2014年09月27日
てにをは
「てにをは」は,
弖爾乎波
あるいは
天爾遠波
と当てる。博士家の用いた「ヲコト点」の四隅の点を,左下から順に時計回りに,左上,右上,右下の順に読んだことに由来する(「テニヲハ」となる)。
たとえば,
http://www.robundo.com/robundo/column/wp-content/uploads/2011/03/%E3%82%92%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A6%E3%82%93-%E5%8F%B3.jpg
の図を見れば,一目瞭然。
意味的には,
助詞・助動詞・接尾語に用語の語尾を含めた汎称,主として女子・助動詞。
国語の助詞・助動詞など文節の末尾に付く語の総称。
とある。まあ,膠着語と言われる日本語の特徴である。因みに,膠着語に分類される言語は,日本語の他,
トルコ語,ウイグル語,ウズベク語,カザフ語等のテュルク諸語,満州語,朝鮮語,モンゴル語,フィンランド語,ハンガリー語,タミル語,エラム語,シュメール語,エスペラント語
などがある。
一説では,
「ヘボンがそのように呼びました。」
とある。日本語を学ぶ外国人にとっては,「て・に・を・は」の使い方は,悩ましい問題のようなのである。
「てにをは」には,そのほかの意味に,「てにをは」の用法を指し,比喩的に話の辻褄を指す。
たとえば,「てにをは」があわない,といいうと,
てにをはの使い方がおかしい,
話のあわない,話の筋道が合わない,
という意味に使う。最近では,
リテラシー
という言い方をする。リテラシーは,和製英語的には,
「何らかの表現されたものを適切に理解・解釈・分析・記述し,改めて表現する」
という意味に使われているが,元々は,
「書き言葉を,作法にかなったやりかたで,読んだり書いたりできる能力」
を指していたようだ。英語では 「letter 文字」という言葉から派生させる形でliteracyと言い,いまでは,様々に類推的・拡張的に用いられるようになり,一般的には,
「なんらかの分野で用いられている記述体系を理解し,整理し,活用する能力」
まで拡張して使われるようになっていて,たとえば,
メディア・リテラシー
コンピューター・リテラシー
情報リテラシー
等々という言い方をする。
その意味では,「てにをは」の使い方とよく似ている。
もともとは,「ヲコト点」
乎己止点
は,外国語である漢文を訓読するために漢字に付けた,点・線・かぎ形などの符号である。言ってみると,
漢文リテラシー
の成果なのである。それは,
返り点・送り仮名に当たるものや,読む順番を示したり,送り仮名や句読点,片仮名などで,漢字の四隅や中央に朱や青で書き入れ,たとえば,漢字の右上に点があれば「…ヲ」と読む。平安時代初期から鎌倉時代にかけて,僧の間で経典を読むために盛んに行われた,
という。
それにはいくつかの形式があるが,その一つの博士家では,右肩の上・中の点が「ヲ」「コト」を表したのでこの名称がある。四隅を順に読むと,「テニヲハ」になるので,「テニヲハ点」というらしいのである。
つまりは,こうやって,我々の先祖たちは,漢語を自家薬籠中のものとすることで,日本語というものの言語としての奥行を広げていったわけである。たとえば,
「明治維新に欧米の文明を受け入れて自分のものにしたのも,かつて漢字を通して中国の文明を受け入れて血肉化した経験があったからでしょう。ついでにいえば,現在中国で使われている漢字熟語60パーセントが明治維新に欧米語を受け入れるに当たって日本人が作った和製漢語だとききました。」
というほどに使いこなし,かつての知識人は,漢詩まで自ら作った。だから,真名としての漢字に対して,漢字を借りることで作り出したかなを,仮名と呼んでいる。
しかも,漢字を学ぶだけでなく,漢字を通して,
「日本人は中国から文字の読み書きを教わると同時に,花鳥風月を賞でることも学んだ。花に関してはとくに梅を愛することを学んだが,そのうち自前の花が欲しくなり桜を賞でるようになった。梅に較べて桜は花期が短いので,いきおいはかなさの感覚が養われる。」
という自分たち独自の感性を発見するところまで到達するに至る。
わが国には,文字がなかったのである。漢字をとり入れ,自分たち言葉として読む工夫をすることで,
我が国独特の漢字 仮名交じり文
でき上がってきた。「ヲコト点」は,あるいは「てにをは」は,いわば,日本語の原点そのものと言っていい。「ヲコト点」がなければ,日本語は,ずいぶん貧弱だったに違いない。
ちなみに,この「ヲコト点」のように,位置を利用した書き方は,速記の世界でもあるようだ。ただ速記の場合はスピードが要求されるので,数音の言葉に当てはめ,その点の位置から次の速記文字を書き連ねていくらしいが。
参考文献;
高橋睦郎『漢詩百首』(中公新書)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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