身が生きたいと考える人生に沿ったストーリーでなければなりません。

しかし,

問題をはらんだストーリーの影響から自由になるためには,オルタナティヴ・ストーリーを再著述するだけでは十分ではありません。ナラティヴ・セラピストは,オルタナティヴ・ストーリーが「豊かに記述」される方法を探る…

ことが必要になる。そのために,問題を外在化し(例えば擬人化し),名付け,問題の歴史をたどり,その影響を明らかにすることを通して,

問題に対しいかに対処し,処理したかについての気づきの可能性を広げ,それによって引き出された一般能力と遂行能力に光を当てることになる…,

と同時に,それを通して,

問題と問題のストーリーを支持している幅広い文化の信念やアイデア,それに実践を発見し,認識し,「分解すること」(脱構築)

をしようとする。たとえば,

このストーリーのつじつまを合わせるためには,どのような前提がその背後にあるのだろうか?
このストーリーは,まだ名前も付けていないどんな前提を背景にして成り立っているのだろうか?
問題の生命を支えている,当たりまえと思われている生き方や在り方は,何だろうか?

等々の質問をしながら,

当たり前とされている

ことを分解し,検討する。さらに,

それらの考えは,どのようにして発展してきたのでしょう?
あなたは,これらの考えに納得できますか?
性的・親密な関係における人々の役割について,あなたの信念をいくつか聞かせてくれませんか?

等々。こうした会話を通して,

ドミナント・ストーリーの「荷解き」を助け,異なる視点からそれらを捉えるように援助します。

脱構築の会話で重要なことは,セラピストが「当人の考えを変えよう」としてセラピストのアイデアや思想を押し付けないことです。……セラピストは,答えがわからないがゆえに質問をしているわけですから,好奇心を持ちつづけることになります。

問題を支えている価値観や考え方について,

それが役に立つものか否か,

を明らかにしていく。

役に立たないものだと判断されて初めて,

問題の影響を受けていない期間やユニークな結果(ソリューション・フォーカスト・アプローチで言う例外)

が,クライエントにとっても意味が出てくる。しかし,重要なのは,

ユニークな結果を探るのを急がないことです。人がセラピストに相談に来た以上,問題のストーリーは大きな影響力を持っていて,その人の人生に多大な影響を与えてきたと考えるのが妥当です。セラピストがこれらの影響を探求し,その中で,影響を認識すること…

なのである。だからこそ,

ユニークな結果は,オルタナティヴ・ストーリーの窓口

なのであり,それだけに,

ユニークな結果(ドミナント・ストーリーないし問題の外に位置する出来事)は,セラピストが気をつけて耳を傾けない限り,気づかれないことがしばしばです。人々はこれらの出来事はさして重要ではないと見なす傾向があり,そのことについて早口で話したり,さらっと流してしまうことが多いものです。

ただし,

相談者が注目に値すると認めない限りドミナント・ストーリーにはなり得ない,

ということを忘れてはならない。だからこそ(ここがソリューション・フォーカスト・アプローチとは決定的に異なることだが),

セラピストは,出来事が特別でユニークなものか当人に確かめてもらう必要があります。相談者がそのできごとをいつもとは異なる重要なことだと捉え,ドミナント・ストーリーと矛盾していると考えた場合にのみ,ユニークな結果とみなされる。

そのためにも,

(ドミナント・ストーリーから外れた)……は,あなたにとってどんな意味がありますか?
あなたは,問題が悪化していくのをどうやって止めたんですか?
問題がそれほど支配的ではなく,いばっていないときはありましたか?
問題があなたを止めたり邪魔しようと試みたのに,問題の思い通りにはならなかったときのことを思い出せますか?何が起きたのですか?
あなたが問題に抵抗して,思い通りにやり通したときのことについて話してくれませんか?

といった質問が不可欠になる。

このユニークな結果が後づけられ,地固めされればされるほど,そして新しいストーリーと結びつけられ,意味が与えられるほど,新しいプロットが生み出され,オルタナティヴ・ストーリーがより豊かに記述され…

ていくことになる。

参考文献;
アリス・モーガン『ナラティヴ・セラピーって何?』(金剛出版)




今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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