2014年09月07日

荒廃


國破れて 山河在り
城春にして 草木深し

という。本当にそうか。最近の広島の土石流は,ダムに頼って,間伐を怠った附けだと,ドイツから指摘されるありさまである。

不意に思い出す。鶴田浩二の「傷だらけの人生」(1970年)という歌を(ちょっと古い?)。

冒頭の科白の部分。。。。

「古い奴だとお思いでしょうが,古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。どこに新しいものがございましょう。生まれた土地は荒れ放題,今の世の中,右も左も真暗闇じゃござんせんか。」

である。小沢一郎が,かつて,これを何気なく口ずさんでいたと聞いたことがある。ここにある,

生まれた土地は荒れ放題

なのである。この歌ができて45年近くたったが,それがいま正鵠を射ていることが恐ろしい。

道路をつくり,新幹線を通し,ダムをつくり,堤防をつくり,防波堤をつくって,さてはて,結局土建屋は一時的に儲かったかもしれないが,失対事業と同じで,あらたな価値を生み出したとは思えない。その結果として,ますます都市部へ人が流れ,地方は,シャッター街と朽ちかけた家が並ぶ。地方の在来線に乗ればわかる。もはや,山河すら,ほったらかされて,荒れ果てようとしている。象徴的なのは,

里山の崩壊

である。それは,田畑と自然の共生する地域社会の象徴でもある。その崩壊は,必然的に社(やしろ)を荒廃させる。

社稷は国の概念より大きい,

といわれる。社稷とは,

社者,土地之主
稷者,五穀之長

という。

社は,

示(祭壇)+土

土は,

地上に土をもった姿,またその土地の代表的な木を,土地のかたしろとして立てたさま,

という。で,社は,

土地の生産力をまつる土地神の祭り,地中に充実した物を外に吐き出す土地の生産力を崇めること

という。

稷は,

禾(穀物)+田+人+夂(あし)

で,人が畑を足で踏んで耕すことを示す,

という,つまり,

土地の神とそこから収穫される穀物の神,あわせて国の守り神

であり,まあ,社稷は,

土地とそこから収穫される作物が国家の基礎

のはずの,その土地が,山河が,風土が,人心が,荒れて荒んでいる。国破れて,山河もないのである。

社(やしろ)の荒廃は,人心の荒廃である。人心の荒廃は,地域の荒廃である。地域の荒廃は,社会の消滅である。それは,社稷そのものの衰滅である。社稷が崩壊して,国が成り立つわけはない。

コンクリートで固め,囲い,ほじくりかえした山河は,到底,自然には太刀打ちできず,いたずらに,無駄なお金が山河に吸い込まれていっただけだ。

思い過ごしだろうか。地方都市へ行かなくても,都心でも,駅前はシャッター通り,真昼間,閑散として人気がない。ちょっと郊外に出ると,限界集落ではない,消滅集落が一杯点在する。そして,鉄道からも,朽ちかけた家屋と,ほったらかされ(村ごとに土地の神と五穀の神を祀っていたはずの),荒廃した社が見える。杜(やしろ)の荒廃は,その土地の人々の生活の荒廃であり,心の荒廃である。つまり,地域社会の崩壊である。

いまもじゃぶじゃぶと,土木工事に膨大なお金を投入しつづけている。一見お金が動き景気がよくなっているように見える。しかし何も付加価値を生まず,税金(借金)を投入しているだけだ。次への展望も希望もない投資になっている。膨らむのは,借金と絶望だけである。地方の人すらいう,

もう道路と橋はいい,

と。それでもまだ続ける。

考えれば,この手で,戦後一貫して,自民党政権は,この国を荒廃させてきたのではなかったか。ダムをつくり(その耐震性が問題らしい),堤防をつくり,防波堤をつくり,山を開削し,トンネルを穿ち,道を蜿蜒作り続け,それに群がるようにしてきた蟻の群れがいる。

いまもそうに違いないが,政治家の,あるいはその私設,公設議員秘書のところに,有象無象が陸続と群がりきたって,何かいい儲け話はないかとたむろしているはずだ。しかし,その政治家も,蟻どもも,この国の未来のありようにも,この国の子供たちの未来にも,向き合おうとはしていない。現実に向き合わない輩に,この荒廃が,人の荒廃,社会の荒廃,家族の荒廃,社(やしろ)の荒廃が見えるはずはない。目をつむったものに,責任をとるなどという発想があるはずはない。

だから,一転,

戦後は間違っていた,

と,その政治体制を戦前へ回帰させようとしている。では,自分たちのやってきた69年はなんだったのか。ただ国土と人心を荒廃させたこの政治はなんだったのか。

そんなことはしっちゃあいない。だって,責任を取った政治家も,要人も,官僚も,(東京裁判を除いて)一人だに見たことはない。

しかし,もはや,肝心の山河は荒廃し,社も朽ち,家も潰え,人も果て,われわれの未来に,帰るべき場所はない。

大袈裟だろうか。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)



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http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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posted by Toshi at 05:13| Comment(0) | | 更新情報をチェックする
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