約束というのは,

括り束ねること
ある物事について将来にわたって取り決めること,約定
種々の取り決め
かねてから定まっている運命,約束事

といった意味がある。日葡事典は,

ヤクソクヲトグル
ヤクソクヲタガユ

という用例があるらしいので,戦国期には使われていたらしい。

これを守るかどうかは,たぶん,その人のコアの倫理観を反映している気がする。あまり迂闊に言うと,お前だって,と突っ込まれそうだが,いったん約束したことは(軽々に約束しがちなところがあるにしろ),何とか守ろうとする。昔,僕自身が切羽詰っていたのに,ある人に頼まれて先輩に御願い事をしていたとき,お前は人の世話を焼いている場合か,と呆れられたことがある。小心ということもある。律儀ということもあるが,その辺りは,その人の価値に拠って立つところがおおきいのだろう。しかし,「約」という字には,ちょっと悩まされているところがある。

『論語』に,何度かこの字が出る。

子曰く,不仁者は以て久しく約に処(お)るべからず,以て長く楽しきに処るべからず,仁者は仁に安んじ,知者は仁を利す(里仁篇)

の「約」は,逆境とか苦境,といった意味だ。しかし,

子曰く,約を以て失(あやま)つものは鮮(すく)なし(里仁篇)

でいう「約」は,節度とか控え目,といった意味だ。古注では,驕者への戒め,新注では,広く人全般の行動を指すが,意味は同じだ。あるいは,

子曰く,君子博く文を学びて,これを約するに礼を以てすれば,亦以て畔(そむ)かざるべし(雍也篇)

でいう「約」は,しめくくる,束ねる,集約するといった意味になる。

同じ「約」でも意味が違う。

ためしに,漢和辞典をひくと,意味としては,

つづめる,つつましい,あらまし,

といった意味になる。おおよそ,

①やくす,一点に向かって引き締める,小さく細くつづめるで,類語に,「束」(たばねて締める)が来る。
②やくす,つづめる,細く小さく締めてまとめる,簡略にする
③やくす,紐や帯を引き締めて結び目をつくり,それ見決めたことを思出し,目印とする,またその目印,取決め
約束は,その結び目の目印を指し,そこから転じて,取決めとなる
④やくす,つつましい,つましく引き締める
⑤あらまし
⑥やくす,二つ以上の数を共通に割る

といった意味になる。



は,一部をくみ上げるさまを表し,

杓(ひしゃく)

酌(くみあげる)

の原字。約は,

糸+勺

で,

目立つように取り上げる

意味で,

ひもを引き締めて結び,目立つようにした目印

を意味する,とある。

要(ひきしめる)

腰(細く日は締めた腰)

と同系という。

考えてみれば,象形文字には,表意がある。

ひもをつぼめる

を広げていけば,確かに,倹約になるし,目印にもなるし,集約にもなる。その意味も広がりは,文脈が変われば,また変じ,時代に合わせて,重みもなくなっているのかもしれない。

約を以て失(あやま)つものは鮮(すく)なし

を,勝手読みすれば,

節約するもの
であったり,
要約するもの
であったり,
束ねる

であったりとても,意味は通ずる。考えようによると,漢字は,汎用性が高い。高い分,いかようにも丸められる。その分意味が広がり,解釈が多様になる。面白いと言えば面白いが…!

参考文献;
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)




今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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