2014年07月29日
墓参
友人の墓参に行ってきた。
電話で,彼の死の報とともに墓の場所を聞いた友人と待ち合わせ,出かけてきた。
横浜から,かれこれ片道二時間の道のりである。酷暑の予報通り,照りつける日差しに辟易しての道中だったが,下車駅に近づくにつれて,天が俄かにかきくもり,いきなり雷鳴と激しい雨に見舞われた。電車が停車して,ドアがあくと,そこから激しく雨が吹き込んで,車内の床とシートをびしょ濡れにするという状態だったが,下車駅では,何とか小降りになった。
あいつが,来るな,
と言っているのか,などと二人で冗談をかわしたほどだが,激しい雷鳴は続いていて,広々とした霊園では雷が怖いが,まあ,行くだけ行くか,と送迎バスに乗り込んだ。
メモリーパーク
というのに初めて出かけたが,山すそを切り開いた,だだっ広い丘陵が,整然と区画整理されている。しかし,雷鳴がずっと続いていて,こんなところで雷に打たれてはシャレにならない,というほどだったが,幸い,当該区画に着いたときは,雨も,雷鳴も少し遠のいていた。
その隙に,何とか見つけようとしたが,区画はあっていたが,番号が違っていた。友人は四桁と聞いてきたが,ここには三桁しかない,と近くにいた係員に言われ,順次探っていったが,見当たらず,呆然と立ち尽くした友人の側へ戻ってみると,その目の前の墓石に,かすかに,うろ覚えのご子息の名前の,ローマ字表記が見えた。近づくと,確かに,友人の姓が読み取れた。
びっくりさせられること,どうやら,不思議なことに,此処だと,呼ばれたものらしい(てなわけはないが)。
自然石を断って無造作に立てたような墓石に,
鳥飛如鳥
で終わる詩句が刻まれ,その下に,小さく,ご子息の名がローマ字表記されていた。彼らしい,ちょっと凝った墓石であった。先に亡くなったご子息の個人名の墓である。ここに,彼は入っている。
雷鳴が近づくとともに,また雨脚が激しくなる中,花を添え,缶ビールを開け,
献杯
して,片づけ始めたときに,本降りになった。
ずっと雷鳴が続いているのに,駅へ戻ると,青空が広がり,陽射しが強まっていた。
帰りの直通電車が時間が合わず,地元へ帰ってからのつもりが,そこでちょっとやっていくことになり,それでまた時間を逃し,結局目当ての直通電車を外して,とろとろと乗り継いで帰る羽目になった。
途中で乗り換える時,座席から立って,ドアまで行ったところで,僕は,ふいに崩れた。すぐに意識が戻ったが,瞬間しゃがんだ自分がどこにいるかわからなくなり,一瞬意識が飛んでいた。友人に言わせると,
腰砕けのように
崩れたという。すぐに,座り込んでいる自分に気づいて我に返ったが,ほんの数秒頭が真っ白で,視界がぼやけていた気がする。亡き友人のいたずらかと思ったが,朝から水を飲んでいなかったせいではないか,と気づいた。
まあ,いろんなことがあった墓参であったが,気になって,詩句を調べると,恥ずかしながら,道元の有名な箴らしく,道元が宏智『坐禅箴』を受けて自ら撰述『坐禅箴』にその一句があった。『正法眼蔵』に収められている,という。
多分墓碑は,
水清徹地兮
魚行似魚
空闊透天兮
鳥飛如鳥
とあったと思う。書きとめたわけではないが,そうか,道元ときたか,と亡くなった彼らしいと思う。
座禅箴
とは,
真実の坐禅の意義を示したもの。「箴」とは処方のことである
という。
「箴」は,意味としては,
布を合わせて仮に留めておく竹ばり
らしく,しつけばりや漢方の石張りも指し,鍼や針と同類。
竹+咸(とじ合わせる)で,深く入り込む意味
らしく,そこから,
いましめ,箴言
につながったものらしい。
で,墓碑銘だが,
水清んで徹地なり 魚行いて魚に似たり
空闊透天なり 鳥飛んで鳥の如し
これだけだとちょっとわかりづらいが,座禅の境地を指している,というのだろう。彼の意図はわからないが,先だったご子息へのと同時に,自分自身への心境のような気がする。全文は,
仏仏の要機 祖祖の機要
不思量にして現じ 不回互にて成ず
不思量にして現ず 其の現自ら親なり
不回互にして成ず 其の成自ら証なり
其の現自ら親なり 曾て染汚無し
其の成自ら証なり 曾て正偏無し
曾て染汚無きの親 其の親無にして脱落なり
曾て正偏無きの証 其の証無図にして功夫なり
水清んで徹地なり 魚行いて魚に似たり
空闊透天なり 鳥飛んで鳥の如し
とあり,偏りなき境地のことを指しているらしいことが読める。只管打坐では,
人脱落して人の如し
との箴があるらしい。
結果として,その墓碑銘に,彼は,自分自身の境地をも刻んだことになった。
まさか,自分が彼の墓参りをすることになるとは,予想もしなかったが,どうやら,これで自分の気持ちもひと段落となればいいのだが。まさに,
鳥飛んで鳥の如し
かもしれない。
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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